23 マン島の洞穴 ~~サボテンマンとの闘い~~
開いて頂いてありがとうございました!
テウデベルト王子と、その仲間たちは、洞穴の前で茫然と佇んでいた。
マン島の最も高い山の頂上は、少し開けた空き地になっていて、大きな岩がずでん、と立っていて、そこに人が入れるくらいの穴が開いていた。
そこまでは良いのだが。
穴に入ったとたんに、前に進めないほど密集して、なぞの植物が生えているのだ。高さは人の背くらい。緑色の太い棒がだらしなく、もっこりと伸びているのだが、その表面には数えきれないほどの微小な針が突き出していた。
「うわ、触ると痛そうだな。」
ミヒャルが言った。
「太陽の当たらない場所に、どうしてこんなに植物が生えているのだろう。」
テウデベルト王子が考えながら言った。
「とりあえず斬りますか?」
ヒューゴが小剣を抜いて構えた。
「うん。」テウデベルト王子が身振りで、始めろ、というような指示を送った。
「やっ!」
剣を一振りしたとたん、謎の植物は、緑の棒をさっと振って、ガキン! と剣を弾き返した。
そして、棒を手のように使ってヒューゴに反撃してくる。
「うおっ!」
ヒューゴが剣で受け止め、一度引いてから、一番太い棒の真ん中あたりを突いた。
ひゅるひゅると、謎の植物が縮んでいって、やがて消え失せた。
「つまりだ。この謎の緑色の植物は、まるで人間のように手を振り回して防戦してくる。反撃する場合もある。しかし、腹に当たる部分などは、どうやら弱点らしい。それをどんどん倒していくと、道が開けるという仕組みだな。」
テウデベルト王子が、結論を出す。
「じゃあ、始めますか。」
洞穴の中は、三人くらいが横に並んで剣を振るうくらいの幅がある。それぞれが自分の前にある植物と闘い始めた。
・・・
「奴らは、動かないんだな。」
ミヒャルが息を切らしながら呟く。
「そうだな。だから、一体一体、順番に斬ることができるのは良いことだ。」
テウデベルト王子が返事をする。
「でも、もう半刻は続けていますよ。」
ヒューゴが疲れた声を出した。
余りに密生しているせいで、前進するのにも時間が掛かるのだ。全く無抵抗というわけでもなく、手のような部位で防御、反撃するせいで、手こずると意外と時間を喰う。
まだ、3トワーズ(約6メートル)くらいしか、進んでいない。
「奥に入ると暗いな。」
テウデベルト王子が言った。
「松明を作って、それを持つ係が一人いりますね。」
ヒューゴが考えた。
「とりあえず今日はこれくらいにしておいてやろう。」
テウデベルト王子が、小物感を出しながら言った。どうもきりがないようだ。
三人は洞穴から出て、野営の準備を始めた。ヒューゴは水を汲みに行く。とにかく喉が渇いてしょうがない。テウデベルト王子は焚火の用意をする。ミヒャルは、干し肉を出して串に刺し始めた。鍋にする方がいいのだろうが、ヒューゴが水を汲んでくるまで待たなければならないから、それよりは焼いた方がいいだろう。干し肉を薄く切って軽く焼くと、なかなか美味しいのだ。調味料がないのは残念だが、ミヒャルもテウデベルトも、香草を探して摘んでくるほどの拘りはない。
・・・
夕食をとりながら、三人は明日の予定を考える。
「とりあえず火をつけて明るくしながら、あとの二人が斬り続けるとするしかないか。」
テウデベルト王子が言う。
「交替でやっていけば、疲れなくてすみますね。」
ヒューゴがいうが、ずっと松明を持っているのもかなり心身を苛むかもしれない。
「じゃあ、それでいきますか。」
ミヒャルが言って、会話は終了した。
男三人、それほど喋ることもない。そのまま寝ることになった。
・・・
次の日の朝。
「なんじゃあ!」
ミヒャルの叫び声が洞穴の中で響いた。
「なんと・・・いう・・・こと、だ。」
テウデベルト王子も茫然としている。
昨日、やっとのことで斬り進んだ3トワーズ分が、新しい緑で埋め尽くされている。
若々しい緑色が実に腹立たしい。
「ええい、とにかく斬り続けるぞ。再生するより早く斬れば、何も問題ない。」
テウデベルト王子が怒りをあらわにした。
(王子が怒るの、初めてみたな。)
