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珠姫を宥めて部屋を出て朝食に向かう。
この間、珠姫は俺の手をしっかりと握ってる。
こんな敵地(?!)で、この行為は自殺行為だと思うのだが、珠姫がそれを理解してくれることはないのだから仕方が無い。
ご飯は部屋でも食べられるようになっているはずなのだが、当然の如く、集った親戚一同で朝食を囲むらしい。
俺の前を歩く澪さんがブツブツと不満を零しているのが聞こえる。
それを真さんが情けない顔して宥めている。
本当に大変だ。
ざわっ。
ああ…うん、やっぱりこういう反応なのね。
昨日と同じ宴会場のような広間に入れば、昨日と同じような人の反応。
やりにくいったらない。
だが、よく見てみると、昨日と違って人の固まりに偏りがあった。
結構若い面々だけで集っているテーブルがあったり、反対に年配ばかりで集っているところあったりだ。
どうやら今日は年代別やら何か違う法則で座っているらしい。
そうすると、俺たちは何処に行くべきか……。
気のせいじゃなければ、それぞれの固まりから視線が飛んできているのが分かる。
ああ……分かった。
珠姫は何処でもよさそうだ。
というか、何処彼処からも望まれていると言った方がよいか……。
ははは…人気者だな、珠姫は。
「おい、皇紀」
名前を呼ばれて声の聞こえた方向に視線をやれば、ニヤリと笑った顔とぶつかる。
あの顔は見覚えがあった。
昨日露天風呂に来た内の1人だ。
名前は―――
「大河」
名前を呼び返せば、笑顔が深まったような気がした。
何故お互いに昨日の今日で呼び捨てなのかというと理由は簡単だ。
ただ、同い年だという接点があったからだ。
まあ、それだけだったら、苗字で呼び捨てといったところなんだが、同じ苗字の人たちが集ってるからな…。
仕方ないので名前で呼ぶことになったわけだ。
「こいこい」と手で呼ばれて、断る理由もなくてそちらに向かう。
俺が向かえばその後ろを当然の如く珠姫がついてくる。
「飯、此処で食えよ」
「…ああ」
隣の空いた席を示されて、これまた断る理由もなくて頷く。
一応、澪さんのほうに視線をやれば、笑顔で頷いてくれたので大丈夫だ。
で、珠姫もその横に自然と座るわけで。
周りの席から音なき抗議の声が聞こえた気がしたが、気のせいだと思う。
いや、気のせいだと思いたい。
俺の心の平穏のために。