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悪役令嬢は嫌われたい  作者: あさり
本編
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全身を水で濡らし全速力でバーベキュー会場まで戻ってきたアリスは、心配するテディを他所に子供達からレオンのウィッグを回収した。


お陰でレオンはその目立つ銀の長髪を人に見られることなく、寝泊まりしている持ち家に帰ることができた。


「アリスさん! あのハゲ男とはどんな関係なんですか!?」

「少しお話ししただけですよ」

「びしょ濡れで? あんなに目を腫らして!?」


そしてその次の日、トイドール家に向かう馬車の中、テディはアリスに詰め寄ってハゲ男――レオンとの関係を聞き出そうと躍起になっていた。


「僕はあなたの兄です。あのハゲ男について知る権利があるはずです」

「何でもないですって」

「何でもないわけないでしょう!」

「……あなたは知らなくていいことです」


ハゲ男のお気に入りのフレーズをつい口に出してしまうアリス。なるほど確かに、都合が悪くなった時にちょうど良いセリフだ。


「心配なんです。妹が何処の馬の骨とも知らぬ男に泣かされたら、嫌じゃないですか」


真剣な顔でそんなことをのたまうテディに、流石のアリスもカチンと頭にきた。


誰のせいでアリスが泣き、レオンが歯を食いしばったのか。


「……テディさんは泣かせるくせに」

「え? ……え、え?」


思いもしない、心当たりもないアリスの言葉はテディを激しく困惑させた。


「ていうか、正式に兄弟になったからと言っていきなり態度を変えないでください。最初から知っていたテディさんと違って、私はまだテディさんを兄だとは思えないんです」

「えっと」

「距離感、考えてください」


馴れ馴れしくするなと、アリスはそう言いたいのだ。そしてそれに気づかないテディではない。


アリスの鋭い目で睨まれ、あからさまに傷ついた様子のテディ。そんな兄を目の端に入れ、アリスはツンと窓の外に視線を逸らした。


険悪なムードに包まれる車内。


それに耐えきれなくなった人物がひとり。無理して明るい声を出した。


「伯爵領に行くのは初めてだ。リズは? 行ったことあるか?」

「確か、小さい頃に一度だけ。何しに行ったのかは忘れたけど」

「近い貴族領ほど行かないって、あるあるだと思うんだよな」

「言われてみればそうかも。わざわざ用事がなければ行かないし、文化とか名産も大体同じだから見聞を広めるなんて事もないし」


テオドールに話しかけられ、車内の雰囲気など気にしていなかったリーゼロッテも賑やかしに一役買う。


そう、トイドール家に向かう馬車に乗っていたのはアリスとテディだけでは無い。リーゼロッテとテディもまた、兄妹とともに伯爵領に向かっていた。


テオドールはアレキサンド公爵家の代表として、リーゼロッテはアリスの友人として、トイドール伯爵に一度挨拶をしておこうという事になったのである。


今のリーゼロッテはドレスを身につけ、きちんと貴族としての体裁を整えていた。平民のふりをしてのバカンスよりも、友人の一大事の方が重要なのは言うまでもない。


そして何よりも、アリスのことが心配だったのだ。


ここ最近のアリスは少し様子がおかしいと、リーゼロッテは感じていた。


どこか上の空で、子供達と外で遊ぶ事もなくなった。屋敷の使用人の手伝いをする事が多くなり、何かに没頭していないと不安になってしまうと言った具合に仕事を探してはこなしていた。


もともと働き者で、テオドールの従者だったテディよりもいち早く気づいてはテディの仕事を奪ってしまうようなアリスだったが、それとは少し違うように見えた。


それに、テディにとても懐いていたように見えていたアリスが、テディに対してだけ少々よそよそしくなっている。人の機微に敏感なテディがそれに気づかないはずがなく、焦ってコミュニケーションを取ろうとした結果があの『馴れ馴れしくするな』という言外の警告である。


――誰か、側で支えてあげられる人が必要だわ。


今のアリスから心を閉ざされてしまったテディに、その役目は果たせないだろう。トイドール伯爵領にアリスが心を開ける人がいるかどうかは知らないが、学院生活よりもかなり短い滞在期間を考えると難しいように思えた。


ならばリーゼロッテが行くしかない。リーゼロッテとてアリスが全面の信頼を置いて腹の中をさらけ出してくれるとは思っていないが、気楽に話せる存在がいるだけで精神的な負担は軽くなるはずだ。


馬車に揺られ、だんだんと重くなってきた瞼をそのまま閉じる。隣に座るテオドールの肩に頭を預け、睡魔に誘われるまま眠りにつく事にした。


トイドール伯爵領が公爵領から近いとは言え半日かかるのである。居眠りでもしないと退屈してしまう長さだった。



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