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12 外交交渉 ~~東フランク王の困惑~~

開いて頂いてありがとうございました!

ご指摘いただきましたが、ロゴが「親方」と呼ばれているのは、守護大名のような権威も組織的な主従関係もないから、「お屋形様」と呼ばれるほどの地位にはないからです。どちらかというと、傭兵団のオーナー兼指揮者というような位置付けなので、親方というのが実質的な感覚に近いかと思われます。

シギベルト王は、西フランク王たる、欲しがり屋キルペリクの使節を引見していた。

国璽尚書を務めているアンソヴァルドゥスが派遣されていたのである。


「先日も、ブリトン王国から5000の兵が雑草が丘に送り込まれ、辺境伯ロゴの居城が包囲攻撃されたところでございます。」

アンソヴァルドゥスは手短かに挨拶を終え、来訪の要点に入った。


シギベルト王は、隣りに座る王妃ブルンヒルドをちら、と見た。

ブリトン王国に対し、西フランク王国を攻撃するように依頼するというのは、曲者ボゾ・グントラムの発案であったが、それを強力に支持したのは、姉を殺されて激怒していた王妃である。


「そのとき、ロゴ殿の居城には手勢が10名程度しかおりませんでしたが、辺境伯は村人を居城に避難させ、武器を与えて城の守りを固めさせ、敵の襲撃を見事に凌がれたとのこと。そのとき、ロゴ殿のご子息、テウデリク殿も勇敢に闘い、多くの敵兵を屠ったということでございます。」


「ふむ。それは重畳。」

重畳としかいいようがない。ブリトン王国は、フランク共通の敵であるから、東フランク王としては、ロゴの勝利を言祝ぐべき地位にある。引見の場には、貴顕が陪席している。ここで何が語られるかは、全てガリア全土に広まるのだ。


「ナントの代官であったゴームルは、小勢で突入し、見事な討死を果たしたとのこと。ロゴ殿の領内は、悲嘆の声で満ちております。誰からも尊敬された立派な人物でした。」


「そうか。それはお気の毒であった。」


「ドワーフとケルト人どもは、野営に入りましたが、ロゴ殿や、北隣りの領主、ギリエン殿により夜襲を掛けられ、ドワーフの王も討ち取られるに至りました。なお、その際には、我が息子、ザイルも参戦しておりましたこと、見事にあまたの敵を殺害したこと、私事に至りまして恐縮ですが、付け加えさせて頂きます。」

アンソヴァルドゥスは誇らしげに付け加えた。


「ほう。辺境伯が見事その務めを果たし、領土を忌まわしいドワーフどもから守り切ったこと、実に素晴らしいことであった。」

シギベルト王は、喜ぶ風を装って、ロゴの勇戦を賛美した。

なにしろ東フランク王がブリトン王国と秘密交渉を持ったという事実は、王と王妃、曲者ボゾ・グントラムと宮宰ゴデギセルスしか知らないことだ。もちろんロゴが家宰のガーリナに言って書かせた告発文が、ガリアの有力者にはばらまかれているから、公然の秘密といってもいい状態になっているのだが、それでもシギベルト王としては、公式にはそれを認めていないのだから、その建前を守りきらなければならない。


「つきましては、我が主君、西フランク王キルペリクは、ブリトン王国に報復攻撃をせんと計画しております。私が軍勢を率いてブリトン王国に西から攻め入るつもりでございます。」


「ほう。」


「ブルグンド王グントラム様にも援軍を依頼致しました。グントラム王は、快くお受けになり、エウニウス・ムモルスを将軍として派遣することとされ、既にロワール河に向かって行軍中とのこと。」


兄王の名前が出た。もともとシギベルトの味方だったはずなのに、いつの間にかキルペリク王の肩を持って、中立の立場で仲裁に入ってきたのだ。それだけでも忌々しいのだが、グントラム王が派兵に応じたということは、グントラムも内心では、シギベルトがブリトン王国と通じたことを疑っており、そのことを非としているとも考えられる。シギベルト王は孤立を感じた。


