そろそろ死に慣れてきた?
やあ、勇者。そういや、そろそろ死に慣れてきた?まだ?
まあ、そうだよね。普通、死んだら終わりだし。……あれぇ?この前、私に殺されて町に帰ろうとしてなかった?ふーん。私の殺し方が一番痛くないから、ねぇ。ま、いいけど。
ところで、勇者ってかなり嫌な立場だと思わない?一人だけ死ねない体にされて、何度も何度も死んで。それでも皆のためにって魔物を倒し、強くなって一人だけで魔王を倒さなきゃいけない。例え、仲間ができても、ここまでついて来てくれない。そうでしょ?
変な話だよね。普通、一人で行くより、何人かで行った方が魔王倒せそうって思うじゃん?でも、祝福されるのは、一人だけ。一人で行けって、言われてるようなものじゃんね。ほんとふざけてる。
……うん。全部見てたよ。君が寝てる間に、みーんなどっか行っちゃった。ムッキムキの頼りがいありそうな格闘家も、馬鹿真面目そうな魔法使いも、寡黙でしぶーい狩人も、ふざけたことして場を明るくしてた戦士も、あんなに君にすり寄っていた踊り子も。みーんな逃げちゃった。しかも、君の荷物や装備まで持って。
酷いよね。普段君が頑張って、あいつらが倒せない魔物まで倒してたってのに。君には関係ない町や、ちっぽけな村のためにあっちこっち奔走してるのも、仲間になる前から知ってたはずなのに。せめて、頑張れ―とかだけでも残して去れば、多少マシなのにね。勿論、荷物は盗らないで。
だから今日はそんな辛そうな顔してるんでしょ?そんなしょぼい装備なんでしょ?……ごめんね。こんなくだらない仕組みに巻き込んじゃって。まあ、私も巻き込まれただけの存在なんだけど。私が君を選んだわけじゃないし。
選べるなら、あの腹立つ王様を勇者にしてやったね。踏ん反りがえってないで、あっちこっち走り回れば、多少は痩せるでしょ。……でも、あいつに殺されるのはやだなー。
はー。ほんっとに、どうしようもないよねー。この世界。さっさと滅べばいいのに。あ、私が滅ぼせばいいのか。
……駄目?君、優しすぎるよ。じゃあ、強い魔物出すだけにする。君を見捨てたやつらの住むあの町に。君が辿り着くまで苦しめばいいんだ。最悪死ねばいい。……いや、ナニモイッテナイヨ?ホント、ホント。
そうだなぁ。今日だけは、さ。休んじゃお?いっぱい泣いて、いっぱい休めばいい。私も今日は魔王休むから、君も勇者を休めばいい。ここに泊まっていけばいいよ。部屋も、めっちゃ余ってるんだ。この城、無駄に広いから。
……あー。魔王は眠らないから、君が活動してない間はよく掃除してたし、綺麗だと思うよ?うん。安心して?
そうじゃない?じゃあ、何を気にしてるの?……あ、ご飯のこと!?食いしんぼさんめ!私、こう見えて料理上手なんだから!いっぱい食べさせてあげる!まあ、もちろん材料は魔物……いや、割と美味しいから大丈夫だって。任せてよ。
……違う?あ、お風呂か!でっかい浴場が……これでもない?じゃあ、何を気にしてるの?ちょ、何で泣いてるの?私、何かしちゃった?
……何で敵なのに、優しくするのか?あー。そっちか。
んー。そりゃあ私にとって君が、唯一の話し相手にして、唯一の死神だから。それに……これは言わなくていいや。ま、まあ、敵とかどうでもよくなるぐらい……君が大切ってことだよ。
いや、照れないで!こっちまで恥ずかしくなるじゃん!そ、そういう意味じゃないし!もう!ほら、ご飯食べよ!ね!こっち!行くよ!
……初めて泣いてるの見た。強がってても、やっぱり辛かったんだね。泣いて、ご飯食べて、お風呂入って、すぐ寝ちゃった。まだ十七だっけ?君、その辺の大人たちより、よっぽど頑張ってるよ。
……あれ?私は何歳のころから――してたんだっけ?ほんと記憶、無くなってくなぁ。
怒りっぽいけど、凄く頑張り屋の勇者。……本当のことはまだ知らなくていい。今だけは、ゆっくりおやすみ。