第三話
2012年8月3日 緊急召集会議議事録
フォスター「深夜にも関わらず迅速な集合に感謝する。さて、既に情報の伝達は終わっているだろう。ルドマン家現家長、ロイド・ルドマンが撃たれた」
プレグレッフィ「えっと…ロイドさんは今の所どういったご様子でしょうか…?」
フォスター「命に別状はないらしいが、絶対安静を命じられているとの事だ。よって今回の会議にはルドマン家家長代理、アコニットに出席してもらっている」
ルドマン家家長代理(以下ルドマン)「ご紹介に与りました。ルドマン家家長代理を務めさせていただきます、アコニットです」
清龍「…ルドマン家はトップの集まる場に汚れを送りつけて来たか。どれだけ人員が足りていないんだ」
シルヴァーニ「まぁまぁ、ルドマン家は正規構成員が20人にも満たないんだし、キャリアの長い彼女が出てきてもおかしくねぇだろ」
日久「それで、ロイドさんは死んでいないのに我々をいきなり召集したのはどうしてですかね?アコニットさんの口から直接伺いたい」
ルドマン「ロイド・ルドマンを襲撃した実行犯を捕えて調べた所、犯人の出身国のみ辛うじて分かりました。大韓民国です」
ゼネリ「…それだけか?そんな情報で一体何が分かる?」
ルドマン「…我々の推測では、恐らく相手はコリアンマフィア最大の家系、ジョングオ派ではないかと」
清龍「ジョングオ派…だと?」
日久「それはまた話が飛びましたねぇ。よりによってジョングオ派ですか」
フォスター「皆が知っての通り、ジョングオ派はかつての大抗争で敗北してこの街を去った家系。もし本当にジョングオ派ならば外部組織による犯行として対処せざるを得ない」
シルヴァーニ「しかしなぁ…何でジョングオ派がルドマン家を襲うようなワケ分からん真似を?」
ルドマン「それは…」
日久「…工科大学連続テロ、でしょう。ルドマン家とジョングオ派で関わりがありそうな事件となれば」
プレグレッフィ「世界各国の有名工科大学が次々とテロに巻き込まれた事件…でしたっけ?」
清龍「唯一韓国にある工科大学及び、韓国教授の在籍する工科大学が襲撃を間逃れたことから裏でジョングオ派が手を引いていた可能性が高いと言われているが、それもあくまで推測に過ぎん」
シルヴァーニ「で…だから何でそれとルドマン家に関係があるんだよ。アコニットさんよぉ、ちゃんと報告してもらわねぇとこっちも何も話せねぇんだよなぁ」
ルドマン「…ロイド・ルドマンの子供であるシトレン・ルドマン。彼女はハワード私立工科大学に在籍していたのですが、例のテロに巻き込まれ、そして唯一生存しておりまして…」
清龍「何?ロイドの娘は死んだと聞いていたが…」
フォスター「それはルドマン家による偽装工作だった、という事だろう。間違いないな」
ルドマン「はい。しかし…どうやら彼女が生きているという情報が漏洩したらしく…」
日久「…さて、その情報を流した相手は誰か。アコニットさんはその点についても既に推測済みでして?」
ルドマン「…お集まりいただいた七大ファミリーの何れか、ではないかと」
ゼネリ「…戯言を。お前の話を纏めると、今回の事件はジョングオ派による後始末の一環という事だろ。それに他のファミリーが一枚噛むメリットは何だ?」
ルドマン「メリットなど知りません。しかし噛まないことによるデメリットを迫られた結果ならば在り得るのでは?」
フォスター「確かにジョングオ派は韓国の裏社会を統括する一大組織。その上アジア圏のみならず世界各国に拠点を持った国際犯罪組織の一端だ。
だが…この街においては別。ジョングオ派は敗者であり、我々が連中に脅迫される筋合いは無い」
日久「強いて言えば…アジア系である我々と清龍党が何かしら関わりを持っているかもしれない」
清龍「何を言うか。ジョングオ派は如何なる地でも滅ぼすべき敵だ。清龍党だけでない、アジア系組織は皆ジョングオ派を嫌っている。それだけ力を持った相手だからだ」
