第二話
───そろそろ日をまたごうとしている頃、私は無事アリーチェのお仕置きを終わらせ、ベッドに座ってタバコを吸っていた。
アリーチェもすっかり疲れたのか今はぐっすり眠っている。
しかし、夜はこれから始まる。私はタバコを銜えながら携帯を持ち、ある人物に電話をかけた。
「もしもし、夜分に失礼するわ」
「ヘッ、あんたは夜以外に電話なんてしてこねぇだろ?」
「確かにそうね、LE」
LEはこの街の所謂情報屋さんだ。
格安で依頼を受ける代わりに、見返りとして依頼者の情報をまた格安で横流しする。
私達みたいに自身の行動やプロフィールを知られたところであまり被害が生じない者にとって此処の情報屋の存在はありがたい。
「それで、前の依頼の続きだろ?」
「ええそうよ。あれからターゲットは増えた?」
「いんや、増えてない。むしろ減ったぜ」
「あら、もう?何処が潰したのかしら」
「シルヴァーニ家が二つだ。アレだろ、尻拭い」
シルヴァーニ家、戦力だけを見たらこの街で彼等にかなう組織は存在しない。
無論、私だってあそことは仲良くしておきたいものだ。
「残り三つのうち、さっきウィルソンの旦那が一つと交戦を開始した」
「あそこのパパさんも最近頑張ってるわねぇ。ママさんと別の仕事を引き受けたらしいし」
「あっこは子供が来年学校だから、学費稼ぎに精を出してんだ。大変だよな、子供育てるのって」
ウィルソン夫婦は表の顔は移動販売業、しかし裏では旦那は私達と同じイブリース所属、妻はそんな旦那のサポートを行っている。
この前も妻のほうに会って例のライターの情報提供をしたところだ。
「で、残り二つはまだ手がついていないと」
「ああ。でも早く行かないとスティンガーの阿呆がやって来るぜ。何か知らないがえらいやる気らしい」
「あの子がねぇ、そう言えば彼は何処の雇われなのかしら」
「それがあの阿呆、ゼネリ家と日久組の二つと二重約束したらしくてな。よりによって日久だ、ちょっとヤベェかもしんねぇ」
二重約束とは、二人の依頼者が同じターゲットを指定した際に、両方から依頼を受けることを私達はそう呼んでいる。
要は一回の仕事で二つの報酬が得られるため楽して稼げるというものだ。
この街では割と起きることであり、大半の組織はあまり気にしていないのだが、LEが言うとおり日久組は少しやっかいだ。
いかんせんあそこは金にうるさい上に結果で全てを評価する。
つまり、自分達のターゲットが他組織の仕事で狩られたとしても、結果的に自分達が手を出さずにターゲットが消失したのだから良いではないかと判断をする。
もし二重約束がばれれば何かしらのペナルティが下される恐れがある。
普通そんなことはこの街の常識で、あの子がそんな事をやらかした理由が謎だが。
「まぁ私には関係ないことだけど、もうちょっとあの子とお話したかったわねぇ」
「おいおい、まだ死んじゃないだろ。まぁなんだ、もしあんたがスティンガーより早くターゲットを消せば、アイツはペナルティを受けずにすむかもしれねぇ」
「そんなことしても何も得がないんだけど。まぁいいわ、どうせ私の獲物だし、とっとと行く事にしましょう」
「残ったグループはレッドハーツとブラックデスの二つだ。資料は渡してあるとおり、いいな」
「了解、報酬はいつもの所から適当に取っておいてちょうだい」
「毎度あり。じゃあ、またよろしくな」
LEからの電話はそこで切られた。
私はタバコを灰皿に捨てて、いまだに寝ているアリーチェの綺麗な太ももを指先でなぞった。
すると彼女はお仕置きした時のような喘ぎ声をたてて勢い良くベッドから起き上がった。一体どれだけ敏感なのだろうかこの子。
「ジェ、ジェシー!起こすときにそれはやめてって何回言えば…!!」
「仕事の時間よ、お嬢様」
「分かったわよ!ほら、とっとと支度しないと!」
アリーチェは自身の太ももをさすりながらベッドを降りて、早速着替えを始めた。
