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25 洞穴の奥 ~~ケルティック・クロスの発見~~

投稿が遅くなってすみませんでした!

投稿できない間も、読んで下さっていた皆様、本当にありがとうございました!お気に入り登録して下さった方、ポイント評価して下さった方、ありがとうございます。

テウデベルト王子、ミヒャル、ヒューゴは、緑色の厄介極まりない植物をなんとか討伐して、奥の階段を降りて行った。

階段の下には、更に洞穴が続いているが、少し先に出口が見える。


「出口か?」

王子が首を傾げて言う。

洞穴の奥にケルティック・クロスがあるのではないか。

出口があるということは、その先にあるということだろうか。


「ドルイドのババアの言うことも、あてにならんかもしれませんね。」

ミヒャルが答える。

「とりあえず、進みましょうか。」

ヒューゴが促した。


他に選択肢もない。特に危険な魔物がいるような気配もないので、最低限の警戒だけしながら進んで行った。


・・・


「な、なんじゃあ。」

ミヒャルが口をあんぐりと開けた。

洞穴の出口の外は、かなり広い草原になっていた。

夏なのに、涼しげな風が吹き、草が波打って揺れている。


「マン島の中央部の山の裏側が、盆地になっているんですね。」

ヒューゴが考えながら言った。

「だから、洞穴をくぐって向こう側に出ると、人がほとんど入れないところがあって、そこがこういう風になっている、と。」


「さっきの洞穴の入り口は、ほとんど頂上で、そこよりも高い山はなかった。」

テウデベルト王子が言う。

たしかにそのとおりだ。それなのに、目の前の草原の周りは、急峻な山で囲まれている。そのような山は洞穴の入り口からは全く見えなかったはずなのだ。


「まあいいでしょ。要は、この草原のどこかにケルティック・クロスとやらがあるってことなんですから。」

ヒューゴが投げ遣りに言った。

「そうすると、あそこが怪しいな。」

ミヒャルが指差す。草原の中央あたりに、いわくありげな大木が立っている。

洞穴の出口からは、およそ200トワーズ(400メートル)ほどか。

洞穴は、少し高いところにあるから、草原の草の先が、ほぼテウデベルトたちの足の高さにまで生えている。草の根元までは見えないから、草の高さは分からない。


「走っていけば、一発でしょうけど、何もいないかな。」

ヒューゴが疑問を口にした。

「何かいそうな気配はないけどな。」

ミヒャルが楽観論を述べる。

「潜んでいるかもしれない。」

テウデベルト王子は悲観派らしい。

「そもそも、この下は、地面なんですかね。」

ヒューゴが更に疑問を投げかけた。


テウデベルト王子とミヒャルが、ヒューゴの顔を見た。何をいっているのだ、こいつという顔をしている。

「草が生えているんだぜ。」

ミヒャルが静かな声で言う。もし精神に変調をきたしているのであれば、刺激しない方がいいと考えたのかもしれない。


「いやいや、そういうことじゃないんです。沼地とかで、こういう風に草が生えているところとかあるでしょ?」

米の国、日本で生まれ育ったヒューゴの感覚では、こういうところは、意外と水が深かったりするので、そういう可能性もあるというだけのことなのだ。特にここは盆地だから、周辺からの雨を全部ここに集めている可能性もある。


「試してみよう。」

テウデベルト王子は、気軽に言って、そのあたりの大きめの石を拾い上げ、両手で抱え込んで、ボトンと草原に投げ込んだ。


ドスッという音がした。


「ほら、地面だ。」

ミヒャルが言った。

「そうでしたね。」

ヒューゴが答えた。別に不服はない。もしも沼地だったら困るなという程度の話なので、確認ができたのなら、それで構わないのだ。


「じゃあ、行くかね。」

テウデベルト王子が言って、足を踏み出そうとした。


その瞬間、草原の遠くの方から、草が揺れる気配がした。

「おやっ、なんか来るぜ!」

ミヒャルが注意を促した。剣を抜いている。

ヒューゴも小剣を抜いた。ちなみにカリブルヌスは背中に差しているが、どうにも使い勝手が悪い。体格に合わないのだ。


「1,2、・・・3、・・・5頭か。なんだろうな。」

テウデベルト王子が数え上げた。姿は見えないが、草の下をかなり早いスピードで動いているらしい。草の上に線を引いたように筋ができている。それがテウデベルト王子の落とした石の方向に向けて走ってきている。


