第35回 (最終回)王脩、死す
郎中令として数年間つとめたが、とうとう体が思うように動かなくなってきた。黄文の死を思い出す。黄文もきっと、こういったことを感じながら、先に逝ったのであろう。
体調不良を理由に、官を辞すことは許された。
王脩は、療養につとめたが、なかなか思うようにはいかず、病床についたままである。
あれほど、民のため、民のため、と自分を叱咤し、精力的に動いていた自分が信じられないほどに、体がしんどかった。
様々な役職に就き、それなりに華やかな官途を歩んできた。
しかし、家の中には財らしい財はなく、あるとすれば、大量に積まれた書物くらいのものである。
儒学を基本として父親から学び、その都度、必要な知識は独学で学んできた。儒学だけで治まる世の中ではないからである。それ故、法学や兵学にも詳しくなった。
全ての学問は、全ての仕事に繋がっており、無駄なものは何一つなかった。
王脩は、一つの満足感を覚えている。
全ての仕事を、手を抜かずやり切った、ということである。
そして、周りの人々にも恵まれた。
死を迎えるまでともに働いた黄文、非業の死を遂げたが、自分を支えてくれた旅達。政は何かを教えてくれた孔融、自分を頼りにしてくれた袁譚、そして、自分に様々な仕事を与えてくれた曹操。
全員が、かけがえのない人物である。
王脩には一人息子がいる。
「王忠」である。
王忠を枕頭に呼び、王脩は言う。
「これは、父からの遺言として、心して聞くように。」
王忠は、無言でうなずく。
「恐らくお前も近いうちに官途に就くであろう。与えられた役職に見合う仕事を、手を抜くことなく行うこと。そして、自分の仕事は全て民のために行っているということを忘れないこと。そして、人に対する感謝の気持ちを忘れないこと。これだけ出来れば、人生は充実したものになるであろう。」
「わかりました。お言葉、胸に刻みます。」
「私がお前に残してあげられるのは、言葉だけだ。財物は一切ない。苦労を掛けるが、精一杯、生きるのだぞ。」
「はい。我が家に財物が無いのは、私にとっては誇りです。父上が正しい仕事をしてきた結果だと思っています。私は、その点も見習おうと思っております。」
「そう感じてくれていたのなら嬉しい・・・。」
王忠はまだ話したいことがあったが、王脩はここで眠る様に息絶えた。
享年五七歳であった。
■おわりに
王脩が「義に厚い人物」であることを、わかってもらいたくて、本作は執筆いたしました。
仕える相手は変わりながらも、それぞれの相手に忠義を尽くし、全ての仕事は民のため、と考えて生ききった感じが、この王脩の魅力だと思います。
そういった点の一つでも、感じて頂ければ、嬉しく思います。前半がやや、冗長気味の部分があったかもしれませんが、ここまでお読みくださった方々、本当にありがとうございます。
涼風 隼人
■参考文献
・歴史群像シリーズ⑰三国志上巻⑱三国志下巻(学研)
・世界史劇場 正史三國志 神野正史(ベル出版)
・地図でスッと頭に入る三国志 渡邉義浩(昭文社)
・人事の三国志 渡邉義浩(朝日新聞出版)
・「三国志」の政治と思想 渡邉義浩(講談社選書メチエ)
・正史 三国志1~8 陳寿・今鷹真・井波律子・小南一郎
(ちくま学芸文庫)
■参考情報(インターネット掲載情報)
・ウイキペディア
・三国志人物伝
・今日も三国志日和
・もっと知りたい!三国志
・後漢と三国
・歴史の史実研究所
・歴史の読み物
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