先ほど着ていた普通の服を脱ぎ捨て、さっきの帰りに寄ったクリーニング屋で預かった豪華なゴシックドレスを着始める。
彼女の辛うじて存在する胸を無理やり寄せあげるビスチェの上からカーディガンを羽織り、下には脚がすっかり隠れるぐらい長く、フリルが幾枚も付いたスカートを着飾る。
そして特注のブーツを履き、最後にレースつきの帽子を被ることで、アリーチェの着替えは完了する。
全身を漆黒の喪服に包んだその姿は、先ほどまでの初心でおてんばな少女とは全く異なる雰囲気を漂わせていた。
その姿もまた、私が理想とするスタイル。誰が見てもアリーチェだと分かる。
「終わったよー、ほらジェシーも武器持って!」
私も早速準備に取り掛かった。私の相棒達には、今度こそ付き添ってもらう。
───寒さがしみる深夜の街。僅かしかない街灯に照らされる人は皆無。
その中を私達はゆっくりと足を進めていた。手にはLEからもらった資料がある。
「まずはレッドハーツ。北西の区域でよくタムロしてるそうね」
「ノースハウス近くのバスケットボールコートで特に見かけるんだって」
「あの辺りは廃墟が多かったはず…アリーチェは廃墟内で待機、私は正面から蹴散らしに行くわ」
「えー、またー?」
「次の所は役割交代でいいでしょ?」
「うーん、だったらいいけど」
私達の拠点であるアパートから少し南西に下ったところにある北西の区域、通称メープル。
そこはキャスタニア屈指の治安の悪さを誇る。その理由については色々あるが、やはりファミリーの監視下にないことが大きいだろう。
ファミリーがいないということはそこで何をやってもお咎めがない。そのため無法者が集まりやすい傾向にある。
一方、私達みたいな職につく者にとっては絶好の隠れ蓑になるということで、同業者がメープルで暮らしていることも多い。
しばらく進むとメープル名物、ノースハウスが顔を見せた。
私も拠点を手に入れるまでは此処に泊まったものだ。格安でセキュリティもそれなりと夢のような宿だ。
そして此処の横の路地に入り、少し行くと大きなバスケットボールコートが顔を見せる。
「それじゃあ、素敵なお仕事を始めましょうか」
私がそう言うと、アリーチェは静かに頷き、ノースハウスの隣の廃墟の外壁に素早く昇った。
そして一瞬で廃墟の中へと飛び去って行く。あの服であの軽い身のこなしが出来るのも彼女の強さの秘訣だ。
私は路地をゆっくりと、しかし堂々と歩いていった。
満月の夜、暗く寒い路地。
目の前のバスケットボールコートには例の男達が9人コート内で座り込んでいる。
いた…鼓動は最高潮に達し、息が荒くなり、下腹部に熱がこもる。
醒める事のない興奮を抑えつつ、私は相手に気づかれないよう右の腰に付いた相棒に手を触れる。
グリップを右手で握り、左手で撃鉄の位置を探る。撃鉄は起きている、準備はできた。
酒を飲もうが、ヤクを打とうが決して得ることの出来ないあの快感が私を待っている。
私は汚らわしく醜いあなた達がたった一つだけ備えている、私の髪と同じ色をした美しい鮮血を浴びたいの。
あなた達にとって、私は冷酷な悪魔かもしれない。でも私はただ快楽が欲しいから此処に来ただけなのよ。
さぁ、私を絶頂に導いて頂戴、あなた達の死をもって。
私は物陰から一気に飛び出し、男達の真正面に立った。
そして右手で相棒を抜いたと同時にトリガーを引きつつ左手で撃鉄をなぞる。
すると1秒もせずに六発の銃弾が男達の眉間を捕らえ、そこに美しく赤い噴水広場が完成した。
我ながら完璧な早撃ち。普通の人間にはたった一発の銃声しか聞こえない。
「よ、よりによって…七芒星!」
生き残った男の一人が、私の異名を言い放つ。自己紹介ありがとう。
私は右手に持った空の相棒を宙に放り投げ、今度は左腰の相棒を左手で抜き、右手で撃鉄をなでる。
無駄撃ちは不要、三発の銃弾が男共に食らいつく。
「…全然気持ちよくないわね、何か」