プレグレッフィ「あ、あの…要はアコニットさん、あなたは七大ファミリーの何処かが抗争を吹っかけてきた、そうお考えなんでしょうか…?」
ルドマン「現状、そう疑っております」
ゼネリ「…ならば、この場で公言しておこう。我々ゼネリ家はジョングオ派と一切関係はない。そしてルドマン家、貴様等の事など我々は眼中に無い」
シルヴァーニ「ワリィがその点は俺達も同じだ。ジョングオ派もどーでもいいし、それでルドマン家がどーなろうと俺達には関係ない」
プレグレッフィ「私達もちょっとこれだけじゃ対処しようがないというか…とにかくジョングオ派とは特に関係は持ってないということだけお伝えしておきます」
清龍「下らん。何度も繰り返すがジョングオ派は明確な敵だ」
日久「同じく」
フォスター「…結論を出すにしても、情報が少なすぎる。仮にジョングオ派の犯行だとすれば、外部組織の介入としてフォスター家も動く。だが、まずは更に情報を集めることが先決だ」
ルドマン「…」
フォスター「我々はあくまでキャスタニアの平穏の為に行動する。他のファミリーは無理に介入する義務は無い」
ルドマン「…では、ルドマン家に何が起ころうと手は貸して下さらない…ということですか…?」
フォスター「今一度、何故我々は七大ファミリーとしてこの場に集まっているか理解してもらいたい。我々は友好関係を結んでいる訳ではない対立組織…つまり敵同士だ。
無駄な血を流す抗争が無意味だと知っているから、こうやって話し合いに応じている。ただそれだけだと」
ルドマン「…そうですか。分かりました。どうやら皆様に少しでも助けを乞おうとした私が愚かでした。
でしたらルドマン家はルドマン家として、七大ファミリーの一つとしてありとあらゆる手を尽くさせて戴きます」
フォスター「迅速な事件の解決を望んでいる。さて、他に何も意見が無ければ緊急召集会議を閉会したいと思う」
───8月3日10時頃、北西部メープル、ノースハウスにて。
最早既に目覚ましすらセットすることなく、晃司は寝息を立ててベッドで眠っていた。
しかし、彼の平穏な朝はスマホのバイブ音にかき消されてしまった。
机の上で震えるスマホは低く不快な震動音を部屋中に鳴り散らかす。
その音に晃司も気がつき、顔をしかめながら目をこする。
「…アラームセットしてたっけ…」
身体を起こしてスマホ画面を見てみると、そこには携帯番号が映っている。
この番号は…ジェロシアだ。
彼女のほうから電話とは珍しい。晃司は咳払いをしてスマホを持つ。
「もしもし…おはようございます」
「フフッ、どうやらモーニングコールになっちゃったようね」
「ま、まぁそうですね…で、何か用ですか?」
「五分後ぐらいにそっちに来客が現れると思うわ。一応迎える準備をしといたほうがいいかと思って」
「来客ですか?一体どちら様で?」
「あんたとは格が違う大物よ。よかったわね、しばらく雑誌の記事作成に困らなくて済むわよ」
「え…はぁ…大物?」
「私もついあんたの居場所を漏らしちゃうぐらいの相手だから。ま、頑張って頂戴。それじゃあね」
「あ、いやちょっと待って…!あっ」
晃司の制止を聞くわけもなく、一方的に通話は切られた。
大物となると、マフィア関係の人物だろうか。だとすれば自分の居場所を知られてしまうのは非常にマズイ気がする。
とりあえず服を着ようと、晃司はスマホを机に置いて立ち上がる。
しかしそれと同時に部屋にノック音が響き渡った。
晃司は急いでズボンを足に通し、適当なシャツを羽織って扉に近づく。
「はい、どちら様でしょうか?」
晃司の問いに対して、少し間を置いてから返答が来る。
「…世羅田晃司、君で間違いない?」
「はい、そうですが…」
「ふう…散々たらい回しに合ったけどやっとたどり着けそう…あ、えーっと、私はルドマン家のアコニットという者で…いや、そういえば前会ったから詳しく名乗る必要もない、か…」
