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# 第二十九話 普通になりたかっただけ


 結局。


 俺は普通になりたかっただけなんだと思う。


     ◇


 昔は分からなかった。


 俺はもっと特別な人間になりたいんだと思っていた。


 強くなりたい。


 見返したい。


 成功したい。


 金持ちになりたい。


 有名になりたい。


 そういう感情だと思っていた。


     ◇


 だが違った。


 今になると分かる。


 あれ、多分全部。


「普通になれなかった苦しさ」

 から来ていた。


     ◇


 普通の家庭。


 普通の学校生活。


 普通の精神状態。


 普通の安心感。


 それが最初から壊れていた。


     ◇


 だから執着した。


 強さに。


 金に。


 成功に。


 承認に。


 逆転に。


     ◇


 多分。


「普通じゃない自分」

 を認めたくなかったんだと思う。


     ◇


 だが現実は変わらなかった。


 不眠。


 フラッシュバック。


 頭痛。


 人間不信。


 暴力衝動。


 全部残った。


     ◇


 しかも厄介なのは。


 俺自身、

「普通の人間に見える瞬間」

 がある事だ。


     ◇


 普通に笑う。


 普通に会話する。


 動画撮る。


 店開ける。


 筋トレする。


 だから余計に、自分でも混乱する。


     ◇


 本当に壊れてる人間って。


 もっと分かりやすいと思っていた。


 だが実際は違った。


 普通っぽい顔して生活してる。


 その内側だけ壊れてる。


     ◇


 最近は。


 それを少し受け入れ始めている。


     ◇


 多分、俺はもう完全には治らない。


 昔みたいに、

「全部忘れて普通になる」

 は無理なんだと思う。


     ◇


 だが。


 だから終わりでもない気がしている。


     ◇


 フラッシュバックは今でも来る。


 怒りも消えてない。


 薬も飲んでる。


 睡眠薬無しじゃ眠れない。


 それでも。


 昔より少しだけ、

「壊れてる自分」

 を理解出来るようになった。


     ◇


 昔は。


 苦しさの原因が分からなかった。


 だから全部外へ向いていた。


 喧嘩。


 怒鳴る。


 暴走。


 とにかく壊す方向だった。


     ◇


 だが今は違う。


 原因が少し分かる。


 自分が何に傷付いて。


 何を怖がって。


 何を欲しかったのか。


 少しだけ見えてきた。


     ◇


 俺は。


 別に世界を支配したかった訳じゃない。


 最初から。


 普通に安心したかっただけだった。


     ◇


 誰かに守られたかった。


 謝って欲しかった。


 認めて欲しかった。


 安心して眠りたかった。


 普通に家族欲しかった。


 本当は、それだけだった。


     ◇


 夜。


 静かな部屋。


 一人。


     ◇


 昔の俺は、

「勝つか終わるか」

 しか無かった。


 だが最近は。


 その間みたいな場所で、少しだけ生きている。


     ◇


 相変わらず人生は上手く行っていない。


 店も苦しい。


 将来も不安だ。


 精神も壊れたまま。


     ◇


 それでも。


 今日も生きている。


 多分、今の俺に言えるのは、それくらいだった。

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