「王子、少し後ろへ。」

ミヒャルが王子の肩に手を置いて促したが、王子は、「構わん」といってその場を動かず、剣を抜いた。


「なんか見えたぞ!」

ヒューゴが叫んだ。

草原の草の先の隙間から、何かがちらりと見えたように思えたのだ。

「なんだった?」

テウデベルト王子が尋ねる。

「一瞬だったので・・・。動物のようでした。トカゲとか、蛇とか、そんな感じでしたけど、もっと大きい奴だったと思います。


「蛇はあんなに早くはないな。トカゲかな。」

ミヒャルが考えながら言う。


「ガルルル!!」

見えない獣たちが、テウデベルト王子の投げ落とした石に飛び掛かった。くぐもった威嚇音を出している。


「尻尾が見えたぞ!」

ミヒャルが叫んだ。


「あれは、ラプトリクスだな。」

テウデベルト王子が考えながら言う。

「なんですって?」

ヒューゴが聞いた。

「ラプトリクスだ。トカゲの大きなような形をしていて、後ろ足で走る。集団で狩りをすると聞いたことがある。魔獣だ。」


それほど大きくはないようだが、動きが俊敏で、手こずりそうな感じだった。


「うわっ」

ミヒャルが叫び声を上げた。

いきなりラプトリクスの一頭が飛び上がって、テウデベルト王子に飛び掛かったのだ。


「うりゃあ!」

テウデベルト王子は、剣を一閃して、ラプトリクスの喉を切り裂いた。ラプトリクスは、洞穴の出口前の地面に崩れ落ちて、ピクピクと痙攣している。長く鋼のような質感のある尻尾が、パタパタと土を叩いている。


「もう一匹だ!」

ヒューゴが叫んだ。

次のラプトリクスは、飛び上がってそのまま攻撃してくるのではなく、少し脇から登って来て、くるりと走り込んで三人の背後に回った。


「これは俺が見る!」

ミヒャルが叫んで背後を固める。全員で後ろを見ると、草原側が無防備になる。ここはミヒャルに後ろをゆだねるのが正解だろう。


「もう一頭来たな。」

テウデベルト王子が剣を向けながら言う。別のラプトリクスが飛び上がって、テウデベルトの側面に位置した。すぐに次のラプトリクスが逆サイドに飛び上がり、ヒューゴに対峙する。


「もう一頭いるはずだ。」

ヒューゴは小剣を構えながら言う。ラプトリクスに正対していると、草原側に脇を晒すことになる。草原の中は全く見えないから、奇襲を掛けられたら対応できない。


「てい!」

ミヒャルが掛け声を上げて、剣を振るった。背後に回って来ていたラプトリクスが、「ギエェー!」と声を上げて倒れた。


「弱点はどこです?」

ヒューゴが聞いたが、ミヒャルは、「たまたま喉にあたった。そこが弱いかもしれん。」と曖昧に答えた。


ラプトリクスは、テウデベルト王子の知識のとおり、二本足で立っていた。背の高さは、人間と同じくらいで、口は大きく開き、鋭い牙を見せている。前足は、小さくて、胸の脇に添えられている。後ろ足が太いことから、さっきの跳躍もそれでやったのだと分かった。皮膚はなく、鱗に覆われている。


「腹が、がら空きだ!」

ヒューゴは叫んで、ラプトリクスの腹に小剣を突き立てた。予備動作がなく、ラプトリクスが一瞬気を抜いたときを狙ったので、ラプトリクスは対応できずに、腹を刺されて悲痛な声を上げた。


