只々、黒く
国境までくると、黒いドームの中が透けて見える。
その中には草木も生えているし動物や虫の姿も遠目に確認できる。
だが、そのどれもが一切の動きをしていなかった。まるで何かから逃げるかのような動作。そのままで一切動かない。視線を横に振ればそこには人影もある。それもまた、必死の形相で走っているその瞬間のまま止まっていた。
「これは…凄い魔法ね。こんなの見たことない」
「出来そうか?」
「ちょっと待ってね。これは多分死を先延ばしにする魔法…?違う。これは死を先送りにするじゃな
くて永遠に生きるための魔法。代価に一切の行動を捧げている、のかな」
「じゃあ、この国の人たちは生きているのに一切動けないってことか?」
「うん。向こうの人も、そこの草木も全部生きてる。生きてるけど、あらゆる動作を奪われてる。生
きるためだけに存在している置物みたいな感じね」
「一切動かないで、どうやって生きてるんだ…それに、なんで父さんはこんな魔法を…」
「この黒い空間の中、凄い魔力で埋め尽くされてる。それを無理やり栄養分に変換して存命させてる
みたい。死なないギリギリの値で。何でこんな魔法を使ったのかは私にも分からないけど、そうせざ
るを得ない状況だったとしか考えられないかな。正確には分からない」
ロサによる魔法の解析が進んでいくその時、リムがいち早く気づいた。
「中からなにか来ます!すごい速さ…というか、なんで中で動いてるんですかあれは!」
ドームの中、まだ遠くではあるものの確実に何かが向かってきていた。
「やっぱり、敵さんはなにかしらこの中で動く手段を持ってるみたいだね。ちょうどいいからあいつ
から聞いちゃおうか!」
ロサが胸に手を当て、詠唱を始める
「我が身に宿る我が力…ああもうめんどくさい、ちょっと借りるよ!」
ジェイドには記憶に新しいあの『色』が指に灯る。
「はいみんな目ぇ閉じて!今回は手加減なしの真っ黒で行くからね!」
「「はーい」」
イータとレッドが気の抜けた返事をしながらジェイド達を地面に押し倒す。
「絶対見ちゃだめだぞ。そっちの王子様が食らったのとは全くの別物だからな」
レッドの言葉にはさっきの返事とは真逆の真剣さがあった。
「さああて!きたきたきた!」
やけにハイテンションなロサの声だけがジェイド達の耳に届く。
「お前らが侵入者予備軍だな?面倒を増やさないでほしいんだが…」
さっき向かってきていた男の声だろう。声の感じはやや老いた紳士といった印象を受ける。
「じゃあ面倒は増やさねぇからこれで終わりだオッサン。今までご苦労さん」
「何をぃってぃる…」
声のトーンがおかしい。
「あいおいあ…!ああああーーーーあああ!!!」
次の瞬間には叫ぶしかしなくなっている。
「うるさいからもう少し語彙を絞れ」
「あっ…っ…ぃ…っぉぃ」
呻くような声しか聞こえなくなる。
「はぁい、もう大丈夫ですよぉ」
ロサの声が聞こえると同時にレッドとイータはジェイド達を開放する。
気になっていたほうを見ると、武装した老紳士が口を開けたまま天を仰いでいた。
「…これって、何したんですか?」
「まーっ黒に染めちゃった」
「それじゃ伝わんないだろ。ちゃんと説明したれ」
「んっとね。この人が何を考えていようと何をしようとしていようと、その行動に移るまでに何をし
ていたか分からなくなっちゃう状況なの。この後どうやって上書きするかは私の自由っておまけ付き。正直、少しでもこういった魔法に耐性があったら効かないんだけどこの人は対魔法戦闘の素人だってすぐわかったからさっさと終わらせちゃった」
「なんだその魔法…それで、この人どうするんですか?」
「話せる事全部話して貰ってから殺すよ?」
「そう、ですか。そうですよね」
「うん。開放する理由も義理もないし。それに多分この人死なないよ。この国を覆っている魔法の事も大体わかってきた」
「それで?どんなものなんだこれ」
「うん。言ってしまえばこれは完全な現状維持。もっと言うならあらゆる変化を捨てた無限の生存って説明になるのかな。驚くことにこの中では意識を奪われた中で無限に生き続けることになるみたいだ」
「で、破る方法はあるのか?」
