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勇者様と言うなかれ  作者: 大島周防
聖女様編
44/91

23 (暴力的表現注意)

本来でしたらこの章と22章を一緒にすべきなのですが、暴力的表現を読みたくない読者の方もいらっしゃるのではないか、ということで、分けております。未成年の方々、苦手な方は、どうか飛ばしてくださいませ。

「かはっ」


息苦しさに目が覚める。なぜ息ができないのだろう。ようやくうっすらと開いた瞳に、お腹の上に乗っかる黒い影が映った。


影から伸びる両手が私の喉に取り付いている。


霞む目でそれがハリソンだと気づいた瞬間、硬直した。


私の体の変化をいち早くハリソンが察知したのだろう。手が緩んだ。


「へっ、直ぐに殺さなきゃならんと思いましたがな、動けないんならちょっと楽しませてもらいましょうか。」


そう、動けない、動けない。


ハリソンの顔が私に近づく。


私の手はどこ?足は?どこに右手はあるの?混乱した頭で必死に考えるけれど、どこにも感覚がない。


口は?口?どうやって動かすんだっけ?


目は開いてる?


ビリッ。寝巻きの胸元が破れる音がする。首が硬って、見下ろすこともできないけれど。


「なあに、あんたの死体をあの狂人どものところに放り投げておきゃあ、いくらでも罪を被ってくれる。あんたの大事な、大事なキチガイどものところにな。」


いやあ!せっかく、せっかく傷が癒えてきたのに。せっかく、せっかく気持ちが繋がってきたのにぃ!


私の様子を見ていたハリソンが、口が動きそうになったのに気がついた。私の口を、ハリソンの手が押さえつける。あの手が、指が。唇の上を這う。


ハリソンの重みを感じ始めた。


ガブッ!


それはもう反射のようなものだろう。口を押さえる手に思いっきり噛みつく。


ああ、噛みつき方を覚えていてよかった。


「うわぁ!」


痛みでハリソンが叫んだが、食いちぎるまで話してなんかやらない!歯を食いしばった。ハリソンの左手が何度も私の頬を殴る。


痛みと共に感覚が戻ってきたことを感じる。


片手は頭の上だ!両手を突き出すようにして、かがみこむハリソンの目を狙った。


「ぎゃぁ!」


ぬるっとした感覚が私の指の先にある。


私の口を振り払った手で、ハリソンは顔を覆っている。


足が、お腹の感覚が戻ったぞ。足をバタつかせ、ハリソンの体の下から抜け出そうと足掻く。


「いやぁ!!!」


ずっと言えなかった。今こそ叫んでやる。


「いやぁ!!!」


世界中に届け。私は嫌だっ!


ドアが開いて、テオが、ヴァルが飛び込んでくるのが見えた。


全てが暗くなった。


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