「ムモルス殿か。それは心強いな。」

ガリア最強の戦術家と謳われる人物だ。


「つきましては、王よ、シギベルト様は、我が主が受けた不法な攻撃に対し、どのような援助をして下さいますか。我が主、キルペリク王は、東フランクでも勇名を馳せた、曲者ボゾ・グントラム殿を派遣されたく希望しております。」


西フランク王の国璽尚書は、きつい一手を放ってきた。なにしろ曲者ボゾは、ブリトン王国に対して使節として派遣されたと告発状で名指しで非難されているのである。そのような事実がないと否定しているシギベルト王としては、断りづらい。


「はは。それはよろしいな。」

宮宰のゴデギセルスが笑った。元々ブリトン王国を巻き込むのは反対だったのだ。曲者ボゾとは別に仲が悪いわけでもないが、多少の仕返しは構わないだろう。


「ふむ。当方では、なかなかに余力がないのだ。今もザクセン同盟との戦が散発的に続いておる。」


ゲルマニアの奥地には、未だフランクの支配を拒絶する勢力があるのだ。


「そうですな。先年、キルペリク王も兄君様の出兵に際し、要請に応じて自ら出陣しましたから、そのことは良く存じております。」

アンソヴァルドゥスは攻勢を緩めない。


東フランクは、ゲルマニアに接しているから、フランク勢力を代表してゲルマニア対策をすべき位置にある。そのためには、他のフランク諸王も協力を惜しむべきではないのだ。そして、現にキルペリク王も自ら助力を惜しまなかったという経緯がある。


一方で、西フランクは、ブリテン島やブリトン半島と接しているが、ブリテン島ではサクソン人たちが諸王国を作っていて、特に密接な交渉もなく、戦争もしていない。

しかし、ブリトン半島のブリトン王国と戦争をするというのであれば、これもフランク全体の利益のために戦うものであるから、他の王が断るべき事項ではない。

ある意味、キルペリク王からの初めての協力要請なのだ。

今まで散々ゲルマニア対策で使っておいて、いざ逆に頼まれたら断るというのは、いかにも外聞が悪いであろう。ここでシギベルト王が断ったら、陪席している有力者たちからも、見放されるかもしれない。