この程度じゃとても私は満足できない。これじゃあ無力な人を一方的に虐殺してるみたいじゃない。
私は宙を舞って落ちてきた相棒を右手で掴み、両手の相棒をホルスターにしまった。
「9人を3秒以内なんて、流石!」
そう言いながらアリーチェがバスケットボールコートに飛び降りてきた。
「でもつまらないわ」
「にしても腰だめで眉間貫くなんて相変わらず変なこだわり。胸狙えば確実じゃん」
「分かってないわね。少しでも楽しくしたいから態々頭撃ち抜いてるの。それに頭のほうが飛び散るじゃない、色々」
私はそう言いながら、レッドハーツのリーダーだった死体に近づき、改めて顔を確認した。
「アリーチェ、一つ交渉させてくれないかしら」
「どーせ、次の連中も相手したいんでしょ?いいけどその代わり!」
アリーチェはそう言って、私に片刃の剣を投げてきた。
「ハサミのほうが簡単に斬れるから好きなんだけど」
「文句言わない!ほら早くして!」
渋々私は剣で男の首を切り裂いた。切り口からドクドクと鮮血が流れ出る。ああ美しい。
一方で醜い顔をしたそれを、ビニール袋を準備したアリーチェに投げつけた。
アリーチェは手早くキャッチしビニール袋に放りこんで口を縛った。
「さて、次はブラックデスね。場所は…」
その時、どこかの建物から誰かの視線を感じた。この視線は、ただの野次馬ではない気がする、もしかしてまだ残りがいたのかしら。
私は再び左腰の相棒を左手で持ち、視線のする方向に銃口を向けた。
そして一発目はわざとターゲットを外すように引き金を引いた。撃鉄はホルスターにしまった際に起きるよう小細工してある。
銃弾は建物の壁に当たり、視線の正体は驚いて顔を窓から隠した。
「あら、ごめんなさい。あなただったの」
そう言えばそうだった。この建物はノースハウスで、そこには例のライターが泊まっていることを忘れていた。
「ジェシー、無駄撃ちしちゃって!一発で仕留めればあんなの。誰も気にしないよ」
「私は罪無き一般市民を虐殺する趣味はないの。でもああやってコソコソ嗅ぎ回られるのは不愉快ね」
私は建物の窓を凝視しながらそう言った。ライターは依然として顔を出さない。
「取材なら幾らでも受けてあげるし、仕事が見たいなら見せてあげる。その代わり私が承諾した上でやってくれないかしら?」
「もう行こうよ、ライターなんて構ったところでいいことないって」
「…それもそうね。さて、次の場所は此処から少し南に歩いたところにある高架下だそうよ」
私はライターに聞こえるようわざと大きな声でそう言って見せた。これでついてこれるほどの度胸が彼にあるかしら。
私達は死体の山をそのままにして、その場を去った。
次の目的地はメープルの南端を通る鉄道の高架下。此処もやはり無法地帯で、怪しい出店が道を連ねていることが多い。
だが流石にこの時間ともなると店は何処も畳まれており、残っていたのはブラックデスの男達5人。
アリーチェには相手が逃走した時に備えて高架下出口にスタンバイしてもらい、私は男達が座り込んでいる場所の近くまで息を潜めつつ近づいた。
さっきは早撃ちをしたから、今度は近くで鮮血を感じたいわ。
私は後ろの腰にぶら下げた二丁の相棒を手に持ち、男達の前に姿を現した。
しかしそれと同時に私と男達の間に何かが割って入るように飛び降りてきたのだ。
「あらあら、横取りしにきたの」
こちらに背を向けていたので確証は掴めない。が、荒々しくなびく金髪に、右手の大きな槍で大体検討はつく。
「こいつ等は俺の獲物だ、手は出させねぇ」
やはりスティンガーだ。どうやら上で待ち伏せしていたようだが、私が来たから急いで降りてきたようね。
でもこの子に安々獲物を渡すほど私って優しくないの。
私はスティンガーの顔を挟む様に相棒の銃口を向け、その先に居る男達目掛けて引き金を引いた。
銃口を飛び出した弾丸はスティンガーの両頬を掠め、そして男達を貫く。
「いてぇ!おい殺す気か!?」