「そこだっ!」

その瞬間、草原からもう一頭が飛び上がってヒューゴの脇を狙ったが、ミヒャルが突き刺して倒した。

「こちらも終わったぞ。」

テウデベルト王子も片づけたようだ。


・・・


「しかし、こいつは、厄介な敵だな。」

ミヒャルが顔をしかめた。

「一頭一頭はそれほど強くないですけど、見通しの悪い草原の底で、こいつらに集団で襲われたら、手も足もでないですね。」

ヒューゴが答える。

「そうだな。少し足を取られたら、あっという間に囲まれて食い尽くされてしまいそうだ。」

テウデベルト王子が考え込んだ。


「三人で円陣を組んで進みますか。」

ヒューゴが考えを口にした。


「ふむ。それしかないかな。」

ミヒャルが難しい顔をする。

背後から襲われないのなら、それだけでも少しは安心だが、それでも草の中からいきなり現れて飛び掛かられるのは、かなり恐ろしい。


「まあ、やってみるか。神が守って下さるだろう。」

テウデベルト王子が言った。どうやら本当にそう信じているらしい。揶揄するような響きはなかった。


「よし、それで行くか!」

テウデベルト王子は、二人に異論がないことを確認すると、自分を鼓舞するように声を上げた。

「「おう」」

ミヒャルとヒューゴも声を合わせる。ここは、腐っていても仕方がない。気合を入れて集中しなければならないだろう。


「ヒューゴが先頭だ。私が右後ろ、ミヒャルが左後ろだ。後ろ向きに進むので、ヒューゴはゆっくりと進んでくれ。」

「了解。」


ヒューゴは覚悟を決めて、草原に飛び込んだ。草は大人の背の高さくらいなので、ヒューゴが入ると目の前は緑色しか見えない。


「えいっ」

掛け声を上げて飛び上がり、大木の方向を確かめた。

「じゃあ、行きますよ。」

「ああ。」


そう言って、ヒューゴは進み始めた。できるだけ物音を立てないようにして進む。ラプトリクスに感づかれないようにするためと、ラプトリクスが近づいてきたときに、物音で察知できるようにするためだ。


5歩ごとに立ち止まり、後ろを確認する。二人が身を寄せてついてきているかどうかを見るのだ。間隔が空くと、分断されて背後から襲われるかもしれない。それは悪夢以外のなにものでもないだろう。

そして、飛び上がって草の上から方向を確認するとともに、ラプトリクスの姿が見えないかを調べる。とりあえずは大丈夫そうだ。


「止まれ。」

小さな声でミヒャルが言った。

「どうした。」

テウデベルト王子が小声で尋ねる。

「かさかさ音がしたような気がしました。」

ミヒャルが答える。


しばらくじっとしていたが、特に何も聞こえない。

「気のせいかな。」

ミヒャルがすまなさそうな顔をして言った。

「いや、大事なことだ。次からも同じようにしてくれ。」

テウデベルト王子が答えた。

「じゃあ、進みますよ。」

ヒューゴが言う。


また、5歩ずつ進んでは止まって警戒する。


「おっと、止まれ。」

次はヒューゴが声を出す。

三人は、黙って耳を澄ました。剣をしっかりと握りしめるが、特に物音はしない。


「すみません、大丈夫なようですね。」

ヒューゴが謝って、それから二、三度飛び上がってあたりを確認する。

「やはり、近くには来ていないようです。」

「それなら良かった。」

テウデベルト王子が答える。

「引き続き、警戒を怠らずに進もう。」

ミヒャルも言う。

あと50トワーズくらいだろうか。


「ひょっとすると、さっきの5頭で全部だったのかもな。」

テウデベルト王子が呟く。

「この草原の広さです、それは考えられない。」


5歩進んだので、ヒューゴが飛び上がって確認した。

「あっ」

「どうした?」

ミヒャルが聞く。

「後ろ、30トワーズほどのところで草が動きました。」

「前は?」

テウデベルト王子が確認する。

「前は特に動きはありません。」

「この距離だ、走ってしまおう!」

王子が瞬時に決断する。

こちらが50トワーズ走る間に、向こうは80トワーズ進まなければならない。それならぎりぎり大木のところまで逃げ切れるのではないかと思われたのだ。


「行くぞ!」

テウデベルト王子が叫び、ヒューゴとミヒャルも一緒に走り出した。


「聞こえるか?」

ミヒャルが走りながら、聞く。

後ろから迫ってくる音が分からないのだ。

「私には、はあ、はあ、聞こえない、はっ」

テウデベルト王子が全力疾走しながら答える。

「えいっ」

ヒューゴが前方高く飛び上がる。

野蛮魔法で強化しているから、それくらいの跳躍はできるのだ。一番高く飛んだ瞬間に、猫のように身体を捻じって後ろを見る。


「後ろ15トワーズ!」

そのくらい後ろに、3つほど草の動きが見えたのだ。

前には、あと5トワーズほどで大木に辿り着きそうだ。


「一気に行くぞ!」

ミヒャルが言うが、それでも律儀にテウデベルト王子を先に行かせる。騎士の鏡ともいうべきであろうか。

ヒューゴは先導だ。


「着いた!」

ヒューゴが思わず叫ぶ。大木が目の前まで見えた。大木の周辺1トワーズほどだけは、草が低くなっている。闘うには、丁度良い平地だ。

「王子、登られよ!」

ヒューゴが後ろを向いて剣を構える。王子は、「すまん! お前たちもすぐ来い!」と叫んで、木をよじ登り始める。


ミヒャルが息を切らしながら大木まで着くが、すぐに上らずに剣を構える。


ガルルゥ!!

