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テディの足の痛みが引くのを待って、テオドールが口を開いた。
「もう帰りたい」
「わざわざ呼び寄せといて弱音吐くだけならもう行くけど」
「冗談よしてください。僕なんて木登りさせられたんですよ。その挙句ヒールで足踏まれてそのまま退散とかいやですよ」
リーゼロッテとテディの冷たい視線に、テオドールは一人泣いた。
いや、違う。こんなことを話すために集まったんじゃない。俺の夜会を抜け出したいという気持ちは誰にも負けるものじゃないけど、今はもっと大事なことがある。
__強くあれ、テオドール・アレキサンド!
「リズは嫌われたくないのか? 幸せな未来のために、嫌われなければいけないんじゃないのか」
「嫌われたいわよ、もちろん」
「だったら、愛想を振りまいてちゃあ駄目だろう」
「振りまこうとしてないのに、猫かぶっちゃうのよ。癖だわ」
「猫かぶりが癖って、いやな女ですねぇ」
「テディ、足を出しなさい」
踏んであげる、そういってにじり寄ってくるリーゼロッテをテディは華麗に躱した。慣れているのだ。
悔しがって下唇を突き出すリーゼロッテをしり目に、テディは主人に向かって苦言を呈する。
「リズ様に愛想が良いと怒る前に、テオ様はもう少し愛想をよくしてください。旦那様が心配してらっしゃいましたよ。結婚相手に不安はないとしても、今後のことを考えて少しは社交的になるべきです」
「余計なお世話だ。リズみたいに人生の一大事につながるわけじゃないんだから、ほっといてくれ」
「生意気な口をきくと、このテオ様っぽい貴公子と俺に似た平民の男が主人公の、一部女性からの熱狂的な人気を誇るちょっとエッチな薄い本を声に出して読みます」
「は!? お前っ、何持ってんの!? ってかそれ出版分は全部回収したのちに焼却処分したはず……!」
「再版されていたので、一冊購入いたしました。結構面白いですよ」
「当たり前でしょ。原案は私なんだから」
「何やってんの!?」
衝撃的な事実に、心のHPがガリガリ削られていくテオドール。
「仲良くしてる人がね、少し変わった趣味をしていて。物書きをしている方なのだけど、新作の良いアイデアが浮かばないっていうから、じゃあこういうのはどうですかって提案したらすごい気に入ってくれて」
「え、俺たちを売ったってこと?」
「売ったなんて言い方はよくないですよ、テオ様。あんなに素晴らしい創作のお役に立てたのだから、光栄なくらいです」
「何言ってんのお前」
「売ってないわよ。対価をもらってなんかないし。ああでも、それ以来シリーズの新刊が出ると必ずうちに送ってくださるようになったわ。おかげで私のベッド下がすごい充実していくのよ。現時点で15巻」
「え、そんなにあるんですか。今度貸してください」
テディが目を輝かせる。糸目で輝いている様子は見えないが、おそらく輝いている。
信用していいた幼馴染に思いもよらないところで裏切られており、しかも薄い本が現行で15巻も刊行されていた。
憐れ、残り少なくなっていたHPはゼロになり、テオドールは力尽きた。
「ご冥福をお祈りいたしますわ」
「手を合わせなくていい。死んでないから」
「あらそう」
「よかったです。再就職を余儀なくされるところでした」
「あら、そしたら家で雇ってあげるわよ」
本当ですか。そう平然と喜ぶ従者を前にして、HPゼロの主人は悲しみにあらがうことなく泣いた。