スティンガーは頬から少量の血を流しながらこちらを振り向いた。
獲物を前によそ見するなんて馬鹿じゃない。私はこの子を無視して横を走りぬき、拳銃を構えだした男達に近づいた。
地面を蹴り上げて空を舞い、そして右足を突き出し一人の男目掛けて突っ込んだ。
右足が男の胸部に当たった瞬間、ブーツに仕込んでいた相棒が火を噴く。
その反動で私は後ろに一回転しながら落下し、地面に着地した。
更に攻撃の手は休めない。さっきの回転時に両手に握った相棒の撃鉄は親指で起こしておいた。
「あ、アイツ足にまで銃を仕込んでやがった…!?」
うろたえる男二人。相手に攻撃する時間など与えない。
私は素早く相棒を構えて引き金を引き、仕事を完遂させた。
「あ、て…テッメェー!?」
私に気をとられたせいでこの子は殺せずじまい。相棒達をしまい、私はスティンガーに近づいた。
「残念ね、わざわざ二重約束までして気合十分だったのに」
私がそう言うとスティンガーは驚いたような表情を浮かべた。
「そ、それ日久にだけは言うんじゃねぇぞ!」
「依頼こなせてないんだから言っても変わらないんじゃない?」
「るせぇ!それより早く首持って行きやがれよ」
そのことを言われて私は気づいた。アリーチェを出口まで呼びに行かなくちゃ。首を斬る道具がない。
でもこの子、私が呼びに行った隙に首を持って行っちゃうんじゃないかしら。
まぁ別にそれでもいいか。今回のお仕事はとてもつまらなかったし。
「あら、私としたことがアリーチェちゃんに首斬る道具を持たせちゃったままだったわ」
私がそう言うとスティンガーはにやりと不敵な笑みを浮かべた。やはり横取りする気満々の様子。
「でも誰かさんに横取りされると困っちゃうわねぇ。まさかそんな人いないと思うけど」
「何だ、俺を疑ってるのかよ…お、俺がそんなチャチなことする訳ねえ」
「そうよねぇ、天下のスティンガー様が他人の獲物の横取りに失敗した上に、死体漁りだけは一丁前にやるような無様な真似なんてしないわよね」
「当ったり前だろ!?俺はスティンガー様だぞ!ほら早く行けよ!」
「言われなくても行くわ」
私はスティンガーに手を振り、その場を後にした。
高架下出口では、アリーチェと例のライターが何かを話しているようだった。
あの後すぐにノースハウスを出て私達を追ったのだろうか。中々タフな子だ。
「取材するなら金持ってきなさい!端金じゃダメ!一回100ドルからよ!!」
「いやですね、ちょっと質問に答えてもらうだけでそれは高すぎじゃないかと」
「何よあんた!こうやって取引に応じてやってるだけで大サービスしてんのよ!?ジェシーがいなかったらぶっ殺して海に捨ててるところよ!!」
アリーチェは前からメディアの人間や情報屋といったタイプの人間が大嫌いだった。
自身のことを知られて何が殺し屋だという考えを持っているからだそうだが、何もあそこまで喚かなくても良いのに。
「アリーチェちゃん、仕事終わったわよ」
私がそう言うと、はっとながらアリーチェがこちらを向く。あのライターも一緒に。
「ジェシー!あれ、首は?」
「スティンガーちゃんに横取りされてると思うわ」
「ウッソ!?じゃあこっちの報酬無しじゃないのよ!あーもう、ジェシーホント最近どうしたの!?たるみ過ぎ!」
流石に五月蝿くて仕方ないが、この子が言うとおり最近どうも本調子が出てない気がする。
まぁ調子出せるような相手が殆ど居ないからだと思うが。
「ごめんなさいね。それでライターさん、向こうにスティンガーちゃんがいるから改めて取材してきたら?」
「は、はぁ…」
「悪いけどこの子が言うとおり、取材するなら金を持ってきてちょうだい。それじゃ」
私はそう言って高架下を後にし、一旦アパートに戻ることにした。
今日は14人しか殺せなかった。ああつまらない夜だった。
でもスティンガーが二重約束をしたという秘密を握ることはできた。そんなもの持っていても役に立つかは疑問だが。
