表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
E9  作者: 阿川時定


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/1

1

 筒を持った男がこちらにそれを向けた。

 森の中。

 男は二人。二人ともが黒っぽい服を着ている。同じ服じゃない。特に決まりはないらしい。

 あたしは白の上下だけを着ている。

 そばには車というものがあって、それがあたしたちをここへ運んだ。


「これは仕事だ。仕事だからな」

 男がそう言って、人差し指だけを動かした。

 何かが来るのがわかった。あたしがそれを()けると、

「な、なんで」

と、男が不思議そうに。

 近づいて手を当て、筒を曲げると驚かれた。

「ひ、ひい!」

 男たちは筒を捨てて車に乗ろうとした。

 だから、あたしはその手を持ってひねった。

「はぎい!」

 片手を押さえながら走る男と、それについて行く男。二人が逃げていく。

「こっちこそ聞いていい? ねえ、これってなんで?」

 あたしはすぐ横を走りながら。

 でも。

 男の一人が木にぶつかって倒れた。

「あーあ、前を見ないから」

 もう一人の男は走る方向を変えた。

「あ、そっちは」

「ああああ!」

 崖を落ちていった男が、動かなくなった。

(イー)のふりをしたからかな」

 あたしは人の声がするほうへと歩くことにした。と言っても、かなりの距離がある。途中からは走った。


 道路が見えて、その向こうに町がある。

 その町へと入っていった。

 人が多い所にいると、その目がこちらに何度も向くのがわかった。

(あたしが何か変?)

 確かに白の上下の人はまったくいない。これが変なのか。


 それにしても、お腹が()いた。

 何か食べたい。

 (にお)いで、食べ物がある場所はだいたいわかる。

 食べ物の絵みたいなものが描かれた台の前に、食べ物をくれる人がいるのを見て、あたしもそこに並んだ。

 で、あたしの番が来た。

「ご注文をどうぞ」

「これ」

 頼んだバーガーが割とすぐに来た。それを受け取ったあたしはすぐにそこを去ろうとした。

「お金を、お客さんお金!」

 本で知っている。そうか、こういう時にお金がいるんだ。でも持ってない。

「持ってないよ」

「それじゃあそれは食べさせられません」

「食べたい」

 すると、『ご注文をどうぞ』と言った人が、

「警察に通報しましょうか?」

ってあたしに向けて。

 辺りがざわついた。

 そこであたしが、

「警察って何? 通報って何?」

と言うと、

「悪いことをしたらお世話になる場所のことよ。通報はそのための連絡のこと」

と『ご注文をどうぞ』の人が親切に教えてくれたから、

「ごめんなさい」

 お金と交換しないのは悪いことなんだ。初めて知った。

「どうしたらいい?」

 あたしがそう言うと、『ご注文をどうぞ』の人が、

「あたしが払うから一仕事して」

 だから、あたしも『ご注文をどうぞ』の人になって、隣で教えてくれるまま、クルーという人たちに注文を伝えた。次の客のほしいものを出してあげると、

「じゃあ、どうぞ」

 最初の『どうぞ』の人がそう言った。


 あたしは手を振って、改めて手にしたバーガーを近くの席に座って(ほお)張った。

(うん、おいしい)

 外側が紙なのはあたしにもわかる。それを口にはしていない。

 ただ、食べ終わったあとの紙をどうしたらいいかがわからない。辺りをきょろきょろしてしまう。

(あ、ここだ、これゴミ箱ってやつでしょ)

 四角い穴に入れ、これでよしという顔を作った。


 その時だ、大音量でうるさい音が近づいてきた。

 それも車だった。車というやつには種類があるらしい。

 その車から降りてきた二人があたしを見ると、

「名前は? どこに住んでた?」

と聞いてきた。

「名前……イーナイン」

 あたしが答えると、もう一人の男の人が、

「イーナインちゃんね。イーナちゃんでいいか。ねえイーナちゃん、家はどこかわかる?」

「家は、わからない。いた所は、遠く。遠くの、そこが家かは、わからない」

「家族は?」

「わからない。わからない……」

(あれは、あの人たちは、家族だったの? そうなのかな。わからない)

「森の中の建物」

「そこにいたのかい?」

「うん」

 言ったほうがいい気がした。

「じゃあちょっと来てくれるかな、きみのためにもなるよきっと」

 その二人の車に乗せられて、あたしがどこの森にいたかを案内したかったけど、

「ここ」

と、立ち入り禁止のフェンスの向こうを指差すと、

「ちょっとここからは上と相談して入らないといけないな」

 危険な感じがした。

「早く帰ったほうがいい。きっと。早く」

「あ、ああ、そうかい?」

「あたしには家はないから」

 そう付け足せば早くここを去ってくれる気がした。

「あたしはあそこにいさせられた」

「いさせられた? どうして」

「……わからない」

「とりあえず家も家族もないのなら、施設にいてもらうことになるけど」

「それでいいよ。早く」

「わかった」

 車が動き出した。

 立ち入り禁止のフェンスの前から去って着いた所は、ひだまり養護施設という所だった。


 ひだまり養護施設にいた期間は短かった。

 すぐに引き取られて、また車で連れられて、

「ここが今日からきみのおうちだ。ほら、入って」

 そう言ったのはお義父(とう)さん。

「名前はイーナでいいんだよね?」

「うーん、いいよ、最近あたしをみんながそう呼ぶし」

「じゃあほら、イーナ、入って?」

 お義母(かあ)さんからも呼ばれた。


 あたしは十二歳くらいらしい。どこかの学校に通う手続きを、いつかするみたい。

 お義兄(にい)ちゃんと義弟(おとうと)ができた。

 この人たちは筒をあたしに向けないかな。向けないといい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