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E9  作者: 阿川時定


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 知らないことを知るために本を読んだ。絵本も読んだし、教科書というものも読んだ。

 分からない単語については辞書を引いた。

 これでだいぶまともになったと思う。

 あたしはイーナ。もうE9(イーナイン)じゃない。


 歌が好きだと気づいた。学校のクラブでそれを選んだ。でも何か違う気がして、それをやめた。

 テレビというやつで歌手を見た。あんな風がいい。そう思って時々歌う。歌をあまり知らないから、手探りみたいに、作りながら。

「歌手でも目指してんのか」

 義兄(あに)のマックスがそう言った。

「……うん。うん!」

 そうだと言いながら気づいた。

「頑張れー」

 応援が嬉しい。


 人があまりいない場所を選んで歌う。そんな時に足音が余分に聞こえた。

 振り向いた。

 耳に集中するとよりハッキリわかった。

 あたしのほうから、隠れている一人に近づいた。それは一瞬でできた。

「ひっ」

「ねえ、なんで?」

 本で知った。筒は銃。森でのあの筒とは少し違うけど、小さな筒、銃を持った男だ。

 その銃をあたしが思いっ切り握ると、やっぱり筒の部分が曲がった。

「こっちだ、こっち! ひっ、殺さないで!」

「なんで殺すと思うの?」

 曲がった銃をその辺に捨てると、あたしはちょこんと座ってみた。

 その時には、後ろに人が近づいてきているとわかっていた。

 振り向いて、また筒を曲げる。

 すると、この男も銃を捨てて、

「わかった。もう追わない」

 ふと、家が心配になった。二人のことをほうって、帰ってみる。

「ただいま」

 お義父(とう)さんのことはわからないけれど、三人が無事なのはわかった。

 あたしは怖くなった。巻き添えに()わせてしまうかもしれない。


 その日は何事もなく夜を過ごせた。お義父(とう)さんも無事に仕事から帰ってきたし。本当に追うのをやめたのかもしれない。

 でも、研究の仕方が変わっただけなのかもしれない。

 E9(イーナイン)だからか銃を向けられた。それがなぜなのかを考えた時、怖くなる。

(あたしはふりだったけど、本当のD7(ディーセブン)E8(イーエイト)なら()けられないかも)


 話すことに決めた。

 テーブルを前に、左手側にお義父(とう)さん、お義母(かあ)さん、右手側に義兄(マックス)義弟(ジョニー)、そのあいだにあたし。

「あのね。言いにくいけど、あたし、言わなきゃいけないことがある」

 みんな、黙ってあたしの言葉を待った。


「あたし、(すご)く離れた所の話し声も聞こえるし、かなり遠くのものをハッキリ見ることもできるの。筋肉も凄くて」

 近所から持ってきた廃墟の鉄筋を目の前で曲げてみた。

「超人だ」

 ジョニーがそう言って、

「なんで打ち明けたんだ?」

 マックスは冷静だった。

「ランクがあって、Eはほとんど凄い力のない人たちなの。あたしはあの場所が嫌だったから、知られないようにした。ふりをした。Eのふりを。でも本当はS。Eの人は何人かいて、あたしは9番だった。だからE9(イーナイン)。町に来た時、イーナって呼ばれ始めてそれでイーナになったの。でもね、あたしは無事だけど、本当のE6(イーシックス)D5(ディーファイヴ)B8(ビーエイト)が連れ出されて銃を向けられたら、()けられないかもしれない」

