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# 第二十四話 精神だけが老けていく



 俺はまだ三十一だ。


 世間的に見れば、別に老人じゃない。


 筋トレもしてる。


 身体も普通よりはデカい。


 見た目だけなら、

「まだ若いですね」

 と言われる事もある。


     ◇


 だが。


 精神だけが妙に老けている。


 最近、そう感じる。


     ◇


 昔みたいな熱量が続かない。


 怒り続けるのも疲れる。


 人を憎み続けるのも疲れる。


 昔はもっと単純だった。


 ムカつく。


 暴れる。


 鍛える。


 見返す。


 それだけで動けた。


     ◇


 今は違う。


 まず疲労感が先に来る。


「またこれか」

 が増えた。


     ◇


 しかも身体にもダメージは残っている。


 ヘルニア。


 首。


 膝。


 関節痛。


 別に老化だけじゃない。


 格闘技や筋トレで無茶してきた蓄積も大きい。


     ◇


 昔は痛くても動けた。


 試合。


 スパー。


 筋トレ。


 多少壊れても、

「気合い」

 で押し切っていた。


 だが当然、身体には残る。


     ◇


 最近は朝起きた瞬間、

「身体重いな」

 から始まる日も多い。


 それが妙に精神へ来る。


     ◇


 しかも周囲は普通に進んでいく。


 結婚。


 子供。


 仕事。


 家庭。


 普通の人生。


 だが俺は、未だに過去と戦っている。


     ◇


 これがかなりキツい。


 三十一って、本来まだ若い。


 だが俺は感覚だけなら、もっと年寄りに近い。


 何かへ期待する感覚が薄い。


 未来を見ても、

「どうせ」

 が先に来る。


     ◇


 昔は違った。


 強くなれば何とかなると思っていた。


 だから鍛えた。


 格闘技もやった。


 身体をデカくした。


 実際、それで助かった場面も多い。


 舐められなくなった。


 理不尽も減った。


     ◇


 だが。


 精神までは救われなかった。


     ◇


 夜になると普通に苦しい。


 フラッシュバックは来る。


 眠れない。


 人間不信も消えない。


 結局、

「外敵」

 を黙らせても、

「内側」

 は静かにならなかった。


     ◇


 しかも最近は、

「時間」

 を意識するようになった。


 三十一。


 まだ若いとも言える。


 だが、

「何でも出来る年齢」

 でもなくなってきている。


 そこが妙にリアルだ。


     ◇


 昔みたいに、

「十年後に逆転してやる」

 を無限には考えられない。


 身体も。


 精神も。


 時間も。


 全部有限だと分かり始めている。


     ◇


 だから焦る。


 店。


 動画。


 人生。


 全部。


「このまま何も残せず終わるんじゃないか」

 が頭へ浮かぶ。


     ◇


 しかも厄介なのは。


 未だに、

「強くならなきゃ」

 が消えない事だ。


 筋トレしてる時だけは少し安心する。


 身体がデカいと落ち着く。


 弱者側へ戻らない気がするからだ。


     ◇


 多分。


 俺は今でも、昔の自分が怖い。


 殴られていた頃。


 守られなかった頃。


 何も出来なかった頃。


 あの自分へ戻るのが怖い。


     ◇


 だから鍛える。


 動く。


 無理する。


 止まると終わりそうだから。


     ◇


 夜。


 一人で座る。


 静かな部屋。


 頭痛。


 身体の痛み。


 薬。


 睡眠薬。


 昔の俺は、

「強くなれば救われる」

 と思っていた。


 だが今は違う。


 多分、人間って。


 強さだけじゃ安心出来ない。


     ◇


 そして最近。


 一番怖いのは、

「怒り」

 が減った事じゃない。


 何かを信じる力そのものが、少しずつ減っている事だった。

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