「それについては『私』から説明しますね~」
ロサの喋り方が普段通りに戻り、そのまま説明を続ける。
「結論から言うと、この魔法を打ち破るのは無理です。多分、ヴェールちゃんでも打ち破れるかどうかトントンってとこじゃないですかね。それくらいこの魔法の出来は異常ですね~」
「そんなにすごい魔法なのです…?」
リィズがいぶかしげにロサに問う。
「私では絶対に、それこそ一生かかっても解除したりは出来ないと断言できますね~。とても悔しいですが」
「ロサに出来ないなら僕にも無理なんだよな」
イータもお手上げといった様子で話す
「じゃあどうしようもないってことか?」
「打つ手が無いとは言ってないんだよ~?早とちり、ダメ。絶対!」
「…ふざけてる場合じゃないんだろ?どうするのか説明してくれよ」
「ジェイド君は余裕がないなぁ。こんな時だからこそゆっくり、ゆったりいかないと」
「ロサの言う通りなんだよな。ヴェールちゃんが色々やらかすのはいつものことだし、本当にどうしようもなかったらロサももうちょっと焦ってるんだよな」
イータに肩を叩かれながらジェイドが諭される
「そうそう~この魔法に打ち勝つことは出来ないけど、この国…オラリオンに入ることは出来ると思うよ」
「余裕がないっても…仮にも王女の命の危機なんだよな?」
「まあそうなんだけどね。今慌ててもどうにか出来るわけじゃ無いしやれることをミスなく落ち着いてこなしていくしかないじゃない?」
「多少では済まないくらいの説明不足感を感じるのです…」
「とにかくだ。俺たちがさっさと目的を果たしてヴェールちゃんを平常運転に戻すにはどうすればいいんだ?」
「あらら、レッドもちょっと焦り気味かな?」
「当然だ。とにかく、その男から引き出せるだけ引き出してこの国の中に入る術を手に入れないことには始まらないからな」
「はいはーい。じゃあ始めちゃいますね。じゃあまずはこの魔法について知ってることを全部話してね?」
ロサが例の男を小突くと、ゆっくり口を開いて少しずつ話し始める。
「まほ、おれ、しら…」
「あらら。語彙絞り切ったまんまで文になってないですね。じゃあ今だけ発声機能を元の状態に戻して…」
そう言いながら男の首元を力強く握りしめる姿を見てジェイドは絶対にロサは敵に回してはいけないことを悟った。
「俺はこの魔法についてほとんど知らない。でも、この魔法がある限りこの魔法の適応される生物は決して死ぬことが無いということは知っている。俺がそうであるように」
「ふんふん。それでー?」
メモを取りながらロサの質問は続く
「あの方はこの魔法の中で唯一自由に行動できた。その権限を俺達にも分け与えてくださっている」
「あの方ってのは誰の事?」
「俺は本人を知らない。でも、あの方に殺されたおかげで俺は死ななくなったんだ」
「殺されたから、死ななくなった?」
「そうだ。俺の命はあの方に預けられている。死の概念はあの方によって取り除かれた。代わりに、俺の身体に生命は宿っていない。俺にあるのは魂だけだ」
「あー、そういうこと。じゃあもういいかな。連れて帰るのも放置するのも面倒だから君はとりあえずここまでってことで」
首元に手を振れると再び真っ黒に染まる。
そして頭を地面に叩きつける。
「イーちゃん、頼める?」
「いつものことなんだよな」
イータが振り下ろしたのは片手サイズの小刀。それはそのまま力強く首元に振り下ろされ、男の頭部を胴体から切り離した。
「…っ!」
リィズは思わず目を逸らしてしまう。
「まあ、慣れろとは言わねぇけどさ。俺らも、やりたくてやってるわけじゃあねえんだわ」
「うんうん。そこは勘違いしないでほしいんだよな」
顔色一つ変えずに死体の後処理をするレッドと、獲物の整備をするイータ。
その姿に自分たちとは違う何かを感じながらもジェイド達はただ見ているしかできなかった。
今日で五日目!なんとか(幕間を挟んだけれども)毎日投稿達成です!
記念代わりに今回はちょっとだけ長めに書いた気がします。
いつもどれくらいにしてたか把握してないので多いかわからないんですよね……
とにかく!このペースを維持しながら頑張っていくつもりですので皆さま今後ともよろしくお願いします!




