15 修業二日目 ~~鍛冶屋での修業~~
本日3話目です。
修業の二日目は、幼児たちは、日が昇る前から館に来ていた。よほど楽しかったようだ。
ネイとヤンコー、ミーレとシノは、そのまま同じように剣と弓の訓練を始める。今日は黒千代の護衛は付けていない。昨日大丈夫そうだったというので、今日はなしにしたのだ。安全には気を配るように言ってある。もっとも、ミーレもシノも相当弓を使いこなせるようになってきているから、おそらく大丈夫だろう。
ヴェルナーには、昨日の夜の食事の間にアラビア数字を教えておいたので、今日はそれを使って村の羊の数を数えるように指示した。
ガーリナは、文字を覚えたので、ヴェルナーについていって、記録係りにさせた。羊の管理をしている人間を記録させるつもりだ。そのついでに数の数え方も覚えるといいだろう。ガーリナも昨日の夜は一緒にアラビア数字の説明を聞いていたので、ヴェルナーについていけそうだ。
「ユーロー、昨日はどうだったか。」テウデリクが聞いた。
「はい。おいら、糸紡ぎ車を一つ作りました!」
早い。覚えがすごく速い。やはり好きなことを一日中自由にやっていると覚えるのも速いのだろう。昨日の夜、家宰のゴームルに聞いてみたが、「見どころがある」と満足そうだった。やはり適材だったのだ。
「今日は、鍛冶屋に行くぞ。」そう言って、テウデリクはユーローと一緒に外に出た。
・・・
鍛冶屋のグラインガドルの家の脇には、妙な小山のようなものが出来ていた。
「おやあ、テウデリク様だあ。この前作った弓は、どうかね。」
グラインガドルが聞いてきた。
「ああ、非常に良い。僕も使ってみたが、ちゃんとできている。」
この時代のガリアの人間は、どういう素質を持っているのだろうか。技術水準は極めて低いのだが、みんな物覚えが異常に速い。弓張り職人の域に達するには、まだまだ道のりは遠いが、とりあえずの物はきちんと作ることができていた。今日も自分の弓を持ってきている。
「今日はお前の弟子を連れてきたのだ。二日に一度、こうやってここに来るので、面倒を見てやって欲しい。晩御飯前には、僕が迎えにくる。ところで、その山はなんだ?」
テウデリクが小山について質問した。
「ああ、これかあ。炭焼きなんだがなあ、穴を掘って上から土を被せるだけだと、炭の質が悪くなるんだあ。それで、こういうのを作ってみたんだあ。」
炉のようなものになっている。
ここ数日で、グラインガドルは、数百年分の技術を飛び越えたようだ。もっとも、ガリア自体が技術的におかしな状態になっている。人の潜在的な思考力や、材料の調達先、製品の需要は充分にあるのに、ローマ帝国の崩壊のために技術力が一時的に壊滅しているだけなのだ。だから、きっかけさえ与えれば爆発的に技術が進展するのだろう。
「鉄はどうか?」
「精錬っていうのができるようになってきただあ。それに鍛造のやり方も慣れてきたし、もうなんでも作れるようになっただあ。」
素晴らしい。
「そのやり方をこの子にも教えてやってくれ。とりあえずは、農具を作ってくれ。あと、釘をたくさん作っておいてくれ。それと、矢ももう少し欲しい。」
農具は、館で回収して村に貸し出すつもりだ。与えてしまっては、あとで人手を出すように協力させるときに面倒なので、貸し出すという形にすることに決めている。
また、釘は前に作らせておいたのだが、もう足りなくなりつつある。
「わかったあ。しかし、鉄がもう残り少ないんだあ。」
グラインガドルがこぼす。
この前1トン弱の砂鉄を持ち込んだ。しかし、これは精錬すると十分の一くらいに減ってしまう。それで、のこぎりを作らせたりしたので、残りが少ないようだ。
「それについては、今日、用人たちと下女を送り出した。明々後日の夕方には荷車が付くと思う。それを受け取ってくれ。」
指示を終え、ユーローを預けた。
次に村長のところに行き、少し話をした。
村で紡がれるのを待っている羊毛が大量に残っている。女たちも忙しいから紡ぐ暇がそれほどない。紡いだものは、自家用にするか行商人に売るかするのだが、その他領主に納める分もある。
