21話 手が付けられないマッチョとか現実の軍隊にはいるのかな?
ワシの名はグランクス・ガナート!
勇気の天使を持つから崇められとるが、そんなことはどうでも良い!
久しぶりに歯応えのあるやつと戦えるのではないかと、ワシの筋肉が高ぶっとるわ!
がっはっは!
身長が二メートルを超える大柄な体格と、盛り上がった筋肉がワシの自慢じゃ。白髪交じりで額から禿げた頭は、神気でもどうにもならんかったから気にするな。
あまり体に合う服も少ないからいつも上半身は裸が良いのじゃが、王宮のやつらはいつもうるさく言いよる。まあ、国を出たあとに脱ぎ捨ててきたがな!
ワシは相棒のレッドタイガーに跨がり荒野を疾走しておる。
レッドタイガーは白い体毛にその名の通りの赤い紋様をを持つ虎じゃ。昔に悪魔に憑かれて悪さしとったとこを、ワシが浄化たら懐きよっての。そいで飼っておったら神獣化した可愛いやつじゃ。
ワシの全力ほどとはいかんがそれなりに早く走りおるから、移動手段としては重宝しておる。
今回の相手は強い悪魔に加え天使とも戦えるかもしれんと聞いて、いつでも全力でぶつかれるようにしておきたいからの。別に楽したいとかワシが方向音痴で自分で向かったら迷うというわけじゃないのじゃ。
こやつは鼻が利くからのう。見知った匂いの相手なら場所を辿れるんじゃ。今はそれを頼りにしておるが迷っておる訳ではないぞ?
左斜め前方に上空を移動する大型船を見つけた。船に結界を張って浮遊させて高速移動しとるようじゃ。
ありゃ、エクなんとかっていう天使のボウズの乗り物じゃねぇか。ということはこれが合流相手で間違いないじゃろう。
合流地点はまだ先かもしれんが、結果的に合流できたから万事問題なしじゃ。
「ちょっくら挨拶しに行くか! 行くぞ! レッドタイガー!」
「ガウガウ!」
レッドタイガーがワシの呼びかけに応えると加速して船まで追いつく。そして空高く跳躍すると船の結界を上に乗っかった。
「おい! エクなんとか! おらんか? ワシじゃ! グランクスじゃ!」
船の中へ向けて大声で叫ぶと、面倒くさそうな顔をした仏頂面の眼鏡が仲間を連れて船の中から出てきおった。
「そんなに叫ばなくても聞こえてますよ。グランクス様。それに僕の名前はエクタクトだと以前も伝えましたでしょう?」
「そうじゃった! そうじゃった! がっはっは!」
名前を覚えられる気がせんが、とりあえず笑って誤魔化しておく。
エクなんとかが結界の一部に入り口を開けて、ワシを船のデッキへと招き入れた。
これでワシらも一息付けるわい。
「お一人ですか? 御付きの方は?」
「王族や貴族連中が護衛を付けるとうるさかったが、足手まといになるから全部断ってやったわい! がっはっは!」
そうやって高笑いをしているともう一人見知った顔が、船の奥から姿を現しおった。
「カーイル・ファンタクスです。お久しぶりです。ガナート師匠、変わらずご壮健で何よりです」
昔、ビクトア王国とノアズアーク法聖国が友好の証として合同訓練を行ったことがあった。ワシはそのときに無理を言って参加したのじゃが、そのときに出会ったのがカーイルじゃった。
こいつは真面目一辺倒で人一倍努力はしとるのだが、上手く力を扱えておらんかった。そのときに気まぐれで稽古を付けてやったのだが、そのときはここまで実力を伸ばすとは思ってもおらんかった。
「おお! カーイルじゃないか! 元気そうじゃのう。何でも最近は聖騎士団の団長をやっとるそうだのう」
嬉しくてカーイルの背中をバシバシと叩く。昔なら簡単に吹っ飛んで転んでいただろうが、今はどっしりと構えて微動だしない。こやつも成長しとるな。
「はい。これもガナート師匠おかげです。今回の作戦にも力をお貸しいただき、感謝に堪えません」
「良いってことよ! ワシはただ強いやつと戦いたいだけじゃしな!」
そしてワシとレッドタイガーは目的地の方向を見る。
ここにいるワシとエクなんとかの神気と同等に近い神気の気配をビシビシと感じおる。
近くには悪魔の気配はせん。伝達通りであるなら、そやつは神気で魔力の気配を消せる悪魔という話じゃった。気配で相手の強さが分からんのは残念じゃが、それが逆に期待を高めてしまうのう。
「ワシ一人でやったら駄目じゃろうか?」
「グランクス様の実力は重々理解しておりますが、今回は合同作戦なので承服致しかねます」
即座にエクなんとかが否定しよった。
「残念じゃのう」
「再度確認いたしますが、今回の作戦は天使奪還が最優先です。僕の結界で対象の足止めと分断を行います。聖騎士団が節制の天使を引きつけて相手をしている間に、最大級危険対象である悪魔の浄化をグランクス様にお願いしたい。その悪魔さえ浄化すれば彼女も行き場所を失い、我々の元へと戻らざる得ないでしょう」
「今更説明せんでも分かっておるよ。まあ、悪魔と戦えるだけ良しとしておこうかのう。それでそやつはおぬしから見てどれくらいの強さなんじゃ?」
「僕も直接目にしたわけではありませんが、神気を操るという今までに見られない能力を有した悪魔です。何をしてくるか分からず、決して油断できる相手ではないでしょう。不測の自体があれば僕がカバーに入りますのでご安心を」
エクなんとかはニヤリとワシにいやったらしい笑みを浮かべてきおる。
「このワシに心配じゃと? おぬしも言うようになったのう! ワシは単騎で嫉妬の悪魔を倒したグランクス・ガナートじゃぞ? まだ心配されるほど年をとっておらんわ! がっはっは!」
高笑いと共に再臨を発動させ、天界から力を降ろして神気を最大限に回復させ気を高めて見せた。
ワシの再臨で結界に小さな穴を開けたせいで、エクなんとかには嫌な顔をされたがそんなことは気にしない。
そんなことより今回戦う相手が強いかどうかの方が気になるわい。
しばらく退屈な時間を過ごして、やっと目当ての相手が目前に迫ってきておる。
ワシは船の舳先に跨がり、その背中にはまとわりつく形でレッドタイガーが寝そべっておる。
この船は目立つ。結界で神気を抑えているとはいえ、相手さんもこちらの存在に気づいておるやもしれん。
「先陣はお主が切るのだろう? エクなんとか」
「エクタクトです。そのつもりです。しかし相手は節制の天使ですので、グランクス様のお力添えをいただきたい」
「かまわんぞ」
エクなんとかの特殊能力は確か……了解を得た相手の神気を使うことができるとか、そんな感じじゃったかのう。こやつが己の天使の力のみで結界を張ったとして、同格の天使が相手では破ることもそう難しくもあるまい。だがワシの神気を少し借りれば天使とて容易に破れぬ強度の結界を張れるという寸法じゃろう。
しかしこやつめ、遠慮なくごっそりワシの神気を持って行きおったわ。
また再臨で回復すれば済む話じゃがな。
「結界による足止めと分断が成功しましたら合図しますので、それまではこのまま待機していて貰えると助かります」
「相分かった」
エクなんとかが前方の結界に一部穴を開けて、そこから遠方へと大型結界の構築を始めた。
それによってこの戦いの火蓋が切られることとなったのじゃ。




