表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄薫る世界にて  作者: キャバルリー
第六章:百鬼夜行 ~イブリース粛清編~
34/71

第一話

───6月1日11時頃、北部区域ニビヤシアックのアジア街にて。

観光客で賑わうアジア街の中心部に、特別大きな中華風の建物「亜細亜中心」が立っていた。

その建物の三階にあるオーナー室に清龍党現キャスタニア支部長、清晧月しんはおゆえが腰を下ろしていた。

そして彼の前には肉まんの袋を担いでほくほく顔のリリが立っていた。


「ちーっす!腹減ったから食っていい?」

「ここで食うなら俺にも遣すんだ」

「はぁ?イヤっちゅーの」


リリはそう言いながら熱々の肉まんを取り出して頬張り始めた。


「お前な、それ此処の一階で作ってる肉まんだろ。どうせお前の事だからタダで貰ってきたな?」

「ったりめーじゃん、んなこと。あー流石っすわー、清さんのトコお手製のお肉まんちゃん!肉汁ジュルジュル出てきて手がベチョンベチョン!」

「はぁ…仕事はロクにこなせないのに態度だけは立派だな…さてリリ、そろそろお客が来る時間だ。とっとと食い終われ」

「客って誰だよ?あ、もしかして殺していい奴?やったぜおい!」

「違う違う、日久組だ。内容次第では…まぁその時に任せる」


リリと清が会話をしていると、机の上の電話が鳴り響いた。


「もしもし…やっとか、通せ」


清がそう言うと、オーナー室の扉がゆっくり開かれた。

扉の向こうには一人の厳しい老人が立っていた。


「失礼します、清様」

「…日久本人はどうした?何故執事の与一、お前が来た?」

「若様を敵地に赴かせることは出来ません、代わりに私めが伝言を預かってきたので」

「おいおいこんなヨボヨボジジイ一人送りつけてくるなんて、ウチらもナメラレたもんだねー!」


リリは持っていた肉まんの袋を地面に捨てた。中からいくつもの肉まんが転がり落ちる。

そして右太もものガーターベルトに指した小刀を抜き出し、与一に向かって歩いてきた。


「ジジイ、ウチのカシラは日久の坊主をお望みなわけ、とっとと連れてきてくんない?」

「清龍党はこのような教育の行き届いてない下賎な輩を買っておられましたか、尚更若様を来させないで正解でした」

「言ってくれるねぇマジ。あんま減らず口いってっと、指十本ぐらいなら切り落としちゃうよ?」


リリは与一にギリギリまで近づき、小刀を彼の前でチラチラと動かしてみせる。

一方で与一は表情一つ変えずリリを睨み付けた。


「…清様、彼女を何処まで痛めつけたら組織間の問題に発展いたしますか?」

「お前達二人が死のうと何の問題にはならん。無駄な争いをするな、後処理が面倒だ」


清の忠告に反してリリは数歩後ろに下がって臨戦態勢に入る。


「ウチら死んだっていいんだってー!じゃあ存分に殺し合おうよクソジジイ!テメェ鉄の薫りがプンプンしやがる、ウチらとおんなじだ!」

「…リリ、話聞いてたか?」

「仕方ないですな…では1割ほどの力でお相手しましょう」


与一はそう言うが武器はおろか一切何らかの構えを取ろうとはしない。


「1割だぁ?ふっざけんなよマジ!」


そう言ってリリは身を地面につきそうなぐらいに低く構えて与一を睨みつけ、そして地面を蹴って一気に与一目掛けて突っ込んで行った。

弾丸の如きスピードで繰り出された一閃は常人ならば避けることは不可能だったろう。

しかし与一はリリの持った小刀を足裏でいとも簡単にガードしていた。

リリの突進力は一瞬でゼロになり、二人は再び静止する。


「…遅すぎる。それでは駄目です」

「ヘ、ヘェ…ジジイそれなりじゃん、ふーん…あー、だりー」


一撃を完璧に止められたリリは戦意を全て喪失させられていた。

与一の革靴から小刀を乱暴に引っこ抜いて元の場所にしまう。


「清さん、コイツだりーから任すわー」

「…全く、お前は下がっていろ。与一、お前の伝言を聞かせろ」


清がそう言うと、与一は一礼して清の元に向かった。


「この間の中岡の件について、日久組は中岡がそちらに流した情報は何かを調べておりました。その結果、中岡は我々がイブリースにどれだけ依頼を請け負わせたか…についてを流したと分かりました」

