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# 第五話 酔えない人間



 結局、俺は酒にも薬にも救われなかった。


     ◇


 最初は酒だった。


 10代の頃。


 眠れない。


 頭痛い。


 フラッシュバックが止まらない。


 だから飲んだ。


 ストロング缶。


 安い焼酎。


 ウイスキー。


 何でも。


 酔えば止まると思った。


 少しだけ楽にはなった。


 頭がぼやける。


 怒りも鈍る。


 嫌な記憶も遠くなる。


 だが、切れると最悪だった。


 身体が重い。


 頭痛は悪化。


 吐き気。


 イライラ。


 しかも眠りが浅い。


 酒で気絶してるだけだった。


 何日か続けて、馬鹿らしくなった。


 これ、ただ身体壊してるだけじゃねぇか。


 俺は飲むのを減らした。


 アル中になる前に。


     ◇


 次は薬だった。


 違法な物もやった。


 知り合い経由だった。


「飛べる」


「楽になる」


「嫌な事どうでもよくなる」


 そんな感じだった。


 正直、期待した。


 もし本当に楽になるなら、何でも良かった。


 実際、効いてる間は変だった。


 頭が軽い。


 身体が熱い。


 無敵感みたいなのが出る。


 嫌な記憶も薄くなる。


 笑える。


 だが、切れた後がゴミだった。


 身体がダルい。


 頭が割れる。


 精神が落ちる。


 何より、自分が馬鹿になった感じがした。


 理性が腐る感覚。


 あれが嫌だった。


 あと、気付いた。


 結局これも、

「一瞬逃げてるだけ」

 だと。


 過去は消えていない。


 薬が切れた瞬間、全部戻る。


 なら意味が無い。


 何度かやって、やめた。


 ヤク中になる前に。


     ◇


 多分、俺は中毒者になりきれなかった。


 酒も。


 薬も。


 途中で冷める。


 効果が切れた後のダルさが嫌だった。


 頭が鈍るのも嫌いだった。


 俺は昔から、周囲を警戒して生きてきた。


 酔って隙を作る感覚が気持ち悪かった。


 結局、一番マシだったのは筋トレだった。


 身体を壊れる寸前まで疲れさせる。


 すると少しだけ静かになる。


 健康的かどうかは知らない。


 だが酒よりはマシだった。


     ◇


 夜。


 店の奥。


 コンビニのレシートを見る。


 昔は毎日のように酒を買っていた時期もある。


 だが今はエナジードリンクばかりだった。


 どっちも身体には悪い。


 笑える。


 スマホを見る。


 動画の再生数は相変わらず死んでいる。


 コメントも無い。


 世間は俺なんかに興味が無い。


 まあ当然だ。


 暴力衝動持ちの赤字雑貨屋なんて、普通は近寄りたくない。


 俺でも嫌だ。


     ◇


 ふと昔を思い出す。


 薬をやっていた頃。


 知り合いが言っていた。


『お前、意外とハマらないな』


 多分そうなんだろう。


 普通、壊れた人間は酒か薬に沈む。


 だが俺は途中で冷める。


 酔っても。


 飛んでも。


 結局、現実が消えないからだ。


 なら意味が無い。


 酒も。


 薬も。


 全部、中途半端だった。


 俺はアル中にもなれなかった。


 ヤク中にもなれなかった。


 結局。


 ただ壊れたまま、生き残っただけだった。

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