「アコニットさん…ああ、あの時お会いした…えっと、自分なんかに何か御用でしょうか?」
「ん?ああ、うんそうそう!ちょっとだけ聞きたいことがあってさ、悪いけど扉開けてもらえる?手荒な真似はしないって誓うから」
あの時、ジェロシアの定例会の監視に付き合った際に出会ったアコニットの姿はかなり異質なものだった。
そしてジェロシアの話を聞く限りかなり危険な人物のようだが、果たしてこのアコニットの言葉を信用していいのだろうか。
かと言って扉を開けなければやはり危険な目にあう可能性がある。仕方なく、晃司は扉を開けた。
扉の向こうには白衣を羽織った女性が立っていた。間近で見て晃司は彼女の背の高さに少し驚く。自分よりも一回りほど高いから…恐らく180cmは越えているだろう。
前に会ったときにつけていた奇妙なゴーグルやグローブは装備しておらず、彼女が戦闘態勢でないことだけは辛うじて信じることが出来た。
「ごめんなさいねー、急に訪問して。でも時間が惜しいから仕方ないのよ」
「そ、そうですか…で、聞きたいこととは?」
「…うーん、本題にしか興味が無いご様子…普通だったらもっと色々知りたくなるのが人の性だと思うけど…まぁこっちのほうが色々説明する手間も省けるし、いっか…おっと失礼!」
ブツブツと独り言を好き放題言った後、アコニットは咳払いをして話を続けた。
「あなたの務めている…えっと、“越膳社”だっけか…その会社について知りたいんだけど」
「ええ、越膳社についてですか…?」
「…教えたくない?別に普通の会社なら何も隠すことないんじゃないかなぁ?」
「そうですけど、そんな情報手に入れてどうするつもりですか?」
「ま、大方お察しの事かと思うけど…あなたさ、この街の出来事を記事にしてるんでしょ?それが少なからずこの街に影響を及ぼした事は理解してる?」
彼女が言っているのは、恐らくプレッツェの存在を記事にしたことだろう。
確かに自分の載せた一枚の写真でジェロシアを始めとした人物達が大きく動いた。
しかし、なぜその件を今更問い質すのか。晃司は相手の考えが未だ分からずにいた。
「はい、一応は。その…プレッツェさんの記事の事でしょう?」
「え?プレッツェちゃん?…ああ、そっかそっか、確かにそっちも関係あったっけ…いや、あ、そうかプレッツェちゃんか…!その線も可能性としては十分…」
「…あ、あの…」
「とっとっと!そうそう、プレッツェちゃんのあの記事の件!あれ、あなたの独断で記事にしたの?」
「まぁ、そうなりますね。たまたま郊外のパン屋を取材したら、あんな事に発展してしまったらしくて…」
「ふぅん…それ、本当?会社の指示があったとか、そういう訳じゃなくて?」
「はい、本当です」
「…そっか。はぁ…これ以上は無駄か…ありがとう晃司。会社の事はやっぱいいや…当たりが引けたと思ったんだけど…いや、うーんしかしどうしようか…」
アコニットはそう言いながら腕を組み、晃司に背を見せる。
「プレッツェちゃんが一枚噛んでいるとすればそちらはレイヴンが掴んでくれるはず…だとすれば私は情報の出所をもう一度洗うべき…」
「…えっと、アコニットさん?」
「…でも情報屋もアテになるか分からないしなぁ…いっそのこと相手が動くまで待つのも有りか…」
晃司の呼びかけにアコニットは一切答えようとしない。完璧に自分の世界に入ってしまっているのだろう。
恐らくアコニットは例のルドマン家のトップ襲撃事件の捜査の一環として自分の所へやって来たはず。
確かにあの時現場にいたが、何故よりによって自分なのか。そして自分の務める会社、プレッツェの記事についての質問。
どうやらかなり大きな事件の渦中に巻き込まれたことだけは確からしい。できればこのまま白を切って事件から身を引くべきだ。
しかし晃司の中には事件に対する好奇心も同時に芽生えつつあった。
点と点が線で結ばれた瞬間の達成感。ただ与えられた仕事をこなすだけじゃ何も楽しくないではないか。