「その通り。そしてその情報は少し気になったから我々が購入した」

「今回はそちらがイブリースとファミリーの関係を知りたい理由について教えて欲しいと若様はおっしゃられております」

「簡単な話だ。我々は七大ファミリーとイブリースの癒着について知りたかった」


清はそう言ってある資料を与一に渡した。


「そこには過去五年間、各ファミリーがどれだけイブリースに依頼を受けさせたかが書かれている」

「…良く調べられましたな、こんなこと」

「それを見れば分かるが、ダントツで多いのはフォスター家、次にゼネリ、シルヴァーニ、ルドマン、日久、そして我々と続く」

「…やはりプレグレッフィはゼロか」

「あそこは謎が多すぎてよく分からない。とにかくそれを見れば分かるようにフォスター家とゼネリ家はイブリースに戦力を依存している節が見られる」


与一はじっと資料を見つめ、意見を返した。


「しかし五年間のデータとなると、ゼネリ家が例の抗争を行っていた時期と少し被りますな」

「そうだ。つまりイブリースに常に頼り切っているのは、フォスター家ということになる」

「…しかしそんな分かりきっている事を何故今更?」

「…本題に入ろう。我々は正直イブリースの存在が邪魔で仕方が無い」

「だが清龍党もそこそこイブリースを利用しているようですが」


与一がそう言うと、清は咳払いをした。


「確かに利用はした。だがこのままイブリースに力を持たせたままだとフォスター家がトップに立ち続けるのも目に見えている」

「…成程、フォスター家の戦力縮小が目当てでございましたか」

「如何にも。そこでだ、我々清龍党と日久組で結託し、イブリースの人員縮小を行いたい。聞いた話では日久も理由付けて上位ナンバーの殺害を頼んだそうじゃないか」

「あのスティンガーとか言う男ですか。あれはどちらかというと若様の怒りを買ったのが大きいかと」

「そんなものはどうせこじ付けに過ぎん…さて日久の使いに聞こう。我々の作戦について詳細を求めるか?」


清の問いかけに対し与一はしばらく考える。


「…とりあえず聞いておきましょうかな」

「まぁ作戦なんて大層なものじゃない。我々はイブリースの下位ナンバーを全て雇い、上位ナンバーの抹殺を図る」

「殺し屋には殺し屋を、と。しかしあそこの下位ナンバーはチンピラが多い、戦力にならないかと」

「もちろんそんなことは知っている。まぐれで上位ナンバーを殺せればラッキーだし、下位ナンバーが返り討ちに合っても結果的に戦力は縮小される」

「…では、日久組には何を望みで?」

「何もしない、それだけだ。我々が動いている時にイブリースを利用したりしなければ良い」

「…ほぅ、我々には手を出す資格はないと、そう申し上げますか」


与一はそう言って清を睨む。


「我々と日久は敵対関係だ、共同で作戦を実行したことが知られたら他のファミリーも動く可能性がある」

「確かに一理あります。が、若様も考えがあって私をこちらに送りつけたことをお忘れなく」

「…つまり、お前達もイブリース縮小に加担したいと。いいだろう、勝手にやれ。だが我々の構成員に手を出せば…分かるな」

「日久組は清龍党と戦争がしたい訳ではないのでご安心を。では若様にはそちらの今後の動きについて手短にお伝えしておきましょう」


与一はそう言って清に一礼し、出口に向かって歩いて行った。

扉近くに立っていたリリは、与一が通り過ぎた後にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「あのジジイ、目がギラギラしていたぜ。あれも好きなんだねー」

