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19 宴会じゃな ~~ゲルマンと酒について~~

開いて頂いてありがとうございました。

「おおっ!これが我が子か!! テウデリクよ、父であるぞ!」


フランク族の男が僕を抱き上げている。身には鉄製の鎧を付けているが、それはかなり薄い。ぼこぼこ凹みがついている。これは想像だが、技術的な理由から、一枚板以外の甲冑が作れないのだろう。一枚板で厚くすると重くなりすぎるから、薄く作ってある。これでは、刀で斬られて大丈夫であっても、槍で突かれたら、穴が開くかもしれない。


いずれにせよ、僕は、この、ロゴと名乗るらしいフランク族の領主にきちんと挨拶をせねばなるまいと思った。


「ばうばうっ、ばば、あい、うぅ、バッブゥー!!」

(そちがロゴと申す者であるか。こたびは、遠征大儀であった。そちの留守中、奥方のクロティルドには大いに世話になった。今は赤子の身じゃが、早急に褒美を取らせるつもりじゃ。しかし、何分非常事態だからな。いや、実は明智に謀叛されたのじゃよ。)


錆猫に野蛮魔法の力を譲渡されてから、赤ちゃんの割には言葉が快調に出てきて実に気分が良い。

僕は、ロゴに抱きかかえられながら、ロゴの胸板を拳でトントンと叩いて、その忠誠を労った。


「おお、テウデリクは、なかなかの力持ちだな!しかも父のこともちゃんと分かっているらしい。そうじゃ、テウデリクよ、父は多くのゴブリンを屠って来たのだぞ!お前も大きくなったら連れて行ってやる。」


・・・


全然通じていなかった。


ロゴは、30代半ばくらいの男で、なかなかの面構えをしている。ひとかどの武人と見た。実用一点張りの武具に、がっしりとした体格を包んでいる。その実直な姿からは、腹芸など到底できなさそうな印象を受けるが、碧眼の光は鋭く、陰謀の才もあるように見える。だからこそ、赤子になったこの僕、織田信長を預けられたのだろう。


ロゴは、僕を抱きながら、あちこちに指示を飛ばしている。クロティルドも館の女たちを指揮して、柵の中の空き地にテーブルや椅子を用意している。どうやらこのまま宴会に突入するようだ。

(風呂に入れよ)

そう思いつつ、このフランク族に、それを期待するのはちょっと難しいことは、内心理解していた。


少し遅れて荷車が丘の上についたらしく、柵の門が開き、歩兵たちが入ってきた。


「そなたらもご苦労じゃった!討死したのは、エルトじゃったな。村から嫁を呼んで参れ。見舞金を渡すとともに、状況を説明してやらんといかん。それと村長にも声を掛けてやれ!」


荷車には、何か分からぬ肉が、どん!と乗っていた。あとは金色の値打ちのありそうな物があれこれ乗っていた。ゴブリンというのは、金目の物を集めているのだろうか。


「これどうしたの?」

クロティルドが聞くと、近くにいたロゴの従士が、

「ロゴの親方が帰り道に、あちこちの領主のところを回ったんでさ。今回、兵を出さなかったところが結構あるけど、親方が戦ったお蔭で、奴らも助かったんだから、多少の礼をするのは当然だっていって、巻き上げてきたんだ。」と答えた。


なるほど。よくある話だ。

土豪の中で勇ある者が、戦える土豪を引き連れて、大きな戦をする。共通の敵を討つのだ。それに協力できない事情のある土豪は、あとで恐喝の対象となる。戦に兵を出さなかったことは、いい口実になるということだな。滅ぼされないだけありがたく思えということなのだろう。

そうやってだんだん強い者が人望を集め、ついには大名となる。父信秀もそんな感じだったわ。最後の仕上げは僕がやったんだけどね。


ロゴはあちこち動き回りながら、誰かからコップを渡されてそれを飲み始めた。酒の匂いがする。クロティルドが近づいてロゴから僕を受け取った。クロティルドも、うろうろしながらもう飲み始めているらしい。宴会の準備はまだできていないけど、とりあえずなし崩し的に始まっているようだ。クロティルドからも酒の匂いがする。そしてクロティルドは、あちこちの従士に声を掛けて回っている。なかなか立派な武士団と見えたから、僕も極力声を掛けてやることにする。「アゥアゥ、バッバー」としか聞こえないようだけど、気持ちは伝わるだろう。そのうちに女たちが肉を焼き始める。


荷車に座っていた男が飛び降りてこちらに歩いてきた。

ロゴの配下の戦士たちや、歩兵たちと違って、煌びやかな衣装を着ている。破れたり汚れたりはしているが、みすぼらしいほどには傷んでいない。手には手琴のような奇妙な楽器を持っていた。


「おう、フォルトゥナトスよ。お前も食え!」

どうやら旧知の楽士らしい。ロゴは大声でフォルトゥナトスと呼ばれた若い男に話し掛けた。


フォルトゥナトスは、どちらかというとラテン人風の雰囲気を身にまとっていた。文明的というか、都会的というか、垢抜けた印象を持っており、その分ひ弱ではあったが、ゲルマン族との付き合い方にも慣れているようだった。しかし商人のような打算的な空気は持っておらず、一定の節度を保ちつつ権力者と向き合っていくという姿勢が確立されているように見えた。


(なんとなく茶人を思わせるな。)


フォルトゥナトスは、にこやかに笑いながら、

「やっと人心地がつきましたよ。ロゴ殿たちに拾われて、ついてきて良かったですけどね。そうでなかったら、荒野で野垂れ死にしてたでしょう。何しろ狼に襲われたときに荷物も従者も全部失いましたからね。いやいや、クロタール王の従士頭をされていたロゴ殿が、ここの領主になっておられたとは、ずっと知りませんでしたが、これも私にとっては幸運というべきでしょう。お礼に何か一曲歌いましょうか。」

と答えた。


ロゴは、

「そいつはありがたいが、後回しだ。まずはお前が喉を潤してからだ。キルペリク王の身辺の話も含めて色々と聞きたいこともある。でもとりあえずは飲め。その間に、俺は今回の遠征の話を留守の者たちに聞かせてやらなければならん。留守の間の報告も聞く。余興はそのあとだ。そして余興の後は、お前の知っている、数多の内緒話を漏らして貰おうか。」

と言って、フォルトゥナトスに酒の入ったコップを渡した。


・・・


「それで、俺たちは、森の奥へ奥へと進んでいったわけだ。森の民がいて、ゴブリンどもの集住地のある方向を教えてくれた。おおよそ近づいてから、四方から囲んで殲滅したんだ。」


椅子に座って、ロゴが機嫌良く話す。完全に包囲するのか。ゴブリンというのが何者なのか知らないが、あまり褒められた戦法ではないと思う。しかし、話の内容からするとゴブリンというのは、異種族であって、逃走させることよりも全滅させることの方が重要なのかもしれない。

そうであれば、このロゴの指揮は間違っていない。いずれにしても、日本の戦国の習いをそのままここに持ち込むべきではないと、僕は慎重に考えることにする。


ご一読ありがとうございました。

フォルトゥナトスは、実在の人物だそうです。

次の投稿も少し日が掛かるかもしれません。

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