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勇者様と言うなかれ  作者: 大島周防
聖女様編
34/91

13

朝早く、テオは街に向かった。恨みがましい目で私と見ながら。んなもん同病相憐むよ。


「あんたも正式に勇者様御一行の会員になったのよ。良かったわね。」


と、言いながら見送ったら、でっかいため息をつかれた。


「ひっそり生きて行けりゃあ御の字だったのに。」


欠伸をしながら、セスが答えた。


「そんだけ特殊な本性してるのに、平凡な人生送ろうなんて烏滸がましいわよ。」


城門から小さくなるテオを見ながら、セスが、


「それで?計略は?」


と、聞いてきた。


「ハリソンに媚び売って、誘った上で、『襲われた』って叫ぼうかと思ったんだけど、それじゃあ、腹の虫が治らない。神殿内部の問題にしかならないだろうしね。それよりは難民を救う、恵み深き聖女様になることにする。オスロフと交渉して、神殿から新たに支援物資が送られてくるまで、砦の食料を借りてまずは、難民を飢えから救う。その経過で、ハリソンを思いっきり苛立たせることにする。あいつのやってることはきっちり暴く。」


「媚びを売るあんたを想像できないけど、恵み深き聖女様になるあんたの方がもっと想像困難ね。新たな支援物資っていつくるの?」


「いつかくるでしょ。」


セスが息を呑む。


「来ないんじゃん!」


「砦の食料が不足したら、王都が黙ってないでしょ。いざとなったらヴァルと殿下がどうにかするわよ。街の状況がわかったら、聖女様は街の神殿に降臨して、寄付を募る。それとも供物を捧げてもらうかな。」


「・・・・・」


さてと、オスロフに面会にいこうっと。



「と言うわけで現在の難民キャンプのほとんどが女性と子供達、そして無害な老人です。オスロフ様がご懸念の壮年の男性は20人にもいたりません。彼らをみすみす死なせてしまうのは、神殿の権威にも関わります。早急に必要な品については神殿本部に連絡を入れておりますので、近日中に到着するでしょう。その前に、食料だけでも配って、神殿が、難民たちを非常に心配していることを示したいのです。」


オスロフが、にっこり微笑みながら返事をする。


「了解いたしました。神殿から連絡があり次第、食料の配給をお手伝いいたしましょう。」


ちっ。簡単には引っかからないか。


「まあ!難民の状態を見ましても、火急の状態といわざるをえませんの。なんとか今日明日にも配給を始めるわけにはまいりませんでしょうか?」


「イザドラ様、先日ご案内した時と、雰囲気が違いますな。」


オスロフが首をひねる。ほっとけよ。


「様などと・・・私元々平民の出ですのよ。イザドラとお呼びくださいませ。先日は・・・長旅の後でちょっと疲れておりましたの。」


「そうですか。」


「まずは、こちらで貯蔵している乾パンを非常食として配りつつ、難民の状態を確認、数も数え直しが必要ですの。それをやるにしても、『食事を配るぞー』って叫んで回るわけにもいきませんでしょう?テントを一つ一つ回っていくのも効率的ではありませんし。ですから、スープの鍋を設置して、そこに難民が自ら来るようにしむけたいのです。三日もあれば、難民の現状が把握できますわ。私が自ら配りますので、まずはその分をなんとか。兵士の食事とは時間をずらしますので、調理部の方々にお手伝いいただくことはできませんか?」


「無論調理の担当はできます。現在、新しく来た部隊が調理の担当ですが、女性が多いし、ちょうど良いでしょう。補給の食料が来ればね。」


畜生。それじゃあ間に合わねーよ。言葉を探している時に、殿下が入って来た。


「「リオン殿下。」」


オスロフが立ち上がって殿下に敬意を表したので、私も一緒に立った。殿下の目が、私に今までそんなことしたことないじゃん、と言っている。


殿下が片手を振って、私たちに席に着くように促した。


「陛下に砦の人員を増やすことを相談した結果、こちらの要望を聞き入れ、近日中に補給を増やすとのお言葉をいただいた。」


オスロフが感激の声をあげる。


「なんと、ありがたきお言葉!痛み入ります。」


すかさず、私も謝意を表した。


「陛下のなんと慈悲深いこと。感謝の念に耐えませんわ。神殿からもすぐさま御礼申し上げねば。これで、難民への食料配給もすぐさま行えますわ。オスロフ隊長、ありがとうございます。」


「いや・・・来てから・・・」


「まあ!まさか陛下のお言葉をお疑いになるわけでは御座いませんよね。」


私が畳み掛けると、殿下が援護してくれた。


「私がこの砦にいるのです。陛下が私たちに不自由を強いることはありませんよ。」


勝負あった。


「それでは、まあ・・・」


「では早速、調理部と話をしてまいりますわ。では、後ほど。」


突っ込まれないうちにサッサと下がろう。優雅に一礼して、私は部屋を出た。殿下もなぜかついて来る。


部屋の外で、殿下が小声で、


「聖女ごっこしてるの?」


と、聞いてきた。失礼な。


「これから当分これで行くからね。吹き出すんじゃないわよ。」


ああ、肩が凝る。首をぐるぐる回して緊張をほぐす。


「そういや、ずいぶん手際がいいわね。もう陛下から配給の許可が降りたの?」


殿下の口角が上がる。


「今手紙書いてるとこ。」


「来ないんじゃん!」


なんか聞いたようなセリフが出てきた。


「大丈夫だよ。陛下に絶対『うん』と言わせるから。ヴァルがこの砦に長期で駐在するつもりなのは明らかだから、私もここに腰を据えるよ。砦に王家の象徴がいれば、民も集まりやすいだろ?」


いろいろ考えてるんだねぇ、少年。ともかくヴァルに調理班と難民ケアの手伝いのために騎士を回して欲しいと相談しなくては。ついでに、ハリソンの足止めもお願いしよう。


私と殿下の足が早くなった。



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