「それってつまり、結果が出ない用済みは()らないってことか」

と、マックスが言った。

「そんなことをやってるのはどこのどいつなんだ?」

 ジョニーも聞いてくれて。

「立ち入り禁止区域が少し遠くにある。そこ。誰の所有地? それがわかれば」

 すると、お義父さんが、

「それなら、ファーグラント製薬だ。だけどまさかそんな」

「本当だよ」

 あたしがそう言うと、お義父さん、つばを飲み込んだみたい。


 家族を失いたくない。

 こんなに不思議な話をちゃんと聞いてくれた家族を、なくしたくない。

 だから、人質にされるのも怖いと思った。

「あたしについて来て」

 その日のうちに、立ち入り禁止区域のフェンスの前まで行った。

 お義父さんは休みを(もら)ったらしい。

 監視カメラに映らないようにギリギリまで車で近づいて、停めると、降りて眺める。


 あたし一人ならジャンプして行ける。とりあえず、一人ずつだっこしてジャンプした。

 三人を運び終えると、一緒に中へ。きっと近くにいたほうがいい。

 入ってすぐに、認証カードを胸からぶら下げた所員がいた。

 あたしは、

(いま思えば、幼稚園みたいな所だったなあ)

と思いながら、その所員の認証カードを奪い取って、それから、

「何もしないで。何もしなかったら、あたしからも何もしない」

 その所員は、コクコクとうなずいた。


 家族とその所員、みんなを連れてエレベーターを使った。階段はなかった。

 二階や三階に到着するたんびにすぐに出て左右を確認して、走り出した。

 所員相手に欠かさずお腹へのパンチ。

「うぐ」

なんて言いながら倒れて動かなくなる。

 まだ動く人には、再度近づき、そのあごを持ってぶるんと震わせた。本で読んだ。脳震(とう)


 そうやって全階で所員全員を気絶させると、

「どうしてこんなことするんだ」

 言われた。多分A3(エースリー)とかD4(ディーフォー)とかの男の子。Bの聴覚グループの可能性は少ない。あたしのきっかけも超聴覚のおかげだったから。

 彼にあたしは、

(イー)が殺されてる。あたしたちだけよければいいってもんじゃない。止めないといけない」

と言い切った。

「本当に?」

「あたしはEのふりをして、そんな目に()った。銃を向けられた」


 ここでの会話を、ジョニーの持っていたおもちゃのレコーダーで録音していた。

 バッチリだよね、と目を向けると、ジョニーは、グーサインをあたしに向けた。

 さて、まだ立っている所員は、一緒について来ていた所員だけ。あたしはその人に、

「知ってた? これだけのことが起こっていたこと」

と聞いた。すると、

「し、し、知らなかった! 健康状態の確認だとか、絵本を読むことくらいしか!」

 それも録音しておいた。


 ファーグラント製薬のその所員も連れて、C1(シーワン)A2(エーツー)なんかの超筋肉の子たちも連れて、大勢で、今度は外に出て、フェンスを跳び越えた。

 それから、ファーグラント製薬に乗り込んだ。

 やったことは、さっきと同じ、気絶させること。それから、部長、課長、社長、会長なんかを捕まえて、録音した音声を聞かせて、

「この実験をやめて」

「わ、わ、わかった」

と答えたのは、社長だけだった。関与していたのはどうやら彼だけらしい。その声も録音した。

「じゃ」


 あたしたちは警察に行って、このことを話した。でも話しただけでは駄目だった。

 目の前で超人的能力を見せてみる。あたしが率先して、その辺の鉄パイプの椅子を簡単にぐちゃぐちゃにしてみせた。あたしだけじゃなくS1(エスワン)A2(エーツー)C1(シーワン)C2(シーツー)C3(シースリー)も。B1(ビーワン)は遠くから見ていた警察官の小さな独り言「嘘でしょ映画じゃん」を言い当てた。

 警察官たちは驚いた。納得したらしい。


 警察はあの敷地内を調べた。

 そして社長は逮捕となった。


 超人のあの子たちは、ひだまり養護施設に預けられた。自分たちが普通じゃないことも知った。手加減も覚えた。そして誰からも狙われていない。


 だから、これからは心配しなくていい。

 歌を応援してくれるマックスや、手伝ってくれたジョニー、お義父さんやお義母さんを、あたしはもう失わない。

(学校で、なんて言われちゃうかな)

 それだけはちょっと気になっちゃったりして。

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