ヒューゴは、人間の怒りのツボの不思議さを感じながら、小剣を抜いた。
斬る斬る斬る斬る。
斬る斬る斬る斬る斬る。
きるきるきるきるきるきるきるきる
きるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきる
「おおー、頭がおかしくなりそうだぜ!!」
ミヒャルがうめく。
「なんか、これ、楽しいな。ガハハハハ」
テウデベルト王子は、何かに入ってしまったようで、新しい一面を見せた。妙に下品な笑い方をしている。
「秀吉! 家康! 殺す! 殺す!」
ヒューゴはなぜか前世の人名を叫び始めている。たまに、「グレゴリウス! お前もだ!」と叫んでいるが、これはちょっと世間的にはまずいかもしれない。
昨日よりも切迫感があるので、ペースが速い。
1刻で、10トワーズ(約20メートル)ほどは進み、今では、誰かひとりが必ず火を持って後ろから照らしている。
「あいたっ!」
ミヒャルが腕を押さえた。
「どうしたっ」
やられたらしい。
「うお、すみません、ちょっと外に出ます。」
「ああ。」
「ついでに、しっこして来ますわ。」
「あ、俺も。」
ヒューゴも行こうとしたが、テウデベルト王子に、「一度に二人動くな」と止められた。
「二人だと、ペースが落ちますね。」
ヒューゴが松明を持ちながら言った。
「ああ。半分になるな。」
テウデベルト王子が答える。一人は照明係なので、剣を振るのは二人しかいないのだ。
「すいません。」
ミヒャルが戻ってきた。
「じゃあ、」
ヒューゴが言いかけたが、テウデベルト王子の方が早かった。
「すまん、俺も限界だ。」
「え。じゃあ、早く済ませて下さいね。俺も長くは持ちませんから。」
「くそう!」ミヒャルが剣を振り始める。かなり嫌気が差しているようだ。
「ふぅ。すっきりした。」
テウデベルト王子がさっぱりした顔で戻ってきて、ミヒャルと交替した。ミヒャルが照明係になり、ヒューゴが小走りに出て行く。
「あ、ヒューゴ、水袋を持って来ておいてくれないか。喉が頻繁に乾くのだ。」
テウデベルト王子が思い出した。
「はいはーい。」
ヒューゴは適当に返事をしながら、洞穴から出た。
しげみで用を足し、水袋を手に取ると、思いのほか軽かった。
「あのー、水が残り少ないんで、汲んできますね。」
一度、洞穴の奥に入って声を掛け、水を汲みに行く。
「すみません。水袋置いておきます。」
次はヒューゴがテウデベルト王子と剣を担当する。
ミヒャルは、松明を振り回して遊んでいる。退屈なのだ。
「腹が減った。」
テウデベルト王子が呟いた。
「まだ、昼前くらいですよ。太陽が、高く昇っていなかった。」
ヒューゴが答えた。
「日の出からずっとやっているんだ。一日三食だと持たないかもな。」
ミヒャルが言う。
「交替で飯を食うか。」
テウデベルト王子が言う。
「じゃあ、王子、先にどうぞ。」
「すまぬな。食べ終わったら戻ってくる。」
・・・
「そういえば、干し肉は、残り少なかったな。」
ミヒャルが思い出したように言う。
今はテウデベルト王子が照明係をやっている。
ヒューゴは二回目の用足しに出ている。
「ふむ。前のように兎でも捕まえなければならないか。」
テウデベルト王子が、ブリテン島の沿岸部を延々と北上していたときのことを思い出しながら考える。
「あとで俺がやっておきますよ。」
ミヒャルが軽く言った。
「いや構わぬ。私がやろう。」
テウデベルト王子も譲らない。
「話は聞かせて貰いました。俺がやりますので、お二人はここで英雄的に戦って下さい。ほら、また1トワーズほど進みましたよ。」
ヒューゴが戻ってきて、剣を抜きながら言った。
「いやいや、ここの兎はなかなかすばしっこいからな。俺の方がうまく捕まえられる。」
ミヒャルも譲らない。
「ところで、夜はどうするのですか?」
ヒューゴが聞いた。
「「・・・」」
ミヒャルもテウデベルト王子も絶句した。そこまで考えていなかったのだ。
三人でやっていても、これだけの状況なのだ。夜に全員が寝ていたら、また同じところから始めることになるかもしれない。かといって、交替で斬り続けるとなると、寝る時間がない。
「おっと、」
ミヒャルが植物の反撃を避ける。
