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勇者様と言うなかれ  作者: 大島周防
聖女様編
28/91

7

見下ろした私の服、ちょうど胸のあたりに黒い埃が付いている。へーえ。音が派手だった割には痛みも、大したショックもないけど。私が何かいう前にハリソンの怒鳴り声がした。


「聖女様に何をする!このガキどもが!」


怒鳴り声の向けられた先を見ると、怒りに顔を歪めた男の子と、その背中に隠れるように縋り付く女の子がいた。どちらもボロ布を腰のあたりで荒縄で結んだだけの格好で、靴の代わりに、足元も布を巻きつけたものを纏っている。


男の子の口から出た言葉は、ハリソンに向かっているようだ。


『母さんに近寄るな!』


帝国の言葉だ。


「聖女様は、皆の生活に心を痛められ、わざわざおいでになったんだぞ!石を投げるとは何事だ!」


石じゃないと思うけどどね。


『母さんのテントに近寄るな!』


少年の視線がハリソンの顔から動かない。ということは、狙いは私じゃなかったということでいいのかな?後ろの女の子は必死に男の子の服の裾を引っ張っている。


『お兄ちゃん、駄目だよ。逆らっちゃ駄目だよ。』


女の子が囁く。この子達は兄妹か。


ハリソンが腕を振り上げながら、一歩踏み出した。


「えーい、訳のわからん言葉を使うんじゃない!」


ふん、こいつ帝国の言葉はわからないってことでいいのね。


ハリソンの腕が振り下ろされる前に、私が前に出た。


少年の胸ぐらをつかんで揺さぶる。


『私の言うことわかる?』


顔だけは怒り満面だ。


『わかるかって聞いてんのよ!』


そのまま少年の体を持ち上げる。こんな細っこい体なら、私でも簡単にあげられるな。


少年の体が浮く。女の子がその少年の体に両手を伸ばして必死に取りすがる。


『やめてー!』


私は手を緩めない。


『聞かれてることに答えろっていってんのよ!言ってることわかる?』


少年が何度も頷いた。


取り敢えず地面に戻した。軽いとはいえ、普段の運動不足は祟るな。


ハリソンが驚いたように声をかけてきた。


「イジー様は帝国の言葉がお分かりか。流石ですな。」


煽てるハリソンに笑顔を返しながら、


「まあ、会話程度ならね。ここの尋問は任してもらっていい?」


と聞いた。こちとら図書室にずっと居座ってたんだ。帝国の書物も読み漁ったよ。


ハリソンは、私に少年たちを譲る。


「どうぞ。恥ずかしながら、私は帝国語は分かりかねますので。」


キャンプの責任者なら多少できてもバチはあたらんと思うけどね。ま、いっか。こいつが言葉がわからないのなら、都合がいい。とはいえ理解してない振りをして騙してる可能性も考えて、ハリソンの表情を念入りに伺う。


ハリソンを視界に入れたまま、少年の尋問を開始した。少年に向かって屈み込む。


『どこいってたの?』


何度か聞き返して、ようやく返事がもらえた。


『街。』


『物乞い?』


『そう。』


『収穫は?』


少年の肩がちょっと固まったが、背中に担いだ袋を気にしているところを見ると、少しは得る物があったんだろう。


『さっき私が出てきたテントがあんたの住処?』


嫌そうに少年が答える。


『そう。』


ここからが正念場だ。


『今夜遅くに私だけで戻ってくるから、テントにいなさい。話はその時に聞く。』


なるべく短い言葉でそう言い放った時もハリソンの表情に変わりはない。多分大丈夫だ。少年の目が少し大きくなる。


『わかった?』


少年がコクリと頷いた。まんざらバカではないらしい。


腰を伸ばして立ち上がった。


ハリソンが、


「もう宜しいので?なんと言っていたんですか」


と、聞く。


「街まで物乞いにいってたんだって。子供に聞いてもあまり収穫ないわね。他にはいないの?」


そのまま子供達を無視してハリソンに近づいた。


「キャンプにいるのがほとんど女子供なんですよ。もともとあまり男はいないんです。男の大半が老人ですよ。働き手になりそうな男は数えるほどしかいないはずですが、そいつらも・・・」


そういいながら、ハリソンが右手をあげて、頭のすぐ横で人差し指でくるくると渦を巻いてみせた。


「頭おかしいの?」


「戦場に徴兵されて、生き残ったんでしょうが、使い物にならない奴らばかりですよ。」


ふむ。


「女性騎士を襲ったのはそんな奴だったの?」


ハリソンの頬が引き攣った。割と顔に出やすいんだ。


「ええ、狂った奴らの考えることは分かりませんよね。」


視界の隅で少年と少女がテントに潜り込むのが見えた。


「ですね。」


私たちは、手当たり次第、テントの毛布をめくってみたが、話の聞けそうな大人は見つからない。どのテントも鼻につく匂いがするだけだった。


そういや私もこんな匂いをさせてたことがあったっけ。


収穫のないまま私たちは砦の中に戻っていった。


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