「アコニットさん…あの…もし良ければ力を貸しましょうか…?」
晃司の思い切った問いかけに、アコニットはぴたりと独り言をやめて再度晃司のほうを向いた。
「…良く聞こえなかったからもう一度言ってくれる?」
先ほどまでの愛想笑いを含んだような表情は一変し、ただこちらを睨みつける眼差しは何よりも冷たかった。
思わぬ失言をしてしまったと直感で悟った晃司は一瞬ひるんでしまうが、それでももう一度同じことを口に出す。
「…何か力になれることがあれば手を貸します」
「…へぇ、それはただのお人よし?それとも何か対価が欲しくて?」
そう言ってアコニットは不敵な笑みを浮かべる。
この顔は、ジェロシアやレイヴンが見せるあの笑顔と同じ性質のものだが、それらより遥かに様々な感情が蠢く笑みだ。
「もちろん完全に無償って訳にはいきませんが…今回の事件の情報をいただけるだけでも十分で…」
その瞬間、アコニットの目がカっと見開き、口元が大きく歪む。
そうかと思えば一瞬で距離を詰められ、衝撃が晃司の身体を後ろへ押し倒す。
気がつけばアコニットの左腕が晃司の胸上を押さえつけ、右手には鏃の様な物が握られているのが確認できた。
どうやら予想以上に言ってはならないことを口走ってしまったらしい。はっきりと凶器を見せ付けられた今、晃司は恐怖で身動きすらとれない。
心臓の拍動は瞬く間に激しくなり、息をするので精一杯だ。
「…まずあなたのダメな所は、こちらの素性が殆ど分からないくせに一対一の話し合いに応じたこと。このノースハウスには監視カメラは一つもない。フロントマンは最低限の雑務しか行わない怠け者、他の客室に客はいない。つまりあなたが助けを訴えたところで聞く耳を持つものは一人もいないというわけ」
「次、あなたはこちらの発言を全て鵜呑みにしたこと。手荒な真似を行わない保証は何?武器を懐に仕込んでない証拠は?まして私がルドマン家の人間である確証は?」
「そしてこの程度の一撃で主導権を相手に握られるその非力さ。こうやって相手が無駄な会話をしているうちに脱出口の一つも思い浮かばない平和ボケした思考回路」
「あなたね、はっきり言わせて貰うけど、すっごいムカツクの。まるで自分はアウトローに染まっているかのような素振り。下手に出ているように見せかけて対等な立場を保とうとする言動」
「ジェロシアちゃんやステラと良く連絡取ってるんだって?おめでたいねぇ、あんなのに自分の情報を受け渡すなんて。彼女達がどれだけの修羅場を乗り越えてきて、どれだけの狂気を孕んでいるか、あなたはそれを知った上で彼女達に関わってる?ごく僅かな一面だけを見て勘違いしているんじゃないの?」
「さて晃司。まずはあなたの提案に対しての答えだけど、あなた如きの力なんて貰った所でなんの価値も無い。金を貰っても要らない、ゴミを買うような愚か者じゃないのよねぇ、私は」
「次はこっちの質問に答えてもらおうかしら。世羅田晃司、あなたが情報を欲する理由、それを全て洗い浚い吐き出して」
畳み掛けるような直言。そして問い。
彼女の言葉を全て飲み込もうとしても、死への恐怖が全てを拒絶してしまう。
「お、俺は…情報は…仕事で…」
声にならない声を何とか絞り出す。しかし答えは一切纏まらない。
アコニットは深くため息をつき、明らかな失望の眼差しで晃司を嘲笑する。
「ね?この程度であなたは何も出来なくなるの…こんなのとつるんで、あなたも何がしたいの?」
アコニットはそう言って扉の方を振り向く。晃司も何とか目線をやると、そこにはニヤニヤと笑いながら立つジェロシアがいた。
「フフッ、流石アコニットさん、誰に対しても容赦が無いわね」
「あなたに接触してからこの宿に来るまで尾行されてたのは感づいていたけど…まさかこの男の身を案じて?」
「さぁ、どうかしら?もしそうだとすれば、そこまでして私が晃司に肩入れする理由、分かるかしらねぇ?」
