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# 第二十六話 普通の家庭


 時々。


 普通の家庭を見ると苦しくなる。


     ◇


 ショッピングモール。


 ファミレス。


 ホームセンター。


 どこでもいい。


 家族連れを見る。


 夫婦。


 子供。


 普通の会話。


 普通の空気。


     ◇


 それを見ると、

「本来は俺もあっち側だったのか?」

 と思う時がある。


     ◇


 別に金持ちじゃなくていい。


 高級車も要らない。


 豪邸も要らない。


 ただ普通に。


 仕事して。


 帰る家があって。


 夜に誰かと飯食って。


 眠る。


 本当は、それだけで良かった気がする。


     ◇


 だが現実は違った。


 俺の脳は普通に壊れた。


 不眠。


 フラッシュバック。


 衝動。


 頭痛。


 人間不信。


 かなり面倒な人間になった。


     ◇


 しかも厄介なのは。


 外から見ると、そこまで壊れて見えない事だ。


     ◇


 普通に会話も出来る。


 筋トレもしてる。


 店も開けてる。


 動画も撮ってる。


 だから余計に説明が難しい。


     ◇


 本当に壊れてる部分って。


 もっと奥だ。


 頭の中。


 思考。


 感覚。


 そこがズレてる。


     ◇


 例えば。


 俺は今でも、

「安心」

 がよく分からない。


 常にどこか警戒している。


 何か起きる気がする。


 裏切られる気がする。


 怒鳴られる気がする。


 脳がずっと戦闘態勢みたいになっている。


     ◇


 だから普通の家庭を見ると、不思議になる。


 この人達は本当に安心して生きてるのか、と。


     ◇


 父親が怒鳴らない。


 母親が怯えてない。


 子供が顔色見てない。


 それだけで別世界に見える。


     ◇


 しかも俺は。


 普通の家庭にかなり憧れている。


 ここがまた厄介だ。


     ◇


 結婚願望はある。


 子供も欲しい。


 好きな女と普通に生きたい。


 だが同時に、

「俺みたいな人間が家庭持っていいのか?」

 が常にある。


     ◇


 怒り。


 フラッシュバック。


 暴力衝動。


 人間不信。


 そういう物を抱えたまま、

「父親」

 になっていいのか分からない。


     ◇


 しかも俺は知っている。


 虐待って、

「悪魔みたいな親」

 だけじゃない。


 普通の顔して連鎖する。


 善意で壊す。


 本人達に自覚無く続く。


 それが一番怖い。


     ◇


 だから時々、本気で怖くなる。


 もし自分に子供が出来たら。


 俺は親と同じ事をするんじゃないか、と。


     ◇


 長男だから。


 男だから。


 耐えろ。


 我慢しろ。


 気付かないうちに、同じ言葉を使うんじゃないか、と。


     ◇


 夜。


 コンビニ帰り。


 住宅街を歩く。


 窓からテレビの光が見える。


 笑い声。


 風呂の音。


 生活音。


     ◇


 それが妙に遠い。


 羨ましいというより。


 別世界だった。


     ◇


 昔の俺は。


 強くなれば、いつか普通になれると思っていた。


 だが違った。


 強くなっても。


 金が少し増えても。


 過去は消えない。


 脳も変わらない。


     ◇


 それでも。


 本当は今でも、

「普通」

 を諦め切れていなかった。


 普通に笑って。


 普通に飯食って。


 普通に眠る。


 多分、俺が欲しかったのは。


 最初からそれだけだった。

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