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三国志・王脩伝ー義に厚き漢ー  作者: 涼風隼人


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8/22

第8回 王脩、父親に会う

 王脩と黄文は、孔融から言われた通り、それぞれの実家に一旦戻ることにした。

 

 黄文が言う。

 「私の両親には、淑治と出会い人生の転機が訪れたことを報告して、この期間は孝行に専念することにしようと思う。」

 

 「私もまずは報告を。そして、練達殿同様に今に至るまで全くできていない孝行に専念したいと思います。」

 

 「それでは、一〇日後に。再会した時から、私たちの関係は変わる。私は淑治を上官として敬い、主簿殿、淑治様、といった呼び方に改める。」

 

 「それは、やはり必要なことでしょうか?」

 

 「もちろん。私と淑治二人きりで働くのではない。淑治より、年上の者たちも皆、そうするわけだから、私だけ特別扱いは駄目だ。」

 

 「わかりました。私もそう呼ばれることにふさわしい仕事をしたいと思います。」

 

 こうして二人は一旦別れ、それぞれの実家に戻った。

 

 王脩の実家である竟陵県は、馬を飛ばせば半日ほどで着くことが出来る距離である。

 

 早朝に出発したことから、日が落ちる前には到着をすることが出来た。王脩はそのまま、実家に向かった。

 

 まだここを離れて一年もたってはいないが、それでも、なんだか妙に懐かしい気分に王脩は浸った。そして言う。

 「淑治、只今戻りました。」

 

 しばらくすると、王万が出てきた。王万が言う。

 「おお、淑治ではないか。本当に良きことをしたな。」

 

 「ご存知、なのですか?」

 

 「もちろんだ。張奉殿がわざわざ私宛に丁寧な礼状を送ってくれた。我が息子として、誇らしい。」

 

 「おほめ頂き、ありがとうございます。そして、もう一つご報告がございます。」

 

 「さあ、その報告は中で酒食でも取りながら聞こうか。」

 

 王脩は誘われるまま、王万の居室に入った。

 

 王万の居室には、無数の書が積まれている。王脩は、王万の居室に入った事がほとんどないため、改めて父が学問にどれだけの情熱をもって取り組んできたのかがわかったような気がした。

 

 王万と王脩は互いの盃に酒を満たし、一口飲んだ。王万が言う。

 「さて、先ほどの報告を聞こうか。」

 

 王脩は、孔融に仕えるに至るまでの話をかいつまんで語った。王万は驚いて言う。

 「何と・・・。孔融様から直々のお招きで主簿の職を頂いたと・・・。」

 

 「はい。そして、孔融様が今回の事を報告に実家に戻る時間をくださったので、こうして帰ってきた次第でございます。」

 

 「これは、張奉殿がお前に恩を感じて、お前の事を士分や名士に聞こえるように喧伝してくれたのであろう。しかし、我が息子が早くも仕官が成るどころか、名士中の名士、孔融様に直々にお仕えするなど思ってもみなかった。」

 

 「私も今回のお話は、張奉殿のおかげだと思っています。」


 「淑治よ。お前は、名士の孔融様からお招き頂いた時点で、自分も名士の末席に座ったことを自覚し、今後は行動をしなければならない。」


 「私が名士、でございますか?」


 「そうだ。今回の登用の話も、お前が思うほど以上の速さで、名士や士分の者に広がるであろう。そして、面会を求める者も多く訪れる可能性がある。」

 

 「それは、本当でございますか?」

 

 「ああ、間違いなくそうなる。名士と言うのは、自分が名士だ、と誇らないもの。周りの人間にその仁なる心や義が認められ、おのずと名を高めていくのだ。淑治よ、言うまでもないであろうが、今後も精進を怠るな。」

 

 「わかりました。本日頂いたお言葉、胸に刻み生涯忘れぬように致します。」


―翌日―

 家の周りが、何やらざわついた雰囲気になっている。


  王脩は気になり、外を見てみると、門の付近に人だかりが出来ていた。王脩はそのうちの一人に聞く。

 「これは、一体、何事でしょうか?」

 

 「もしかして、王淑治様でしょうか?」

 

 「いかにも。私が、王淑治です。」

 

 周りの人間のざわめきが大きくなる。王脩が聞く。

 「私に何か御用でしょうか?」

 

 「いえ、この竟陵県から孔融様に直々に登用されたお人がいると聞いて、どういった方か一目でも見てみたいと思いまして・・・。」

 

 「そうですか。ここは教場も兼ねており、これから弟子たちが出入りをする時間になりますので、申し訳ございませんが、お引き取りください。」

 

 「わかりました。ご迷惑をおかけしました。しかし、こうやってお会いし、お話できたこと、私は忘れませぬ。」

 

 集まっていた者たちは、散会した。

 

 弟子たちが出入りする時間になった。

 

 弟子たちが、遊学する前の自分を見る目と明らかに違う目であることに、王脩は気付いた。

 

 「名士になりたい」ということは、王脩自身も漠然と考えていたが、どうやってなるかは、わからなかった。しかし、名士に声を掛けられ、登用されることで名士の一員として、世間が自分を見るということは、今日だけで十分にわかった。

 

 王万は講義に入る前に、弟子たちを落ち着かせようと、王脩を呼んだ。ひとまず、短い時間でも王脩のここに至るまでの話をさせて方がいいと判断したのだ。

 

 王脩は王万に促されるまま、ここに至るまでのことを話した。

 

 弟子たちは、興味津々の目で王脩を見つめて、聞き入っている。王脩は話の最後にこう語った。

 「この中で勘違いをする人はいないと信じるが、改めて一つだけ言っておくと、人助けは決してなんかしらの見返りを求めて行うものではない、ということだけは理解しておいてほしい。私と同じ状況になった時、これで名声を得られるかも、など考えないで、仁と義に基づいて行動してほしい。」

 

 弟子たちは皆、頷いた。

 

 王脩は、朝から夕方までは王万の講義の手伝いなどを行い、夜は王万と二人酒食を取って、静かに語らう日々を過ごした。

 

 そして、孔融の下へ戻る日になった。

 

 王万だけではなく、弟子一同はもちろん、近隣の住民も大勢集まり、王脩を見送った。王万が言う。

 「淑治よ。これだけの人がお前のために集まってくれていることに感謝の気持ちを忘れるな。そして、決して驕ってはならんぞ。」

 

 「はい。皆様、私の様な者のために、こんなにお集まりいただき、ありがとうございます。皆様のご期待に応えられるよう、政務に励みます。では、これにて」

 

 王脩は最後の挨拶をし、孔融の下に戻って行った。


 こうして、「自分も名士である」という自覚を持った王脩が、孔融の下で政に携わり、その名を益々上げていくことになるのである。

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