「与一は日久が抱える最強の戦闘員、普段は常識人ぶっているがロクデナシの糞に違いはない。お前と同じだな」

「うっせーよおっさん!大体何なんだよマジ、あの早さ見切るとか訳分かんねーし」

「お前ももっと強くなれ。そうすればこんな面倒なことせずに済んだのに」

「ウチだってシモノフちゃん担いでりゃもっと強いわバーカ!あーマジ腹立つー、ラーメン食ってくる!」


リリはそう言って思いっきり舌打ちをかまし、扉を乱暴に蹴り開けて去って行った。



───同日19時頃、南部区域ワトル、イブリース本部にて。

いつものようにキャンディは真面目にパソコンに向かって仕事に励んでいた。

ふとマフィンのほうを見てみると、彼女は携帯ゲーム機に夢中になっているようだった。

何となく腹が立ったキャンディは音を立てずにそっと席を立ち、マフィンの真後ろに移動する。

そして胸ポケットから名刺を一枚取り出し、マフィンの首筋にちょこんと角を当ててみた。


「フギャィ!?」


訳の分からない悲鳴を挙げつつ飛び上がったマフィンは、ゲーム機を床に落とす。


「…仕事、終わられてないですよね、マフィンさん」

「おおお終わってらっしゃいますよホンマに!…ってチョッー!!」


床に落ちたゲーム機の画面は真っ暗だ。マフィンは涙目でゲーム機を拾い上げた。


「あ、あぅ…もうちょっとでレベル100になりそうだったのに…どう落とし前つけるんですかキャンディさん!?」

「…改造ROMあげましょうか?それともチートコードがいいですか?」

「全然分かってないですよマジ!?ズルして得たデータに何の価値があるっていうんですか!?」

「仕事では賄賂貰ったりズルしているくせに何言ってるんですか…マジ」


そう言いながらキャンディは、マフィンのPC画面を見て不可解なデータを見つけた。


「珍しいですね、そんな下位ナンバーばかりご指名だなんて」

「うぇ?…あーこれですか?そうなんすよー、依頼者も何か訳分からんとこだし…ま、最近は上位ばっか仕事を持っていってたし、えーんじゃないですか?」

「…にしても、もうナンバーが50まで増えていたとは。ぶっちゃけそんなに必要なんですかね」

「どうせ殆ど登録だけーって感じじゃないですか?ほら社長ってその辺テケトーじゃないですか」

「確かにそうですね…ただやっぱそのデータはちょっと怪しい気もするんで社長に報告しておきます」


キャンディはそう言って近くの電話を手に取り、社長に電話をし始めた。


「…お疲れ様です、社長。キャンディです。すみません帰国中に」

「おーつかれキャンディちゃん!気にしなくてオッケーオッケー、丁度ヒマしてたとこだし」

「それは良かったです。さて、少々報告したいことが」

「お、もしかして愛の告白?嬉しいなー、キャンディちゃんみたいなボインな嫁さんが貰えるだなんて!」


社長のセクハラ発言にキャンディは舌打ちのみを返し、話を続けた。


「本日、下位ナンバーが次々と詳細不明の依頼者に雇用されておりまして…何か怪しいと思うのですが、どうでしょうか?」

「ふーん、なるなる…そりゃちょいと臭いますなぁ。一応様子見といてちょんまげ」

「分かりました。何か分かり次第またご連絡いたします」

「…うぃす。そのー、せめてツッコミ欲しいんですけどー」

「では失礼いたします」


寒いギャグを飛ばす社長を無視してキャンディは電話を切った。


「キャンディさんすみません、あの社長の相手してもらって」

「流石に慣れました。それよりマフィンさん、フリーの情報屋に連絡して下位ナンバーの監視をお願いしてください」

「あいあいさー!…はい、メールで一斉ドーン!」


キーボードを高速でタイピングし、マフィンはメールを送り終わった。


「とりあえず出来ることは終わりましたね。私も仕事はもう終わるんで、一緒に食事でも行きますか」

「いいっすねー!何か最近出来たハンバーガーレストランがあるらしいんで、そこにしましょう!」

「分かりました…あ、先輩の奢りでお願いします」

「ちょちょちょい!?こんな時だけ先輩発言しますかいキャンディ様!?」

「…この前ジェロシアさんからたんまり貰ってたじゃないですか」

「あ、あれは既にゲーム機その他もろもろで消えたって言うか…あはは、分かりましたよ、先輩面してやろうじゃないですか…」



