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5 ゴームルの回想 ~~爺と呼ばれた片足の男~~

本日2話投稿の1話目です。短くてすみません。また、ちょっと場面が変わります。

そのころ、雑草が丘の館、ロゴの友人にして家臣、当代風にいうならば家宰と呼ぶべきであろうか、60歳に近い年齢になった元戦士、ゴームルは、館の一階のテーブル席で、太い木の枝と短刀スマクラサクスを握って、にやついていた。


(戦場に出たいが。)

そう考える。フランクにして元戦士。望むは戦場のみ。しかし、このような傷ついた身には、それは望むべくもない。


ゴームルの父はクローヴィス王の従士だった。ゴームルは、クローヴィスの子、クロタール王の従士になっていた。


聖歴561年、テウデリクが産まれる4年前のことだが、クロタール王は、息子クラムヌスがアクィターニアで謀叛したのを討伐した。クラムヌスは父クロタール王によって、妻子ともども小屋に押し込め周りに薪を積み重ね火を着けて殺されたのだった。もっとも、ゴームルは、その場面は見ていない。その前に戦で重傷を負っていたのだ。右足が切断されていた。


フランクは、仲間や従者と共に戦場に出るので、負傷した場合は、仲間たちに看病して貰える。しかし、ゴームルの仲間たちはみな討死していたので、ゴームルはその場にいた誰かに肩を借りて、自分たちの荷車にまで戻ってきたが、そこで天幕を張ることもできず、荷車に乗ることもできず、車輪にもたれてじっとしていたのだった。最低限の止血だけはできたが、そのまま死ぬことになりそうだったのだ。


王も諸侯も戦士、従士らも、みな今は勝利の祝宴に出ている。負傷した者も、誰かに手当を受けているが、フランクの軍に組織立った治療部隊などあるはずもなく、救護は自分でなんとかしなければならないのが鉄則だった。運悪く仲間たちが全滅したのであれば、あとはどうしようもない。ゴームルは既に諦めていた。


「おいおいゴームル、あんなに立派に戦ったのに死にそうな顔じゃねえか。」

従士長のロゴが目の前に立っていた。


ゴームルは驚愕した。王の従士は全部で3000人はいる。流動が激しいから、全部の名前を憶えていることなど不可能だ。ゴームルも古参だから、ロゴと喋ったことは何度かあるが、名前を憶えられているとは思わなかったのだ。


「祝宴に出なくてもいいのか。」

「あんまり気が進まなくてな。反逆者とはいえ、王の息子だった人だ。俺も気にかけて貰っていたよ。それにあの人の従士長とも俺は仲が良かった。よく一緒に飲んだものだ。敵味方に分かれたのは残念だったが、お前に討ち取られたんだ、あいつも本望だろ。」


「俺が・・・? そうだったか。」全然記憶にない。この時代、誰が誰を討ち取ったかということは、それほど重要ではない。戦場で大きな声を出して、前線に近いところにいたことが認識されていれば、その評判が蓄積して勇士として尊敬されるようになる。それだけのことなので、よほど名のある武将が一騎打ちでもしない限り、誰が誰を討ったかなど、人の記憶に残るようなことではなかった。


ロゴは身を屈めゴームルの足元に座り込み、止血帯をほどき始めた。薬草を口に入れてもぐもぐ噛んで、それを傷口に塗りたくり新しい布を出して切れた足に巻き付けて固定した。


「借りるぞ。」と言って荷車の上を漁り、水袋と干し肉を渡してくれた。

「なんか口に入れとけ。今日は祝いの日だ。」


「・・・そうだな。」


ロゴは毛布をゴームルに掛けて、そのままどこかに行ってしまった。

クロタール王が次の営地であるブレーヌに向かって行軍を始めたとき、ロゴは従者を一人送ってよこして荷車を引かせてくれたので、ゴームルは、無事ブレーヌまで帰ることができたのだった。荷車といっても、大八車のようなものなので、従者が一人死ぬ思いで曳けば、一応なんとかなるのだ。


(クロタール王があの後すぐに亡くなるとは、あのときは全然思わなかったな。)

そう、クロタール王は、ブレーヌで大狩猟を催し、その後突然病死したのだった。


クロタールの残された王子たち、カリベルト、グントラム、戦好きシギベルト、欲しがり屋キルペリクは、手に手に松明を持って、嘆きの歌を歌いながら葬列に参加したのだった。

その後キルペリク王子はロゴに焚き付けられて兄たちに抜け駆けしたということになる。先王の従士たちが圧倒的にキルペリク王子を支持したのは、キルペリクのばら撒きが功を奏したのみならず、ロゴの人望があったからだといえよう。


