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スープを配る鍋の前に、列の最後が見えないほどの難民が並んでいる。私が自らスープの入った食器を手渡ししている横で、女性騎士の一人であるアガサが、
『お名前と年齢、もし家族と一緒にいらっしゃるなら、ご家族の名前も教えてください。』
と、聞き取り調査をしてる。
ベアトリスとキャシーは、スープ鍋を持ってきた後、それぞれのテントに、番号札を打ちつけ、テントの記録をとっている。
有能な兵士達だ。昨日、調理室で、難民キャンプへ食料配給をする役を募ったら、その場にいた女性騎士が全員手を挙げた。砦に来て以来、ずっと調理の任務ばかりで、うんざりしていたらしい。
「そもそも料理なんてやったことないのに。」
と、ベアトリスは文句を言っていた。
全員にお願いするわけにもいかないので、帝国語の話せる人という条件をつけたが、それでも半分以上は残った。帝国語は貴族の子女の教育の一環であったらしい。
どちらにしろ、オスロフが懸念するほど、女性騎士はジェイミー・トラッパーの事件に怯えてはいないことは確かだった。
『明日もありますので、安心してくださいね。』
『急いで食べて体を壊さないように、ゆっくり召し上がってください。』
『近くのテントや同じテントに、取りに来られない人がいたら、ここにある旗をテントの入り口に立ててください。別途お渡ししますので。』
以上を繰り返し、繰り返し話かけながら、震える手にスープを渡す。その場で食べてしまいそうな勢いの子供達。私たちに向かって手を合わす老婆。列は驚くほど早く動いた。
だが、問題の壮年の男性たちがいないな。
列の最後の方にいた老人に尋ねた。
『若い男性もいると伺っていましたが、取りにいらっしゃいませんでしたね?』
老人は、
『動ける元気のある者は、近くの川に水を取りに行かせております。残りのものは・・・私から渡すわけにはいかんでしょうか。皆様にお目にかけるわけにも行かんし、近づけないほうがよいのではないかと。』
と、躊躇いがちに言った。なるほど、砦の女性から遠ざけているんだ。お互いのために。
『ご安心ください。聖女様も私達も自らの身は守れますよ。』
アガサが元気よく答えた。私のことはなるべく聖女様呼びしてね、と、お願いしてある。だが最初から敵扱いはいただけない。
『彼らを癒やし、皆様を助けるのが私の勤めですわ。どうかお気になさらず。ぜひ食料を取りにきていただければ。』
にっこり。そう、皆をたぶらかすのが私の仕事なんだからね。
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今日の作業は終了。惜しむらくは元兵士のお兄さん方に会えなかったことだ。食事を餌にしても出てこないということなら、こっちから出向かないとな。預けて渡すだけじゃあ、実態も把握できない。彼らを抑えることができることを証明しないと、砦内にひきこむことも出来ん。
考えつつ歩いていたら、目の前にヌッと影がさした。
ハリソンだ。もう少し持つかと思ったが、1日でバレたな。ヴァルになんとか気をそらせろと言っておいたのに。怒りで顔があからんでいる。
「イジー様、何故私を無視して難民を助けてるんですか!」
私は困り切ったように眉を寄せた。
「ハリソン様を巻き込むわけにはいけませんわ。神殿に黙って難民に食料を配っているんですもの。神殿に知られたら、罰せられるでしょう。責められるのは私が引き受けますわ。ハリソン様が、難民の事を気にかけていらっしゃるのは十分承知しておりますが、決して表に出ないでくださいね。私が勝手にやったことと言い逃れができますよう。」
ハリソンが何やら考えている。
「イジー様、いつもと違いますな。」
そこかよ。どうやったら難民の女性を引っ張り込む方法でも考えてるんだろうと思ったのに。無視、無視。
「ハリソン様には、神殿に難民の援助物資が足りないことをご報告いただきたいのですわ。医療品や、毛布など、冬を越すために必要なものは数限りなくありますもの。それが入手できれば、難民達にも感謝されるのではないでしょうか?」
ほら、新たな手立てだよ。がんばれよ。万が一神殿が手配してくれたとしても、あんたからは取り上げてやるけどね。
にっこり。
「そうですな。必要なものについては、私から神殿本部に連絡を入れさせていただきますよ。」
私は一歩、ハリソンに近づいた。胸の前で両手を合わせる。
「その時に、食料を配っていることは内緒にお願いできますでしょうか。」
目をぱちぱち。
「ハリソン様のご慈愛を・・・」
ハリソンがぐいっと踏み込んできた。口元が緩んでいる。
「イジー様、私と貴方の仲ではありませんか。お任せください。」
近い、近い、近い。こっちくんな。
笑顔のまま、顔がこわばる。なにとぞ体がガチガチになったことがばれませんように・・・




