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ハリソンからの夕食を共に、という誘いは断った。もともとの予定通り、食堂で配給された夕食を持って、ヴァルの部屋に集まった。それぞれの今日までの体験を元に、話し合うべきことは色々ある。
テオも引っ張りだされて、
「俺みたいな身分の者が」
と、恐縮しているけれど、ヴァルが否した。
「砦で働くものは、全て職務、階級の如何にかかわらず、皆食堂で同じ物を食べているのだ。気にすることはない。」
「殿下は?」
セスがヴァルに問うと、ヴァルが答える。
「オスロフ隊長と一緒のはず・・・」
その言葉が終わらないうちに、ドアをガンガン蹴る音と、殿下の、
「開けてー!」
の、声がした。テオが立ち上がって、食事のトレイを横に置いてドアを開けると、同じくトレイを両手に抱えた殿下が立っていた。両手が塞がっているので足を使ったらしい。
ヴァルが、
「オスロフ隊長は?」
と、聞くと、殿下は
「新しい隊員達と交流を深めてください、ってお願いして、私はこちらに来ることを了解してもらった。隊員達に色々説明しながら食事してるから、しばらく忙しいと思うよ。」
と、言いながら、ニヤッとした。ふっふ。私の教育もまんざら捨てたもんじゃない。なかなか順調に育ってるじゃないの。
椅子が足りないので、それぞれ床に陣取りながら食事を取る。西の森の食事を考えるとなんてことはない。唯一ある椅子は、殿下が断ったので、セスが使っている。
「で?どこまで話が進んでるの?」
殿下が問う。
「いや、先に食事を、ということで、まだ何も話しあっていません。聞き逃しはありませんよ。」
ヴァルが殿下を安心させた。
「そう。」
そのまましばらく口を動かす。あ、そうだ。
「ヴァル、今夜秘密裏に城門開けてくれる?」
ヴァルが、問いかけるように眉を上げた。上手くなったじゃない。
「なんでだ?」
「キャンプの子供にあたりをつけたからハリソンに知られないように、外に出たいの。」
「ハリソン?」
殿下が尋ねる。
「司祭よ。神殿側の難民キャンプの担当なんだけど、どうもね・・・ろくなことしてない気がする。」
「根拠は?」
セスが疑問を口にした。
「難民にしてみれば、大事な食料源なのに、ずいぶん嫌われてるんだよね。アイツの姿を見ると皆が逃げ出すぐらい。それにねぇ、背に腹は変えられないって事態なのに、改宗しなきゃ食料を配分しないっていうのも変なら、難民側も、改宗を拒否してまで、その命綱を絶っちゃうってのも分からん。私ならホイホイ改宗したふりするよ?裏で舌を出してさ。」
セスとテオが同意とばかりに頷く。だよね。
「とにかくハリソン抜きで難民たちと話をするわ。城門開けられる?」
ヴァルが答える前に、セスが手を挙げた。
「あそこは、弓部隊の担当だから、私が開けたげるわ。城壁に関する一連の任務は全て弓部隊が担当してるのよ。城門の守りは結構退屈な作業だから、私が交代するっていえば、大丈夫でしょ。」
ありがたくお願いしよう。
「じゃあ、9時ぐらいでどう?」
「了解。」
これでどうにか、外に出れる。
「私も行こう。」
ちょっと考え込んでいたヴァルが私の方を向いた。
「いや、一人で行くっていったからなぁ。ヴァルと一緒だと怖がられるかもしれん。」
まず確実に怖がられるだろ。
「だが、うちの騎士が襲われて殺害されたことを考えると、イザドラ一人では危ない。付いて行こう。」
セスが、首をかしげた。
「それだけどさぁ、ほんとに難民の犯行なの?弓の奴らはちょっと・・・信じられないって風だったけど?」
珍しくテオも口を挟んだ。
「厩の下男達も疑わしいみたいなこと言ってましたよ。なんかねえ、まともじゃない奴だったから、ワーワー騒ぐことはあったけど、そんな大それたことができるようには見えなかったって。痩せこけてて、それこそ騎士を倒すような力あったのかねぇって。」
皆の意外そうな視線をうけて、テオの話が言い訳じみてきた。
「まあ、ここんとこ砦もなんも起きてないし、退屈してるんでしょうね。騎士殺害事件は未だみんなの口によく上がるんですよ・・・」
ヴァルは落ち着いて答える。
「いや、皆の噂話を聞かせてもらうのはありがたい。トラッパー卿は、そうだな、あまり強い騎士ではなかったから。不意をつかれたら・・・防ぎきれなかったかもしれん。」
私も疑問を挟む。
「まあ、皆が皆ヴァルのようにはいかないだろうけど・・・それでも騎士としての訓練は受けてたんでしょ?やられるかねぇ。それに、難民達に不意をつかれるのは相当難しいと思うよ。近くに来たら強烈な匂いですぐわかるから。」
ヴァルは少し考え込んでいたが、
「念の為だ。やはり私もイザドラに同行するよ。」
「私も行く!」
今まで黙って話を聞いていた殿下がいきなり立ち上がった。
「・・・い、行くからね!砦のことも難民のことも一杯勉強しなきゃなんないの!ここの責任者になるんだから!置いてったらひどいからね!9時だね!?行くからね!」
そう言うと、殿下は、空の食器を持って、ズカズカと部屋を出ていった。
断り損ねた。
セスがため息をついた。ヴァルに、
「慕われてるわねえ。」
と、苦笑いを向ける。ヴァルが、自分に言い聞かせるように呟いた。
「幼くして母上を亡くしていらっしゃるからな。」
私とセスは、顔を見合わせる。ぶわっはっは!
「「あんたに母性を求めてるって!?」」
ヴァルの手から食器が飛んできた。