そう思って歩いていると、前方から数人の男達が歩いてくるのが見えた。
あれは、そこらのギャングなんかとは桁違いのオーラを放っている。あらあら、これは面白いことになりそうね。
私達が足を止めて男達が近づいて来るのを待っていると、男達もまた私達の前で足を止めた。
「これはこれは、夜分にご苦労ですね。ジェロシアさん」
男達の中心に立つ一人の男。ふちの太い眼鏡をかけ、首からはドッグタグを下げたその若い男は、周りの男達のような黒スーツの厳しい姿と異なり、とてもチンピラじみていた。
だがこの男こそこの街の七大ファミリーの一人。日久組キャスタニア支部組長、日久秀馬だ。
「そちらこそ、トップがこんな夜に出歩いてていいの?」
「自分は現場主義でしてね。それに若いんだから自分の足を使わないと」
秀馬はそう言って不敵な笑みを浮かべる。眼光は鋭く、私の目を捉えている。
私と同い年か、少し上ぐらいなのに凄まじい威圧感だ。やはりこのレベルにまで来ると格が違う。
「それで、私達に何か用?」
「まぁ一応聞いておきましょうか、スティンガーについて」
「あの子なら、あなたの依頼をこなしてるところなんじゃないかしら」
「本当ですかね。五つのギャングのうち、三つは彼の関係ないところで潰され、そして残る二つも今あなた達が殺してきた。そうでしょう?」
情報の伝達が早い事この上ない。一体何処でそれを見ていたのだろう。
「間違ってはないわね」
「でもその袋には、首は一つしか入っていない。あなた達は二つ潰したはずなのに」
「あれ、ジェシーさっきスティンガーに横取りされたって言ってなかった?」
あ、この子言っちゃったわね。
「横取りされたのは、私が殺した後の首。殺したのは私よ」
「えー!?何やってるのよジェシー!それじゃあタダ働きじゃないの!?」
「…フッ、つくづく何がしたいか分からない方だ。まぁいいでしょう。ではスティンガーは死体漁りで我々の依頼をこなした気になっていると」
「ええ、そうじゃないかしら」
私がそう言うと、秀馬は近くの男に何かを耳打ちした。
そして再びこちらを見ると、咳払いをして話を続けた。
「我々としては誰がターゲットを殺そうとどうでもいい。でも無駄な金は払いたくない。どうですか、我々が今此処で特別に報酬をあなたに支払うというのは」
「…話が読めないわ。その見返りに何が欲しい?」
「どうも良からぬ噂を聞きましてね。スティンガーはゼネリ家とも我々と似たような依頼を受けていたらしいと。その真偽を聞かせて欲しい」
「私を信頼してもいいのかしら?一応あの子とは同業者なわけだし、肩を持つ可能性だって十分ありうる。それに私達だって別の場所の依頼で動いてるの。これってあなた達が大嫌いな二重約束でしょ?」
「…確かに、それもそうですね。いいでしょう、無駄な時間をとらせて失礼しました」
秀馬はそう言って、男達と共にどこかに歩き去って行った。
読めない。一体連中は何がしたかったのだろうか。
元々私は日久組からの仕事は殆ど受け持っていない。なのに何故私に交渉を持ち込んできたのだろう。
「ジェシー、別にお金ぐらい受け取っておけばよかったんじゃないの?」
と、アリーチェは不満そうな表情を浮かべて言った。
「金って怖いのよ。そう気安く貰って後で厄介事になったら面倒じゃない」
「そうかもしれないけどさ、スティンガーのことなんだからどーでもいいじゃん!」
「…とにかく、私達は私達の仕事をこなしましょう」
「もう、話逸らして!いいわよ別に、ほら!」
そうして私達は夜道を静かに歩いていった。
スティンガーがあそこまでして依頼を多くこなしたい理由、そして日久組のトップが動いてまでスティンガーの二重約束を調べている理由。
唯の余所者潰しで終わりそうな一件だと思っていたが、これは何か一波乱起きそうな流れ。
それで楽しい仕事が増えてくれればいいんだけど。