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「なんで俺なんすかねぇ。」
テオが馬車を操りながらぶつぶつ文句を言っている。ハッハ。皆巻き添えにしてやる。
陛下から無事許可をもらったリオン殿下と私は、私が指名したテオの馬車で、ノーザンクロス砦まで移動している。ヴァルは新たに砦に赴任する30名ほどの部隊を騎乗で指揮していた。30名のうち、半数は女性騎士だ。セスが顔ぶれを見て、ため息をついていた。
「なんか、張り合いないわー。」
そういうセスは、身の回りの世話をするという、初老の従者以外、誰も連れてきていない。弓部隊の人事はどうなってる。やる気あるのか。
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一週間かけてようやく辿り着いた砦は・・・荒れていた。
王都に比べて10度は低い気温のせいなのか、灰色の空を背景に聳え立つ防御壁は、薄汚れている。その壁沿いに、寄り添うようにいくつものテントが並んでいる。テントといっていいのか?大半はその辺で拾ってきた枝や木材に、ボロい毛布がかけられているだけのものだ。城壁の周りには人が二人ぐらい並んで通れるぐらいしか平地がないというのに。壁沿いのテントは隙間なく城壁を囲んでいる。
これが難民キャンプらしい。
寒さを凌ぐかどうかも疑わしい毛布の影から、いくつもこっちの様子を窺う目があった。
殿下が息を呑むのが感じられた。貧困を知らない訳ではなかったけど、私もここまでの極貧は知らない。少なくとも私には屋根があった。
いくら貧しくとも、子供の好奇心は変わらない。この寒さの中、裸足でボロをまとった子が、毛布の間からひょっこり出てきたかと思うと、珍しそうに騎士達を眺めている。お腹を空かせているのだろう、その両手を目の合った騎士の一人に伸ばそうとしたとたん、後ろから出てきた手に、毛布の中に引っ張り込まれていた。
女性騎士が、ガサゴソと手元の袋を探っている。多分食料でも恵むつもりなんだろう。
その動きをヴァルが止めた。
「根本的な解決にならんばかりか、争いの種になりかねん。控えなさい。」
そりゃ尤もだ。だからといって納得のいくもんでもないだろうけど。
加えて言わせていただくなら、まず一番最初に差し伸べられる手は聖女様のもんじゃないとまずい。とはいえ、恵むべきものは何もないが。どうすべい。
ヴァルが、閉じられた城門の横に張り出している側防塔の隙間のような窓に向かって声を張り上げた。
「リンデン王国第三師団、支援部隊が到着した。代表はリアム・リンデン殿下である。開門を願う!」
その声に応じて、恐ろしく重そうな扉が開き始めた。
ギー。
耳に触る音だ。
「うわぁぁぁ!」
どこかのテントからくぐもった叫び声がする。なんで?
だけど叫び声はあっという間に押さえつけられたようだ。ああもう。なんかすごく先行き悪い。ほんとこれどうすべい。乗り越えられる試練じゃないんかい。