それらを全て引き取ることにした。館では、クロティルドたちが手ぐすね引いて待っているのだ。新しい糸紡ぎ車を使うのが楽しいらしい。今は、最初にゴームルが作ったものと昨日ユーローが作ったものの二つだが、明日はユーローがもう一つ作ることになる。その調子で増やしていけば、村の羊毛は全て館の労働力だけで全て処理できるだろう。
紡いだ糸は、館の取り分を除いて村に返すことになっている。もっとも、手間賃として、館が多い目に取ることにしている。それでも村の女手が浮くから、その分畑を多く耕すことができることになる。村にとっても悪い話ではない。
それから館に戻る。ゴームルと相談して、機織り機を作る計画を立てた。設計図を書いていく。これが完成したら、布がこの領地の特産品になるだろう。
更にロゴから従者を借りた。近隣の村長を呼び集めさせる予定だ。それで、同じような取引を持ちかけることにしている。羊毛の山がどんどん糸になっていく情景を想像して、テウデリクの頭の中は黄金色に輝いていた。
ネイとヤンコーのところに行って、手を止めさせた。かなり自信がついてきているようだ。まだ実戦に出すには、ほど遠いことをしっかりと説明して納得させた上で、ミーレとシノのところに行かせる。
「これからシノは鳥を射ち落としてみるように。ネイとヤンコーは護衛だ。」
そう指示した。黒千代も一緒に行かせることにする。
「シノ、鳥は用心深いので、物音を立てずに近づかなければならない。何度もやってみてコツを掴め。」
「はいっ!」
それから、テウデリクはミーレを連れて魔の川に行き、邪鼠を食べ、ミサゴ(オスプレイ)を観察した。ミサゴの巣の位置はまだ分からない。
夕方近くになったので、テウデリクとミーレは鍛冶屋のところにいってユーローを引き取り、館に帰っていった。ゴームルが、改良型糸紡ぎ車を完成させていた。これで3台になる。ユーローがもう一つ作れば、とりあえず館の人手にほぼ見合う程度になるだろう。女手はもう少し多いのだが、他の仕事もあるから、4台あれば十分なのだ。
・・・
ネイから報告を始める。
「木剣の振り方には慣れてきました。従士さんが色々教えてくれたので、この調子で頑張ります!」
ヤンコーも隣でうなずいている。
「よし、その調子で訓練をしつつ、シノの護衛も頼む。」
ヴェルナーが発言する。
「数の数え方、アラビア数字の使い方は、完璧に覚えました。村の人数も羊の数も全部分かりました!あと、ガーリナに教えて貰ったので、文字も覚えました!!」
やはりこの子は頭が良い。
「うむ。では、ヴェルナーとガーリナは、文字の使い方を教えていくことにしよう。ガーリナは明日から、全員の修業の様子を日記の形で記録に残していくように。」
実は紙がない。木の皮を渡していくしかないが、書く練習と、組織管理の経験になるだろう。
ユーローが報告する。
「鍛冶屋さんのところで、炭焼きを手伝いました。おいらも意見を言って、炭焼き釜を少し改良しました。」
こっちも素晴らしい。3歳児がガリアの工業技術の最先端を走っているのだ。
「良いぞ。明日は、糸紡ぎ車を一つ作って、できればゴームルと一緒に機織り機の設計図を考えてくれ。」
あと、染色ができるようになれば完璧なのだが、これは先送りしてある。
シノが最後に報告した。
「鳥を落とせるようになりました。気配を殺して近づけば、なんでもありません。」
やはりそっちの才能があるようだ。
「鳥は用人の方に渡しておきましたので、今晩食べられるそうです。」
「うむ。よくやった。シノ、鳥に触れるほどにまで気づかれずに近づけるように励め。」目標を与えておく。
実に順調だ。
ここまでの訓練成果
○ネイ(4歳) 戦士見習い。
○ヴェルナー(4歳) 算術士 文字
○ガーリナ(3歳) 文字 算術士
○ユーロー(3歳) 工芸士 鍛冶屋見習い。
○シノ(2歳) 忍び見習い 弓兵見習い
○ヤンコー(2歳) 戦士見習いの見習い
ご一読ありがとうございました。
技術的な面で、ちょっとおかしいというようなところもあるかもしれませんが、お気づきの点など教えて頂ければありがたいです。
本日の投稿はこれで終わりの予定でしたが、もう1話行けそうです。
夜9時頃、投稿致します。