───同日22時頃、西部区域ブロッサム、5番倉庫内にて。

人気の殆どない港に、見るからに怪しい人物達がぞろぞろと倉庫に集っていた。


「…あれ、お前イブリースのナンバー23じゃね?」

「あんたは24番か?あ、あっちには19番も」

「…何でナンバー43の雑魚が我輩みたいな12と一緒におるんじゃ?」

「こちらだって驚きですよ…こんな上のナンバーと一緒になるなんて…」


事情を良く知らない人達には全員、たった一つだけ共通点があった。

それは皆イブリースに所属する組員であるということだ。

それぞれ違う依頼者に呼ばれたはずなのに、同じ場所に集められている状況に全員が疑問を抱いていた。


『はーい、イブリースのクソザコへナチン激臭マンマン野郎共こんばんわー!』


突如として倉庫の二階部分から暴言が響き渡り、一同はその方向を見る。


『ご注目しなさい、ウチは清龍党最強かつ萌え萌えピッチピチなイケイケギャルのリリ様である!』


リリは拡声器を使って一階のイブリースメンバー達に喚き散らす。


「何だあのクソガキ?」

「俺らの事馬鹿にしよってからに…」

「うるせーぞクソビッチ!てめぇの激ユルガバガバホールのほうがクセェだろうが!」


唐突なリリの登場にメンバー達も騒ぎ出す。


『だまらっしゃい!今日はテメェら下位ナンバーのゴミ共にのし上るチャンスをくれてやる、すっばらしー依頼をばら撒きに来て差し上げたんだ!』


依頼と言う言葉を聞いて、メンバー達はすぐに黙る。


『ふふん、金と暴力と名声が欲しいんでしょう!?それらを一瞬で手に入れる依頼だ、喜べクソ野郎!』


一頻り汚い言葉を喚いたリリは、一息ついてから本題に入った。


『テメェ等が全然仕事できねぇのは、テメェ等がザコって事以上に上位ナンバーが働きすぎだってことにある!』


「…一理ありますねぇ、それ」

「デカイ仕事から小さい雑務まで全部持って行っちまうもんなぁ、あいつ等…」


『ウチはテメェ等を見てていっつも疑問に思う、何で仕事を取る努力をしねぇ!?金が欲しくないのか!?血に飢えてないのか!?ケツデカレディやガチムチイケメンとイン・アウトしたくねぇのか!?』


リリの発言にメンバーはざわつく。


「仕事を取る努力?んなもんやってるに決まってるだろ!」

「アタシ達がどれだけ仕事のために鍛錬しているか…」


メンバーの愚痴を聞いてリリは更に激を飛ばす。


『グチばっかうっせぇよ!行動に移せ!今日の依頼はテメェ等が快適なゴミクズライフを満喫するための第一歩だ!』


「早く依頼を言え!もったいぶるな!」


『ふふん、じゃあ依頼だ!依頼者は清龍党現キャスタニア支部長、清晧月!更にサポートメンバーとして日久組現キャスタニア支部長、日久秀馬!報酬額は前払いで1万、成功次第100万!』


依頼者の名前と報酬額を聞いたメンバー達は一瞬の沈黙の後、耳が張り裂けそうなほどの歓声を起こした。


『しかも一人あたりだから勘違いしなさんな?依頼内容は…』


依頼内容を聞きそびれない様メンバー達は再び黙り込む。


『イブリースナンバー1から10の抹殺!!依頼達成の印としてターゲットが分かる物…武器とか首とかをこの倉庫に持ってくること!』


「…それは…つまり…」


『下克上を成し遂げろ、ゲス野郎!クソの山に踏ん反り返っているゴミ虫を排除すれば、テメェ等の天下だ!!さぁ軍資金だ、持って行け!』


リリはそう言って拡声器を投げ捨て、近くに立てかけてあったPTRS1941を構えた。

そして宙に吊るされていたコンテナの側面目掛けて引き金を引く。

爆音と共に射出された弾丸はコンテナについたスイッチを起動させる。

すると底が大きく開き、中から無数の札束が豪雨の如く降り始めたのだ。

天から注ぐ金をメンバー達は狂喜乱舞しながら貪って行く。


「あー醜い事この上ない。ま、今のうちにテンション上げときなよ。テメェ等如きが上位ナンバー殺せる訳ねぇんだから」


金を取り合い、とうとう殺し合いまで始めたメンバー達をよそに、リリは捨て台詞を吐いて倉庫を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