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筒を持った男がこちらにそれを向けた。
森の中。
男は二人。二人ともが黒っぽい服を着ている。同じ服じゃない。特に決まりはないらしい。
あたしは白の上下だけを着ている。
そばには車というものがあって、それがあたしたちをここへ運んだ。
「これは仕事だ。仕事だからな」
男がそう言って、人差し指だけを動かした。
何かが来るのがわかった。あたしがそれを避けると、
「な、なんで」
と、男が不思議そうに。
近づいて手を当て、筒を曲げると驚かれた。
「ひ、ひい!」
男たちは筒を捨てて車に乗ろうとした。
だから、あたしはその手を持ってひねった。
「はぎい!」
片手を押さえながら走る男と、それについて行く男。二人が逃げていく。
「こっちこそ聞いていい? ねえ、これってなんで?」
あたしはすぐ横を走りながら。
でも。
男の一人が木にぶつかって倒れた。
「あーあ、前を見ないから」
もう一人の男は走る方向を変えた。
「あ、そっちは」
「ああああ!」
崖を落ちていった男が、動かなくなった。
「Eのふりをしたからかな」
あたしは人の声がするほうへと歩くことにした。と言っても、かなりの距離がある。途中からは走った。
道路が見えて、その向こうに町がある。
その町へと入っていった。
人が多い所にいると、その目がこちらに何度も向くのがわかった。
(あたしが何か変?)
確かに白の上下の人はまったくいない。これが変なのか。
それにしても、お腹が空いた。
何か食べたい。
匂いで、食べ物がある場所はだいたいわかる。
食べ物の絵みたいなものが描かれた台の前に、食べ物をくれる人がいるのを見て、あたしもそこに並んだ。
で、あたしの番が来た。
「ご注文をどうぞ」
「これ」
頼んだバーガーが割とすぐに来た。それを受け取ったあたしはすぐにそこを去ろうとした。
「お金を、お客さんお金!」
本で知っている。そうか、こういう時にお金がいるんだ。でも持ってない。
「持ってないよ」
「それじゃあそれは食べさせられません」
「食べたい」
すると、『ご注文をどうぞ』と言った人が、
「警察に通報しましょうか?」
ってあたしに向けて。
辺りがざわついた。
そこであたしが、
「警察って何? 通報って何?」
と言うと、
「悪いことをしたらお世話になる場所のことよ。通報はそのための連絡のこと」
と『ご注文をどうぞ』の人が親切に教えてくれたから、
「ごめんなさい」
お金と交換しないのは悪いことなんだ。初めて知った。
「どうしたらいい?」
あたしがそう言うと、『ご注文をどうぞ』の人が、
「あたしが払うから一仕事して」
だから、あたしも『ご注文をどうぞ』の人になって、隣で教えてくれるまま、クルーという人たちに注文を伝えた。次の客のほしいものを出してあげると、
「じゃあ、どうぞ」
最初の『どうぞ』の人がそう言った。
あたしは手を振って、改めて手にしたバーガーを近くの席に座って頬張った。
(うん、おいしい)
外側が紙なのはあたしにもわかる。それを口にはしていない。
ただ、食べ終わったあとの紙をどうしたらいいかがわからない。辺りをきょろきょろしてしまう。
(あ、ここだ、これゴミ箱ってやつでしょ)
四角い穴に入れ、これでよしという顔を作った。
その時だ、大音量でうるさい音が近づいてきた。
それも車だった。車というやつには種類があるらしい。
その車から降りてきた二人があたしを見ると、
「名前は? どこに住んでた?」
と聞いてきた。
「名前……イーナイン」
あたしが答えると、もう一人の男の人が、
「イーナインちゃんね。イーナちゃんでいいか。ねえイーナちゃん、家はどこかわかる?」
「家は、わからない。いた所は、遠く。遠くの、そこが家かは、わからない」
「家族は?」
「わからない。わからない……」
(あれは、あの人たちは、家族だったの? そうなのかな。わからない)
「森の中の建物」
「そこにいたのかい?」
「うん」
言ったほうがいい気がした。
「じゃあちょっと来てくれるかな、きみのためにもなるよきっと」
その二人の車に乗せられて、あたしがどこの森にいたかを案内したかったけど、
「ここ」
と、立ち入り禁止のフェンスの向こうを指差すと、
「ちょっとここからは上と相談して入らないといけないな」
危険な感じがした。
「早く帰ったほうがいい。きっと。早く」
「あ、ああ、そうかい?」
「あたしには家はないから」
そう付け足せば早くここを去ってくれる気がした。
「あたしはあそこにいさせられた」
「いさせられた? どうして」
「……わからない」
「とりあえず家も家族もないのなら、施設にいてもらうことになるけど」
「それでいいよ。早く」
「わかった」
車が動き出した。
立ち入り禁止のフェンスの前から去って着いた所は、ひだまり養護施設という所だった。
ひだまり養護施設にいた期間は短かった。
すぐに引き取られて、また車で連れられて、
「ここが今日からきみのおうちだ。ほら、入って」
そう言ったのはお義父さん。
「名前はイーナでいいんだよね?」
「うーん、いいよ、最近あたしをみんながそう呼ぶし」
「じゃあほら、イーナ、入って?」
お義母さんからも呼ばれた。
あたしは十二歳くらいらしい。どこかの学校に通う手続きを、いつかするみたい。
お義兄ちゃんと義弟ができた。
この人たちは筒をあたしに向けないかな。向けないといい。