威嚇の吠え声を上げながら、ラプトリクスが2頭、草地から飛び出してきた。そのまま跳躍して、上から掴みかかろうとしてくる。

「てやあ!」

ミヒャルが脇によけながら、剣を振るう。ヒューゴは前に出て、剣を頭上に掲げ、ラプトリクスの下腹部を切り裂いた。

「ミヒャル、先に登れ! 俺は身が軽いから!」

ヒューゴはミヒャルに声を掛けた。

「おっ、おう!」

ミヒャルは、草原から出てきたもう一頭を切り殺しながら答えた。


「お先だ、ヒューゴ。お前もすぐに来い。」

「ああ。」

追って来たのは、三頭だけだったと思うが、これでまた増えるかもしれない。

ヒューゴは警戒を続ける。


草むらが、激しく揺れた。

「うわっ!」

一度に二頭が飛び出してきた。ヒューゴは素早く身をひるがえして、大木の陰に隠れた。二頭は二手に分かれてヒューゴを追うが、ヒューゴは一頭を先に切り殺し、もう一頭と対峙した。


「まだ来るぞ!」

木の上からテウデベルト王子が叫ぶ。

どうやら、どこかで群れを刺激したのかもしれない。


「死ね!!」

ヒューゴは叫びながら、もう一頭に斬りつけた。ラプトリクスは、ガルッ!と叫びながら牙を剥き出して噛み付こうとしたが、ヒューゴが後足を斬ったので、バランスを崩した。怒りの鳴き声を上げる。


「上がります!」

ヒューゴは叫んで、跳躍した。空中で、一度足を下に蹴りつける。野蛮魔法は、一度だけ空中で足場を作ることができるのだ。織田信長こと、テウデリクと血杯を交わしてから、野蛮魔法を使いこなすことができるようになっているので、こういうときは便利だ。


「おお、飛べるのか。」

テウデベルト王子が感嘆の声を上げる。ヒューゴは大木の一番低い枝にしがみついた。かなりの高さだ。ラプトリクスは登れないだろう。というか、登れないことを祈りたい。


「なんとか、生き延びたな。」

テウデベルト王子が、間延びした声で感想を述べた。

生き延びたというには、きつすぎる状況ではあったが、王子の平常心は、なかなか見所があるようだ。


「そうだな。この草原は、危険すぎるわ。」

ミヒャルが答えた。言葉が荒くなっている。こういう状況だから、それは別に非礼ではない。


「そして、我らが使命も果たされたというものだ。」

テウデベルト王子が淡々と言った。

「使命?」

ヒューゴが聞いた。


「ケルティック・クロスだ。」

テウデベルト王子は、跨っていた枝の上に立ち、大木の幹に太い綱で括り付けられている十字架を外した。単純な十字架ではなく、交差しているところに丸い枠のようなものがついている。古ぼけた金属で作られていて、黒ずんでいるところが、いかにも由緒ある逸品という感じがする。


「それが・・・、ケルティック・クロスですか。」

ミヒャルが呟く。


「こいつのために、ここまでやらなければならなかったわけですね。」

ヒューゴが溜息をつく。

「それだけの価値があるというものだ。」

テウデベルト王子が重々しく答える。

「そして、我々は、成功したのだ。」


「いや、それは無事に帰ってからのことですよ。」

ヒューゴが下を指さしながら言った。


ラプトリクスの群れが大木の下に詰めかけていた。30頭はいそうな感じだ。

ご一読ありがとうございました。相変わらず戦闘シーンがうまく書けなくて申し訳ありません。難しいですね。戦争の方が書きやすいかもです。早く、大規模な戦争書きたい・・・。

次の投稿も少し間が空くかもしれません。引き続きよろしくお願い致します。

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