「…ハァ、どうせフォスター家の依頼でしょ?私がこうやって暴挙に走らないように監視して、この街の平穏なんてものを守るための」
「洞察力の高さも一級品。ま、そういう訳だからあまり手荒な真似されるとフォスター家としては困るそうよ」
ジェロシアはそう言うと、右手を右腰のホルスターに据える。
「私としては仕事という名目でアコニットさんと鮮血を見えて酔いしれるから大歓迎だけれど…どうかしら、その男をもっといたぶって私の相棒を抜かせて下さらない?」
「ふーん成程そういう事…悪いけど今はオアソビに付き合う余裕ないから。こっちはこうやって僅かな可能性を虱潰しするぐらい切羽詰ってるの」
「それは残念だわ…ならこの場を穏やかにする一言。その男は揺さぶる価値なんてないわよ。仮に彼の勤める出版社がクロでも、この男がそれを知っているはずが無い、そう言い切っていいわ」
「…それもそっか。見るからにヒラだし。利用された側としても知らされる訳ないだろうし」
アコニットはそう言ってため息をつき、やっと晃司の上から身体をどかす。
「あなたがコソコソお仕事の為に嗅ぎまわっても気にしないことにしてあげる。でも邪魔だと感じたら処理するから、そのつもりで」
晃司に向かってアコニットはそう言うと軽く手を振り、部屋の出口のほうを向いた。
「ジェロシアちゃんも依頼で私を監視するならご自由にどうぞ。私はルドマン家の信じる正義の為にありとあらゆる手段を用いる、それがこの街の平穏を脅かそうとも」
「フフッ、アコニットさんの雄姿、この目でしっかり見届けさせてもらうわ」
ジェロシアの横をすれ違い、アコニットは部屋から立ち去る。
廊下に響く足音が聞こえなくなった後、ジェロシアは晃司に近づいた。
「…何時まで寝てるのかしら」
「…あ、すみません…腰が抜けちゃったみたいで…」
「情けないわね。にしてもあんたは何処まで無謀なのかしら。よりによってアコニットさんに交渉事を持ち込むなんて」
ジェロシアは手を差し伸べながらそう言う。
「ジェロシアさんがそこまで言うなんて、よっぽどヤバイ人なんですね」
手をとって何とか立ち上がった晃司は、よろめきながらそう言った。
「ヤバイ、何てもので済めば気楽だけど。あの人はこの街でも数少ない“時代”を作った人よ」
時代というワードの意味が分からず、晃司はきょとんとした表情を浮かべてしまう。
「時代…?」
「この街じゃ巨大な家系の解体・設立が起きる事を時代が変わるって形容するのよ。そしてそれに関与した人物は時代を作った人間として畏怖される」
「つまり、アコニットさんはファミリーを滅ぼしたことがあると…?」
「ええ。カトレアを巡った抗争で敵ファミリーのメンバー全てを、たった一人で誰一人残らず殺した。この街での単独犯による殺害人数記録はトップクラスだそうよ」
「あ、あの人がそんな…!?」
「ま、私が生まれるずっと昔の話だからホントかどうかは知らないけど」
「…思ったんですけど、アコニットさんってお幾つなんですか?そんな事しでかしたにしてはお若く見えましたけど…」
晃司がそう言うと、ジェロシアはニヤリと笑う。
「それ、アコニットさんに聞かれたら次こそ殺されるわよ。あの人の年齢を聞くことはこの街のタブー、それで大体察しがつくでしょ?少なくともステラさんより一回りは上」
「…マジですか」
「私が仕事で此処に寄ったからよかったものの、あんた今回は死んでてもおかしくなかったわよ。この街にきて数ヶ月経つんだからもっと危機管理能力を持ちなさい」
「すみません…」
「それじゃ」
ジェロシアはそう言って部屋から差って行った。
一人部屋に残された晃司は、これからどうすべきかを考えていた。
アコニットという人物の恐ろしさを味わい、現在街で起こっている事件の重大さも何となく推測できる。
それでもやはり好奇心は掻き消えそうにない。なるべく目立たないように立ち回ることはできるだろうか。
この事件は自分自身の一つの転換点。そう晃司は確信していた。