(そして、結局、ここに落ち着いた。)

ロゴが声を掛けてくれたおかげで、領主の家宰に落ち着いた。それがなかったら、どうなっていただろうか。遠縁を頼って、さ迷い歩いていたかもしれぬ。家族はいなかったが、親戚ならいくつか顔が浮かぶ。養ってくれと頼んだら、断られることはないだろうが、自分でも迷惑だろうと思う。おそらく肩身の狭い思いをして生活することになっていただろう。そう考えると、ロゴに着いて行くことができたのは、本当に幸運だった。


家宰だから、自分で戦う必要はほとんどない。たまに魔物が出るから撃退する程度で、それなら騎乗している限りなんとかなる。

館の管理については、用人たちがやっているのを監督していればいい。

家事はクロティルドと侍女のレイナが下女たちを指示するので、おおまかに見ていれば問題ない。

唯一の問題は、暇だということだったが。


(そして、テウ坊だ。)


もう一度、にやりと笑う。

面白い子だ。


ロゴに斧と刀をねだっていたのを見て、わがままな子ではなかったはずだが、と不思議に感じたのだったが、遊びに振り回すでもなく、ミーレのために奇妙な木の武器を作って渡しているのをみて驚いた。その後もしっかりと実用しているようだが、手入れも怠らずにやっている。成年のフランク戦士でもしないほど丁寧に扱っている。


ミーレに渡した武器も、「ナギナタ」と言っていたが、ミーレの体格を考えると、極めて合理的な武器だ。刃がついていないのも安心だし、かといって、刃にあたると思われる部分は薄くなっていて、斬撃に近い衝撃を敵に与えられるようになっているから、護身用としては充分な威力がある。


ゴームルは触発された。

木で何か作ってみたくなったのだ。

それで置き場から大小さまざまな薪を何本か取ってきたのだが、何を作ろうか迷っていたのだった。

それを見たテウデリクは、「そちも何か作りたくなったか。」と言って、テーブルの上に小枝を並べて、「こういうのを作ってみろ。」と、簡単な歯車の組み合わせの仕組みを説明してくれたのだ。


何日も掛かって、歯車を上手に作れるようになると、テウデリクは満足げに笑って、「ここからだぞ。」といって、より複雑な仕組みを要求してきた。


それから、どういう工具が必要かゴームルとテウデリクで相談した。流石に斧と短刀だけでは足りないので、ゴームルは村外れの鍛冶屋のところに行って、テウデリクが説明したような工具を作って貰うよう交渉しにいったのだった。

鍛冶屋は、「そんなもの、作ったことねえ。」と言って渋ったが、なんとか承知してくれた。


鍛冶屋に払う報酬として、クロティルドに頼み込んで布を大量に持ち込んだ。クロティルドは、「うーん、テウに聞いてみる。」という2歳児の母にあるまじき対応をしたが、テウデリクが口添えしてくれたらしく、ありったけの布を出して必要なだけ与えていいと言ったのだ。


鍛冶屋が作ってくれた工具は確かに使い勝手がいい。きりなどは、意外なほどに使い道が多かった。今はもう手放せない。


テウデリクが要求した工具のうち、のこぎりだけは作って貰えなかった。鍛冶屋にいうと、

「そいつは失われた技術だあ。」と言って、悲しげな顔をしたのだ。昔はあったそうなのだが、今ではラヴェンナかコンスタンチノープルまで行かなければ手に入らないだろうということだ。


そもそもなぜそういうものを知っているのか、どうしてそれを欲しいと思ったのかしつこく聞かれたのだが、館の中の話は外では気楽に話さないことにしている。特にテウデリクのことは秘密にしようと思っている。


だから、「いや、そういうのがあると便利だと思った。」の一点張りで説明したのだが、

「想像だけで、そんなものが欲しいと思う時点で、あんた、才能があるんじゃねえかあ。」と言われ、改めてテウデリクは凄いと思った。


のこぎり欲しい。

のこぎりって、どんなものなのだろう。

のこぎりを持つって、どういう気分だろうか。

のこぎりを使うと、どんな凄いものが作れるのだろうか。


ゴームルは木工工作の奥深さに確実に取りつかれてしまっていた。


のこぎり欲しい。

ご一読ありがとうございました。

実は、ゴームルが何を作ろうとしているのか、まだ決めていません。

木で比較的簡単に作れるもの、又はその模型で、かつ、内政に効果がありそうなものを考えているのですが、なかなか思いつきません。

なにかいいお考えないでしょうか。

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