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14 修業じゃ! ~~人材こそ国の宝~~

本日投稿2話目です。

ネイたちがテウデリクの配下になることを約束して一週間が経った。


朝早くから、ネイたちは館の柵の前にやってきていた。

ミーレが館の中に招じ入れ、1階のテーブルに座らせた。


テウデリクが座って待っている。


「まずは、お前たちには、自分を鍛えることを中心にやって貰うことを考えている。今後はこの館で食事が出る。それ以外は給金は出ないが、今後の働きによっては考えて行くこととする。そのように親に説明せよ。それから」


テウデリクは毛皮を出した。邪鼠の毛皮だ。もうかなりたまっている。30匹分くらいはあるので、とりあえずの代価としては充分だろう。


「一人につき一枚ずつこれを与える。家に持ち帰り親に渡せ。親が不安がるようであれば、僕が説明に行く。」


これで曲がりなりにも雇用関係が成立した。


「ネイ」

まずリーダーから呼んだ。


木で削った剣を渡した。

「これで鍛錬せよ。やり方は後で説明する。」

「はい。」ネイは緊張しきった顔で木剣を受け取った。目がきらきらしている。木剣を受け取って喜ばない幼児はいないだろう。


「ヴェルナー」

「はい。」

テウデリクは、木の板と棒をヴェルナーに渡す。棒は、炭を細長く削って、布を巻いてあるものだ。

「これで村の人間の数を数えよ。人数が分かったら報告に来い。」

「はい。」

ヴェルナーは首を傾げながら答えた。

「意味が分からぬか?」

テウデリクは笑みをたたえながら聞いた。

「はい。これは何の訓練ですか?」

「算術だ。お前には学問をしてもらう。まずは数を数える練習から始めるのだ。」

「は、はい。」

ヴェルナーは賢い子どもだ。何か感じ取ったものがあったのか、少し納得した様子だった。


「ガーリナ」

「はい。」

アルファベットを彫った木の板を渡した。

「文字を教える。俺の手が空いたら説明するから、まずはその板の字の形を覚えておくように。」

「はい。」

これは、比較的理解しやすいようだった。


「ユーロー」

「はい。」

「あとで、うちの爺に引き合わせる。爺は木工をするのだが、それを手伝っていくように。明日は鍛冶屋に連れて行く。一日毎に爺と鍛冶屋の手伝いをしてくれ。」

「はいっ」

「ユーローは物を作るのが好きか。」

「はい。」

実はユーローだけは、実際の仕事をしながら修業をさせる予定だった。そうすると自分だけ何も教えて貰えないと感じるかもしれない。一人だけ不遇だと感じると、今後の統率に支障が出るかもしれないから、ちょっと説明を要すると判断した。


「物作りは、実際にやってみるのが一番良い。ユーローには、この館や村を作り変えていくことを任せることを考えている。必要なところに橋を渡し、水路を掘ったり、村の共同の建物を建てたりすることを学んで貰うつもりだ。そのために、まずは爺と鍛冶屋に学んで貰うことにするのだ。」

「あ・・・分かりました!」

どうやらユーローが漠然と夢見ていた自分に合致するようだ。


「シノ」

「はい。」

和弓を取り出した。

「この使い方をミーレに学べ。」

「はい。」


シノは忍びにするつもりだった。

しかし、最低限の護身の技術がなければ修業させられないから、まず飛び道具の練習をさせることにしていた。


和弓の作り方を鍛冶屋のグラインガドルに説明したら、ちゃんとそれなりのものを作ってきたのだ。3張用意させて、自分の分とミーレの分、そしてシノの分ということにした。ミーレには、一昨日から使い方を説明して、練習させているから、ミーレが指導することができるようになっている。