思い出したように、また闘い始める。
「ま、まあ。夜になってから考えるか。」
テウデベルト王子が言って、松明をミヒャルに渡した。
「兎の上手な捕まえ方を考え付いた。ここは私に任せて貰おう。」
そう言いながら、そそくさと出て行ってしまった。
「あっ、王子にやられちまった。」
ミヒャルが悔しそうに言った。
・・・
「夜は」
テウデベルト王子が、剣を叩きつけながら思い出したように言った。
「夜は、なんです?」
松明を持っているヒューゴが聞いた。
「三交替で斬り続けることにしよう。」
王子が言う。
「それしかないですかね。」
ミヒャルが緑の手を躱しながら言った。
「照明は、木を組んで松明を立たせるようにすればいいんじゃないかな。」
王子が続けた。
(それを早く言えよ。)
ミヒャルとヒューゴは思ったが、自分たちも気が付かなかったのだから文句はいえない。
とりあえず太い枝を三本組み合わせ、木の蔓をくくって自立できるようにして、そこに松明を立てかけた。
「あー、これで不毛な仕事をしなくて済むようになりました。」
ヒューゴが腕を伸ばしながら言った。
「じゃあ、俺、晩御飯の用意して来ますね。」
他の二人が文句を言う前に洞穴から出た。
夕陽が眩しい。
・・・
交互に食事を済ませ、王子、ミヒャル、ヒューゴの順に斬りまくる担当を決め、ミヒャルとヒューゴが先に寝付いた。
本来なら見張りが必要なのだろうが、なんとなく大丈夫だろうという適当な予想でとりあえず二人は寝ることにした。今頃、テウデベルト王子は、一人で緑色の植物を延々と切っていることだろう・・・。
・・・
次の日の朝、三人が並んで更に斬り始めた。
「夜のうちに少し戻ってしまったぞ。」
テウデベルト王子が怒りながら言った。
どうやら王子は、緑の植物が生えるのが、どうにも許せないらしい。普段は温厚なのだが、どうしても、この謎の緑については沸点が低くなってしまう。
「かなり押し戻されましたね。」
ヒューゴも相槌をうつ。どうやら、少なくとも二人くらいが斬り続けていなければ、再生しはじめてしまうらしい。
「もう一人欲しかったですね。」
ミヒャルも言う。
「うおおおおおぉぉぉぉお! 女剣士欲しいいいいぃぃぃ!!!」
テウデベルト王子が突然壊れてしまった。
ミヒャルとヒューゴは、相手にせずに斬り続ける。面倒臭いのだ。
「女、剣士! 女! 剣士!!」
テウデベルト王子が、ペースを上げて斬り始めた。なんだかリズムが良くなったようだ。
「酒!」
ミヒャルが叫ぶ。
「え、えーと・・・。」
ヒューゴも何か叫ばないといけないらしい。なんとなく無言の圧力を感じた。
「あー、本能寺。本能寺の変!!」
テンパってしまって、自分の忘れたい過去を叫んでしまった。
妙に爽快な気分がする。
三人は叫びながら、斬り続ける。
「ふう。」
テウデベルト王子が、少しだけ手を休める。
「なんか、終りが見えてきましたね。」
ヒューゴが冷静になってコメントする。
緑の壁が、残り少ないのだ。その先は見えないが、少しは進みやすくなるだろう。
「すいません、お待たせしました。」
外で用を足しに言っていたミヒャルが戻ってきた。
「おお、ミヒャル、後少しだぞ、・・・。」
テウデベルト王子が言いかけた瞬間、ミヒャルが松明に躓いた。同じ作業ばかり繰り返していて、判断力が鈍っていたらしい。
「うわっ!」
ヒューゴが飛んで避けると、松明はそのままごろごろと緑の植物の間を転がって言った。
なんとなく三人で手を止めて見ていたら、松明の火が緑の植物に燃え移り、激しく炎上し始めた。どんどん他のものにも広がっていく。
「・・・燃える・・・ですね・・・。」
ヒューゴが茫然として言った。
「そう。植物、だから・・・な。」
王子も呟く。剣を持つ手がだらりと垂れさがった。
残り少ない緑の壁は、10を数えるほどの間に、全て燃えてなくなっていた。
「何をしてたんだ俺たち。」
ミヒャルが崩れ落ちた。最初から燃やせば良かったらしい。
その後、三人が無言で進んでいくと、階段があった。下に降りて行けば良いのだろうか。
ご一読ありがとうございます。
今日も少し短い目です。




