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「ごきげんよう、リーゼロッテ様。その髪飾りとても似合っておいでですわ」
「やあ、リーゼロッテ嬢。今夜は、僕の手を取ってくれるかい? 一曲だけでもいい。少しの間でいいから、君を独り占めしたいんだ」
「リーゼロッテ様! 先日はどうもありがとうございました。リーゼロッテ様に取り持っていただけたおかげで、彼と思いを通じ合わせることができました」
「ご機嫌麗しゅう、リーゼロッテ嬢。貴女のアドバイスのおかげで、新商品もやっと軌道に乗りそうです。カタログをお持ちいたしましたので、ぜひ、我が商会の商品をご利用いただければ……」
「ごきげんよう。リーゼロッテ様から提供していただいた情報、しっかり活用させていただきました。新作も出版いたしましたので、是非お読みになってくださいな。自信作ですの」
テオドールの衝撃的な告白の数日後、リーゼロッテはとある貴族主催のパーティに出席していた。次々にやってくる夜会の参加者たちに、愛想よく対応していく。
嫌われようと決めたリーゼロッテだったが、長年の猫かぶりはまさに癖となってしまっていた。自分が嫌われているところが全く想像できず、リーゼロッテは困惑していた。どうやら自分は周りに人がいることが当然だと思っていいたらしい。高慢な本心にひっそりと表には出さずに自嘲する。自分が嫌われたくないと思っていると気づいたことも、自嘲に拍車をかけていた。
「__そういえば、リーゼロッテ様はもうすぐ学院の入学式でいらっしゃいますわよね? わたくしの妹が通っているのですけれど、社交の場に行けないことをとても残念に思っていますのよ。学則ですから仕方がありませんが、少々窮屈ですわよね」
「そうですね」
今話しているのは、ゴーシュタット伯爵令嬢のキャロラインだ。キャロラインはおしゃべり好きだがサバサバした性格で付き合いやすく、さらに話す内容も社交界のゴシップなどが多く情報収集もできるのでリーゼロッテも好んで話し相手になっていた。
「リーゼロッテ様をダンスに誘いたいと思っていらっしゃる殿方もたくさんいらっしゃいますから、学院に入学なさる前にと躍起になってる方もいるようですわよ。例えばほら、先ほども情熱的にあなたを誘ってらした、ダニエル様とか」
あぁ、あの優男風の。しつこくてイライラしていた。前に夜会であったときは一曲踊れば静かになるだろうと思って誘いに乗ったのに、そのあともしつこく言い寄ってきたので頃合いを見てテオドールを利用して追い払ったはずだ。
そんなテオドールは会場の隅でグラスを片手にぼやっと突っ立ってる。情けない。ご令嬢の一人や二人、ダンスに誘えばいいのに。あれでは、壁の花ならぬ壁の草である。
「テオドール様は今日もお麗しいですわね。ダニエル様もあのくらいの落ち着きがあればよろしいですのに」
「ええ、まあ」
リーゼロッテの目には手持無沙汰で所在無さげな情けない男にしか映らないが、他の人からすると違うらしい。キャロラインから仕入れた噂では、テオドールは美化に次ぐ美化で原形をとどめているのはその見た目だけになっていた。
曰く、運命の人と確信した深窓のご令嬢がいるのだ、とか。
曰く、死に別れた恋人が今でも忘れられないのだ、とか。
曰く、幼いころの初恋の人を探し続けているのだ、とか。
曰く、本当は男性が好きだがその恋心を胸にとどめて生涯独身を貫くつもりだ、とか。
憧れのまなざしでテオドールを見つめるご令嬢たちに、彼は女性に慣れていない照屋さんなだけなんですよとは言えない。流石に四つ目の噂には笑ってしまったが。
明後日の方向を向いていたテオドールの目が、こちらを向く。リーゼロッテとしっかりと目を合わせてから、バルコニーのほうに視線を流した。どうやら、バルコニーで落ち合いたいようだ。
失礼いたしますと断りを入れてキャロラインと別れ、しつこい男に見つからないよう足早にバルコニーへ移動した。
そこで待っていたのは、闇夜にその髪と瞳を溶かしたようになじませたテオドールと、もう一人。
癖のある茶髪を短くそろえ、人の好さそうな笑みを浮かべている糸目の男__テディが立っていた。頭に葉っぱがついているところを見ると、二階のバルコニーまで木をつたってきたらしい。招待されていない従者はパーティー会場に入れない。ならば外部から不法侵入しよう、という発想に呆れる。
「こんばんはリズ様。嫌われたいのであれば、面倒くさい男に蹴りの一つでもお見舞いしてやればいいんですよ。ヤバいやつ認定されてしばらく人が寄ってこないはずです」
にやにや笑うテディの足を、リーゼロッテはハイヒールでぐりぐりと踏みつけた。
苦悶の表情を浮かべて睨みつけてくるこの男は、従者のテディではなく、友人のテディのようだ。