矢もいくつか作って貰っていて、練習用の場所も丘の裏側に用意しておいた。


「ヤンコー」

「はい。」

木剣を渡した。

「お前もネイと一緒に鍛錬をするのだ。もっとも、お前はまだ身体が出来ていない。後で見に行くから、お前なりの身体の鍛え方を考えていくことにする。」

「はいっ」

ヤンコーは、子供たちの中で最も荒事に適性がありそうだった。粗暴な振る舞いはないが、戦闘を身体と精神が求めているのだ。悪い犯罪者にならなければ、良い兵士になるはずだ。この二つは、似ているようで全く違う。テウデリクはヤンコーを模範的な歩兵にしようと考えていた。将来自分の軍勢を持つようになったとき、ヤンコーに訓練を任せるために、自分が最も理想とする歩兵に鍛え上げるつもりなのだ。


「ネイ、お前には、ゆくゆくは乗馬を教えるつもりだ。」

「えっ」ネイが茫然とした顔をした。

「ずっと先の話だがな。」

「あ・・・はいっ!」


「うむ。」


一通り指示を終えてから全員の顔を見回した。


「では、朝飯を済ませれば各自取り掛かるように。ヴェルナー、昼飯を食いに館に戻ってくることを忘れるな。」

「はい」


こうやって、子供たちの修業の日々が始まったのだった。


・・・


ゴームルがテーブルに近づいた。

「テウ様、この子がユーローじゃな。」

「そうだ。よろしく頼むぞ。」

「はい。」


ユーローは少し恐ろしげにゴームルを見た。ゴームルは家宰だから、下の村との関わり合いが最も多い人間の一人だ。しかも元戦士で片足だから、村の恐怖の的になっている。


しかし、朝食を終え、ゴームルに案内されて糸紡ぎ車を見せられたときには、ユーローの目が輝いた。

(こういうものを作ってみたかった。)

ユーローが自分でも気が付いていなかった自分の夢の作品が目の前にある。こういう複雑で機能的なものを見てみたい、作ってみたいと、ずっと思っていたことにユーローは初めて気が付いた。

(俺の居場所はここだ。この老人のそばだ。)

そう思った。


ゴームルはユーローを館の外の空き地に連れて行った。

そこにはのこぎりが置いてあった。鍛冶屋のグラインガドルが完成させたのだ。

「これは、のこぎりじゃ。」ゴームルは重々しく言った。

「これはラヴェンナかコンスタンチノープルでしか手に入らぬと言われていたものじゃが、テウ様が鍛冶屋に命じて作らせることに成功したものじゃ。このガリアの地には、数えるほどしかないじゃろ。これで木を切ることができるのだ。」

ユーローは首を傾げた。木を切るのなら斧がある。なぜこのような薄い妙な形をした道具を使わなければならないのか。

「これは自分が思ったとおりの切り方ができる。大雑把なものを作るのなら斧で済むが、さっき見せたような糸紡ぎ車を作るのなら、これがなくては酷く時間が掛かってしまうのだ。」


ゴームルは、のこぎりを持った。板をユーローに押さえさせる。足が悪いから、自分で踏むことができないのだ。


ギシギシ


音を立ててのこぎりで板を切って見せた。

「うわっ!」ユーローは驚いて声を出した。思いもよらぬほどまっすぐな線が板に入っていく。

「はじめよ。ワシは館の中で別の作業をしておるからな。何か分からぬことがあれば、顔を出せ。」それからゴームルは厳しい顔をした。

「ここで習う技術は、あるじの許しなくしては外に漏らしてはならぬ。しかと心得よ。」


「はいっ!!」ユーローは恐る恐るのこぎりを手に取った。

(これは、宝物だ。)ユーローは作業を始めた。夢中になって切っていく。


・・・


テウデリクは、ネイとヤンコーを館の外、柵の中の空き地に連れて行った。

太い木を横に渡してあって、その木に印が付けてある。それが二つ用意してある。

「これを20回打て。それから丘を降りて水を汲んで来い。それを繰り返す。」

テウデリクはネイに渡した木剣を手に取り、構えて打ってみた。綺麗な形だ。

「お前たちの体格に合わせて高さを調節してある。」


ネイとヤンコーは、何度かやってみて、テウデリクに姿勢を直され、要領を掴んだようで、剣を振り始めた。ついでに水汲みもさせるつもりなのだ。女たちの仕事を減らせば、他の仕事をさせられるという目論見なのだ。