「そうじゃな、承知した。」

シギベルト王は渋々応じた。


「では、オーヴェルニュ大公、曲者ボゾ・グントラム殿には、命令書を送っておきましょう。」

宮宰ゴデギセルスが即座に事務化した。



  ○ ○ ○ ○ ○



海軍を建設する。

テウデリクは、張り切っていた。

戦国時代でいう、小早を2隻だけ作っていた。それで新開地であるナントと沿岸地帯を往復させていたのだが、人手が足りないため小さな船しか必要がなかったのだ。


ところが、レイズの村から人間を根こそぎ移住させたものだから、人手には相当余裕がある。そこで、関船を基礎に船を建造しようと思ったのだ。


「グラインガドル、ユーロー、良くやった。」

テウデリクは労った。

テウデリクが、戦国時代の関船を基礎にして、古代ローマ時代のガレー船も参考にしながら言葉で説明したものを、二人で研究して設計図を作ってくれたのだ。


「はい。ロワール河を遡るときのために、船体は細く作りました。櫂は、片側に14本です。」ユーローが説明を始める。

「ふむ。」

「戦士はどれくらい乗る?」

テイズが質問した。ロゴの従士頭だったが、今回海軍を任せられることになっている。

「はい、通常の場合は一隻につき3名程度と考えています。戦争をするときには、15人は乗れます。ただ、そうすると積荷は少なくなります。」

「なるほど。」

テイズはうなずいた。この時代のロワール河は、基本的には無風地帯だから、特に武装する必要もない。


「甲板を張って、その上に矢倉を組みます。この矢倉は、船体とほぼ同じ形です。」

ユーローが続ける。

「安定が悪くなるんだあ。でも、ロワール河だったら、そんなには問題にならないんだあ。」

ドワーフのグラインガドルが横から補足した。


「海でも使いたいよね。」

ヤンコーが口を挟む。

ヤンコーは、ゆくゆくはテイズの後に海軍を任せようと思っている。そのころには、テイズはどこかに封臣として、村を任せられるようになっているだろう。

ブリトン王国に対しては海から襲撃することを計画していた。沿岸伝いに行けばブリトン半島なのだ。


「海に出るときには、矢倉を解体して安定を良くしようと思っているんだ。」

ユーローが説明する。


「解体は手間ではないのか。」

テウデリクが確認した。

「問題ありません。」

ユーローが断言する。あちこちに工夫を凝らしていて、簡単に切り替えられるようにしてあるらしい。


「一方で、ロワール河を下るときには、荷物をたくさん積みこめばいいと思っています。」

そのために矢倉を高く組んで、荷物を大量に積み込めるようにしているのだ。


「そもそもトゥールからナントには、どういう品物が動いているのだ?」

テウデリクは疑問を持った。ナントには特産品が多い。

布、塩、陶器、農具等の鉄製品などだ。最近は、肥料のお蔭で食料も余剰が出始めているから、小麦なども出荷している。


「はい。入ってくる品物は、羊毛が多いです。」

ユーローが答えた。確かにナントでは、時代の最先端を行く機織工場が出来ているから、ロゴの領地で生産される羊毛だけではフル稼働しない。それに需要は底なしの状態なのだ。


「その他では、生活雑貨、衣服、食肉、耕作馬、牛などが入ってきています。」

生活雑貨などには、なかなか手が回らない。衣服も服飾職人がナントに移住してきているが、それは高級品として、ほとんど直接パリやトゥールに運ばれていく。ナントの市民が手に入る服は、自分で布を買って来て作るものか、トゥールで仕立てられた服を買うくらいしかないのだ。


