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目の前にはそれなりに鍛えられている男の体。
…男の裸体なんて見て楽しむ趣味はないのだが。
珠姫の親戚だからか、それとも真さんの家系の遺伝子か、目の前の男の顔は整っている。
「…どうも」
黙っているわけにもいかない。
短めに応えて、申し訳程度に頭を下げた。
それとともに男の体から視線をさり気なく逸らす。
見なくていいなら、男の裸体など出来る限り見たくはない。
挨拶だけで終わりにしたいと思う俺の心など相手には伝わらない。
男は俺の横にその身を沈めてくる。
え?これって普通??
予想以上に近い場所に陣取った男に唖然としているうちに、次々と他の奴等が湯船に入ってきた。
……勘弁してくれ。
もう男の裸は腹いっぱいだ。
目の前に広がる光景に、悪夢かと叫びたい衝動に駆られる。
目を回しかけた。
動揺から回復し、気付けば3人の男たちに囲まれる状態となっていた。
何故だ?!
「…疲れた」
露天風呂から上がり、今は部屋へと帰っている。
男たちに囲まれた後、何故か相手と自己紹介をする羽目になった。
俺を囲んだ3人の男は、珠姫の従兄妹で、軽く自分たちのことを教えてくれた。
真さんは4人兄弟の末で、彼らはその真さんの上の兄たちの子どもらしい。
真さんのお兄さんたちはそれぞれに子どもが沢山いて(長男は3人、次男が4人、三男が4人の子どもがいる)、その内娘は長男、次男、三男の子どもたちを合わせても2人しかおらず、珠姫を入れたとしても3人しかいないという話だった。
他の親戚筋も男が多く、女は少ないらしい。
所謂、男系の家系というものだろう。
珠姫への親戚たちの過剰な反応の一端が分かったような気がした。
…それでも、全てを納得できたわけではないが。
あの反応は異常すぎるからな!
「皇ちゃん!」
あと少しで部屋に着くといったところで、珠姫の出迎えを受けた。
浴衣に着替えているのと、髪の毛が濡れているところから、風呂には入ったことが分かりホッとする。
これで、まだ風呂に入ってなかったら、何を要求されるか分かったものじゃないからな…。
珠姫の頭に無意識に手を置いて顔をしかめる。
「……髪はちゃんと拭けって言っただろうが」
「皇ちゃん待ってた」
「……」
……そうですか。
俺に拭けと言うわけだ……。
「部屋に入るぞ」
ため息ひとつ。
珠姫を促して俺は部屋に向かう。
部屋に入ってどうするかって?
……言うまでもないことだろう。