・・・


ヴェルナーは、悩んでいた。

木の棒の使い方は分かった。黒い棒が布に包まれていて、木の板に擦り付けると線が引けるのだ。それで記録を取ることができる。しかし、どうやって村の人間の数を数えればよいだろうか。


テウデリクが近づいてきた。

「ヴェルナー困っているのか。」

「あ、はい。」

「村の家を一軒ずつ回って、その家に住んでいる人間を数えるのだ。分からなければ家のものに聞け。そして、人間の数だけ、○を書いていくと良い。同じ家を二回数えないように気を付けるのだぞ。」

「あっ、なるほど。分かりました。」

ヴェルナーは理解が速い。これだと、数字を教えても大丈夫だろう。テウデリクはアラビア数字を教えるつもりだった。一般に使われているのはローマ数字だが、これは便利が悪い。効率的なのはアラビア数字だ。まずアラビア数字を教えて算術に慣れたところで、ローマ数字を教えようと計画していた。

ヴェルナーは、急いで出て行った。

やり方が腑に落ちると、やってみたくなったらしい。


・・・


ガーリナに近づいた。木の板をばらけさせて困惑している。どう覚えればよいのだろうか。


「まず、この三つを覚えよ。」

テウデリクが、ABCの板を選んだ。

「これがABCだ。」自分で書けるようになるように。」

「はい。」ガーリナが首を傾げる。


「また後で来るからな。そのときは、DEFを教えてやろう。」そういって、テウデリクは忙しそうに別のところに行った。


・・・


ミーレとシノは、柵の外に出ていた。護衛のため、黒千代も付けている。腹ばいになって舌を出しながら周りの気配を確かめている。何か近づいたら吠えて知らせてくれるだろう。


「いいですか、これは弓です。」ミーレが説明を始めた。

シノは、まだ2歳だが、驚くほど美しい顔をしていた。

「ところで、シノ、あなたはなぜ銀色の髪をしているのですか?」

ミーレが尋ねた。


「あ、はい。その、私のお祖父ちゃんは、100年前にこの村に来たのだそうです。フン族のエッツェルに連れられてきた人で、ゲルマニアの森に棲んでいたんだそうなんですが、エルフと人間のハーフだったと聞いています。」

シノが髪を掻き揚げて耳を見せた。少し先が尖っているように見えなくもない。


「なるほどエルフの血を引いているのですね。」ミーレが分かったような顔をした。実はエルフのことはほとんど知られていない。伝説的な種族なのだ。


「テウ様は、あなたのことを斥候役に考えているようです。エルフの血を引いているあなたなら、立派な斥候になるでしょう。」そう励ましてミーレはシノと和弓の練習を始めた。

本当は忍者に仕立て上げるつもりなのだが、そういっても誰にも分からないから、テウデリクは「斥候役的な何か」にしようとミーレに説明していたのだ。


なお、村の人間に性能の良い弓を教えることには、少し躊躇いがあったが、シノなら大丈夫だろうと信じることにしたのだ。自分の忠実な部下にする。そうすれば、技術が外に流出して反乱の際に厄介なことになったりはしないだろう。


テウデリクは少し顔を出して、ミーレとシノが弓を引く姿を見ると、満足したように帰って行った。


忙しい。ロゴとゴームルと相談して、糸紡ぎの仕事を館に集約させようと目論んでいるのだ。最初は村に配ろうかと思っていたが、糸紡ぎ車の仕組みが広まってしまう。しばらくは館の下女だけに触らせるようにして、羊毛を集めて館で大量生産させようと思っていた。そうすると村の女たちの手が空く。それで何か別のことをさせられるのだ。


そこは村長も含めて相談しなければならない。


本日、あと1話続きます。

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