「それと、多いのは、金貨です。」

ユーローが付け加える。

「なるほど、決済するからな。」

取引上は、ナントからの出荷品の方が圧倒的に価値が高い。したがって、その分何らかの形で決済が行われるが、それは現金ということになる。


テウデリクは暗算して、

「では、関船を3隻新たに作って貰おう。それから、小早も3隻ほど追加だ。必要な資金はヴェルナーに言って出させろ。」


資金、労働力、運用に掛かる人手、必要性、戦力その他を総合すると、ほぼそれくらいが妥当だろう。


「はっ!」


それからユーローからは、領内の道路の整備状況などの報告を受けた。ユーローは多方面に働かせているが、しっかり並行して進めてくれている。


「あ、そうだ、ミョルニルだが。」

テウデリクが思い出した。


「あれで作った金属、真銀ミスリルになるらしいな。」

「へ?」

グラインガドルがきょとんとした。

「ミスリルだ。」

テウデリクが繰り返す。

「ええっ!!」

グラインガドルが驚愕する。


「お、おれ、あれで、矢尻とか作ってたし。鉄クズだと思って捨てた奴もあるよお・・・。」

グラインガドルが青くなった。

よく分からないが、ドワーフにとって真銀ミスリルとは、特別なものらしい。


「ブリトン王国が攻めてきたのは、その真銀ミスリルの造り方を知りたいというのもあったらしい。」

「ええっ! そうだったのかあ。たしかに、俺も、真銀ミスリルの造り方っていうのは、知らなかったあ。」

グラインガドルが答えた。


「ミョルニルについては、今のところ返すつもりはない。それから、ミョルニルを使えば真銀ミスリルになるというのも極秘にする。」

「うん。それがいいと思うんだあ。」

「だが、ミョルニルについては、いつか返さなければならないときが来るかもしれない。なにしろ奴らの思い入れが強いみたいだからな。」

「ええー。あの大槌、鍛冶仕事にすごくいいんだあ。」

「なので、ミョルニルで鍛えれば真銀ミスリルになる仕組みを解明せよ。」

「ええー、分かるかなあ。」

「やります!」

ユーローは、乗り気のようだ。


グラインガドルたちが出ていたあと、シノとマイナが執務室に入ってきた。


「テウ様。」

お盆にコップを乗せている。

「ん?」

渡されたので、飲んでみた。


「おお。」

なんとなくお茶に近い香りがする。のど越しも涼やかで、全身が生き返るようだ。


「これはどうした?」

お茶というものがあるということは、昔話したことがあったのだが、どうやら探してくれていたようだ。


「魔の森にあった草の中で、とても良い香りがするものがあったのです。」

「ほう。」

「館の裏庭で育てていたのですが、無事栽培ができることが分かりました。」

「おっ、では、たくさん作れるのだな。」

「はいっ!」

「これはお茶として使えるだけではない。香料にもなる。潰して煮込んだりして、ソースにすると更に売れるだろう。また、線香のようにして使うこともできる。」

高級品として見込みがある。


「シノ、マイナ、良くやった。ガーリナと相談して、父者の領内のどこかの村で栽培指導をするように。」

テウデリクは、村ごとの特産品を作らせようと考えていた。あちこちの村で細かく分業化させると効率が悪いのだ。香料として魔の草が売れるのであれば、村一個を全部それに充てても構わないくらいの価値はある。


テウデリクは、ずずっとお茶を啜った。黄金の味がする。



  ○ ○ ○ ○ ○



ヒューゴは、剣と服を新調した。身の回りのこととしてはそれで十分だ。


幸い、ユダヤ人商人であるプリスクスは、裏庭のある一軒家を用意してくれていたので、とりあえずタンポポやその他の草を栽培することにしていた。ゆくゆくは薬草園として整備していくつもりだ。そして、週に一度くらいの割合で近郊に出て魔物を狩れば、魔物の血が手に入るだろう。そうすれば、片手間で薬剤作りをすることができる。


その一方で、ヒューゴは毎日のように修道院に通っていた。

ゲルマヌスと世間話をするのはなかなかに楽しい。また、蔵書も豊かだし、色々と勉強になる。文明魔法に対する理解もどんどん深まってきているし、密かに火を使う魔法も練習を始めていた。これはなかなか便利なようだ。


また、商人プリスクスのところにも出かけている。薬を卸しに行くという用事もあるが、それに加えて、世界の情勢や商業の仕組みなどを話していると、お互いに得るものが多い。

ヒューゴが、「昔の話だが。」と断って、徳政令というものの仕組みを説明すると、青ざめて黙ってしまった。

代わりに、プリスクスからは、ヒューゴの知らない各地の特産物の話や、融資の仕組みなどを教えて貰っている。特に融資は、王が大戦おおいくさをするときなどには関係が出ることもあるから、細かく仕組みを理解しておく必要がある。


下女としてつけてくれている女は、名をマリと言った。ユダヤ人ではなく、ガロ・ローマ人で、聖教徒ではあったが、何か縁があってプリスクスのところで働いていたらしい。

ヒューゴは容赦なく教育しなおして、今では家の管理も完璧にできるようになりつつある。

食事も毎回買いに行かなくても、家で作らせるようになっている。


ある夜、ヒューゴがマリの給仕で食事をしていたら、ドアを叩く音がした。


「はい。」

マリが給仕の手を止めてドアの前に歩いて行った。ドアは開けずに返事をする。


「ここはヒューゴ殿のご自宅であろうか。テウデベルトが参ったとお伝え願いたい。」

重い声が届いた。


ヒューゴの知るテウデベルトといえば、第一王子しかいないが、何のようだろうか。

ご一読ありがとうございました!

次の投稿もちょっと遅れるかもしれません。

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