17
森が襲ってきた。そうとしか言いようがなかった。あたりにはなんの気配もない、ただの木々の間を通るゴツゴツと足場の悪い獣道で。
なかなか腕を振るう機会がないな、などと考えながら、日差しの柔らかい中を一列に並んで進んでいたのに。
ヒュッ、という音とともに、飛んできた緑のツタ。とっさに掴んだ剣で振り払う。だが、イザドラとテオはすでにツタに絡め取られており、足からぶら下げられたかと思うと、いきなり近くの大木に縛り付けられた、というか、木の幹にまるで飲み込まれたように見えた。イザドラの顔だけが、幹の間から見えている。テオの姿は、ツタと幹に遮られて、全く見えなくなった。
馬は鳴き声も上げずに走り去る。
殿下は頭をかかえて地面にしゃがみこんでいる。標的が小さいからだろうか、ツタも殿下を掴み損ねたようだ。
アプレイウス師が手に持った杖を振り回しながら、次々と火を放ち、ツタ燃やしている。セスは目にも留まらぬ速さで次々と矢を放ち、ツタを避けている。あの細い標的に当てるとは凄腕だが、このツタを送り込んでいる本体を殺らねば先は見えている。本体のありかを探りながらも、殿下と私に向かってくるツタを両手に持つ剣で斬りはらおうとするが、しなやかなツタはなかなか切れない。
「ドウッ!」
ツタの一本が、アプレイウス師の脇腹に入った。あの声だと、速度も相まって、かなりの衝撃を受けるのであろう。
頭上に影が差す。私は殿下を抱えて横っ飛びに飛んだ。
ダーン!
巨大な爪が、私たちが今いたところに落ちてくる。爪には節くれだった緑の三本の指が、そして鱗に覆われた長い腕が付いていた。
「地龍!」
イザドラが声をあげた。
「水!氷!」
その声を最後に、ツタがイザドラの顔を完全に覆いさった。イザドラの最後の声を無駄にするものか。
セスが5本の矢をつがえることのできる弓で、龍の頭を狙う。だが、放たれた矢が届く前に、竜の口から炎が飛び出し、セスのいた場所にオレンジの炎が舞い上がった。
セスは既にツタの攻撃を避けながら、後退していた。彼の弓であれば、至近距離である必要はない。
アプレイウス師は、龍の口に向かって、鋭い氷の刃をいくつも放っている。その内の一本が、龍の頰を掠め、血しぶきが舞った。
効果がある。
私は殿下に、
「氷の魔法を!」
と、呼びかけながら、前方に飛び出した。龍の頭を引きつける、その思いだけに突き動かされて。
「邪魔だー!」
両手の剣を風車のように回しながら、ツタを切り裂く。私の頭上をセスの放つ矢が飛んでいく。
太いツタがこちらに向かって忍び寄ってくる。私はそのツタに踏みつけるように飛び乗った。ツタが私を振り払うように動く。左手の刀をツタに突き刺し、しっかりと足を踏みしめる。
落とされるものか!そのまま空に舞え!龍に向かってのたうつんだ!
龍の頭に近づいた瞬間、右手の刀だけを持ってツタから飛び上がった。
たとえ体は強靭な鱗に覆われていようとも、口の中は別のはず。ひたすら口を目指して、刀を突き上げた。
ガッキーン!
私の剣は、龍の閉じられた顎で押さえつけられている。だが、口を閉じている限り、炎を放てまい!私は龍の鼻先に飛び乗ると、そのまま剣をねじ込もうと力を入れる。
龍が頭を振って私を払い落とそうとする。首が上がる。今なら喉元ががら空きだ!氷を放て!と、アプレイウス師の方に目をやった。
師は、数本のツタに絡め取られ、身動きができなくなっている。セスが短刀で、そのツタを切り落とそうと悪戦苦闘しているのが見えた。
ダーン!
地龍の尾が、アプレイウス師を、真上から叩きつけた。




