27 明智光秀の覚醒 ~~天正十年のその後~~
短い話ですが、本日2話目投稿です。
1話目がまだの方は、戻ってお読みください。
「知らないおっぱいだ。」
そうひとりごちた。
どうやらこの俺、惟任日向守光秀こと明智光秀は、まだ生きているらしい。
誰かは知らぬが、痴女を看病につけてくれているらしい。村井貞勝かな。
ともあれ、お礼を言っておかなければ。
(世話になる。俺は日向守であるぞ。)
「おんぎゃあ、おんぎゃあ、ひゅうが、ひゅうが!!」
思ったような音が出ない。
相当な重傷なのだろうか。
山崎の合戦で敗れ、坂本の城に向けて落ち延びていく途中、俺は竹藪から出てきた落ち武者狩りにやられたのだった。かなり痛かったから重傷なのだろう。
痴女は、なにやら言っている。
「あなた、この子、ヒューゴ、ヒューゴって泣いてるわ。」
「そうか、じゃあこの子はヒューゴっていう名前にしよう!」
「素敵な名前ね!!」
異国の言葉だろうか。良く分からぬ。
ともあれおっぱいを少し飲んで寝た。
・・・
「おおすまんすまん。」
声がした。夢の中で謝られている。
「なんだねお前は。」
「すぐに顔を出すつもりだったのだけどな。ちょっと所要ですぐ来られなかったわい。ゲルマンの神だよ。お前、転生したのだよ。」
ぷっ
笑ってしまった。どこの小説だそれは。まるで信長の書く怪奇小説のようではないか。あいつは、「小姓が書いたのじゃ。」などといいながら、恥ずかしげに自作の小説を見せてきたが、そのなかにそういう設定があった。
「そうかね。」
「お前には特別な能力を授けてやろう。そしてこの時代、この世界で存分に力を振るうがよい。」
なんか説明が足りなくないか。
「すまんすまん、今から_知り合い《テウデリク》と一緒にテウトニ族が古代ローマ帝国に撃破される戦を見に行くことになっておっての。ゆっくり話しておれぬのだよ。それにお前は謀叛人。あまり丁寧に対応すると、関係各方面から苦情が出そうなのだよ。」
「ふん、勝手にしろ。」
「何か能力はいるかね。」
いらんわ、と答えかけて思いとどまった。
「そうだな・・・、特に能力はいらぬ。自前のもので結構だわ。しかし一つだけ望みがある。」
「ほう、それはなんじゃな。」
「それは・・・。」
考えた。そう、俺は誰かに、自分以外の他人に、心服するということがなかった。本当の意味で命を擲ってでも仕えたいという主がいなかった。
「俺は一生を賭けてお仕えできるような主君が欲しい。」
「面白いことを言う男じゃの。お前は謀叛を起こしたのではないか。今度こそは自分の足で立って、思うがままに振る舞いたいのではないか。」
「逆だよ。謀叛をしてみたけど、あれ、意外とがっかりだね。3大がっかり名所みたいな感じだった。やるまでは、『謀叛ってどんなのだろう』とか、『すごく快感かも』とか思ってたけど、やってみたらあっけなかったし、一度やったらもう満足したわ。」
「ふむ。それはそれで結構。しかしお前は、主君に恵まれなかったのではない。お前の心が人に仕えるようにはできていなかったのではないか。お前の魂にそう書いてあったのだが。」
「それはそうかもな。しかし、俺が変わるべきか、それとも完璧な主君が現れるべきか、いずれにしても本当の意味での主君が欲しいのだよ。」
「よし分かった。では、お前の望みをかなえよう。ところで、その望みの代償として、お前の記憶を封印することにするぞ。主君に出会えたら、記憶は元に戻るであろう。」
今、ものすごいことをさらっと言った。
「おい待てや、神いぃ!!」
神は待たなかった。
「では、よい時代を。さようなら~」
「待てえー!!」
・・・
「・・・ばぶー。」(おっぱいおいしいな)
「ばぶばぶ」(おしっこしたい)
「うえーん」(おむつ気持ち悪いよー)
そういうわけで、この俺、明智光秀は記憶を失い、トゥールネ近郊のフランク族農家の赤ちゃんとして、後には、トゥールの修道院の使い走りとして、無自覚な3年間を過ごすこととなるのだ。
そう、修道院の中庭で、我が主と再会するまでは。
俺と信長、手を組めば世界が跪く日は近いんだぜ。
ご一読ありがとうございました。
明日の夜に引き続き投稿できると思います。