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花の唄が聴こえる  作者: FRIDAY
肆:広がる白円
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8 全部枯れちゃった?

「本当に、もう出歩いて大丈夫なの?」

 並んで歩くエカリーに、黒猫が何度目かわからない言葉を投げかける。対して、エカリーは大丈夫よ、と気軽に頷いた。

「凄く調子がいいの。ハルカちゃんの薬のお陰ね。お母さんもいいって言ったし、大丈夫よ」

 そのお母さんは、エカリーに押し切られて渋々了承した、という感じだったのだが。そしてハルカは、エカリーと黒猫の数歩後ろを俯き加減に歩いてきている。

 とはいえ、外見としては確かに調子は良いようだ。林道、それも木の根の入り組んだけもの道のような斜面だが、難なく慣れた足取りで歩いていく。ハルカの方が、いちいち足を取られてもたついているくらいだ。

「それで今は、エカリーさんが花を見たっていう森の奥の場所まで案内してもらってるんだよね。どんな花だったか覚えてる?」

 黒猫の問いに、エカリーは頷いた。

「うん、覚えてる……って言っても、あんまりはっきり覚えてるわけじゃないけど」

「わかるところまででいいんだけど、教えてもらえるかな」

 うーん、とエカリーは記憶を探るように顎に指先を添えた。

「白い花だったよ。背はそんなに高くない。一面に咲いてたの」

「一面に白い花……咲いていたのは、その白い花だけ?」

「うん、確かそう。真っ白でとても綺麗だった、って覚えてる。初めて見る花だったから、少し摘んで帰ろうと思ったんだけど、凄く丈夫なのかな、全然摘めなくて、諦めて帰ったの」

「成程……色以外に覚えてることはある? 花の形とか、花びらの枚数とか」

「う~んそこまでは」

 成程ねえ、と相槌を打ちながら、黒猫は下がってきてハルカに小声をかける。

「どう思う……?」

「特定には至らないまでも、情報はとても多いわね。背が高くなくて、白い花。広い面積に群生するけど他の花が間に生育することがない。地元民が見かけたことがない。まあ、それだけでは候補もとても多いけど……摘めなかった、というのもヒントになるかしら」

「女の子とはいえ、摘み取れない花ねえ」

 頑丈ってこと? 首を傾げる黒猫をよそに、エカリーが声を上げた。

「あ、見えてきた。そろそろだよ。そこの丘を登ったら見えてくると思う」

 ここまでの道中、割と登り路だった。ハルカは軽く息が上がっているが、エカリーは全く疲れを見せない。多少は旅慣れて体力がついてきたものかと思っていたが、病み上がりのエカリーよりも体力がないのだろうか……普段から畑仕事などに勤しんでいるであろう地元民と、生来のインドア民との差か。少し情けなく思いながら、顔の高さに差し掛かっていた枝を手で払い避ける。

 葉がはらはらと舞い散った。

「…………」

 思わず足を止める。辺りを見回し、振り返る。

「ハルカ? どうしたの?」

 黒猫の言葉に構わず、ハルカはたった今葉を散らしてしまった木の幹に耳を当てる。一呼吸、耳を澄ませ、コツコツ、と軽く叩く。

 次いで、急に杖を振り上げたかと思うと頭上の枝葉を手当たり次第に叩き始めた。

「ちょっと、ハルカ!?」

「どうしたのー?」

 少し先に進んでいたエカリーも、ハルカの様子に気が付いて振り返る。しかしエカリーにも、突然の奇行に慌てる黒猫にも構わず、ハルカは頭上を――バラバラと降り注ぐ葉、小枝に目を剥いていた。

「これは……いや、そうか。ここも……でもこれだけのこととなると……」

 降り注ぐ葉は緑。温暖な気候だ、自然に葉が落ちる季節でもなく、そもそも緑葉がこれだけの勢いで落ちるというのは、到底不自然なこと。

 考え込んだのは一瞬だ。すぐに顔を上げて、ハルカは訝しげにこちらを見る二者を促した。

「行きましょう。その向こうよね。私の予想通りなら……」

 ハルカの言葉に頷き、エカリーは先へ歩き出す。葉を散らしながら枝を払い、木立を抜けて、

「……あれ?」

 驚いたような声をもらし、エカリーが足を止めた。うん? と黒猫が続き、エカリーの足元からそちらを覗いて、

「……何も、ない?」

 そこは、空き地だった。

 大人が両手を広げて10人程度の広さだろうか。枯れ草が浅く倒れているだけで、花はおろか草一本生えていない。

「少し前に見たときは確かにここに……全部枯れちゃった?」

 首を傾げるエカリーの脇を抜けて、ハルカがその空き地へ入っていく。踏みしめる枯れ草の音は軽く、見た目どおり枯れているようだ。

 空き地の中心あたりまで進むと、膝をつき、一面の枯れ草と、その下の地面を探る。一房を摘み取ろうと引くが、根が絡んでいるのか地面から引き抜くことはできない。

 花弁は既に散っており跡形もなく、咲いていた状況を想起することは難しい。

 周囲を見渡す。およそ同心円状に枯れ草の絨毯が広がっているが、その縁を越えると通常の下草へと切り替わる。

 不自然なまでに。

「ハルカ? 何かわかった?」

 周囲を見回しながら、黒猫とエカリーが近づいてくる。

「何だかここだけ季節が違うみたい。肌寒いような気さえしてくるよ」

 黒猫の言葉に、そうかもね、とハルカは肩をすくめた。

「わかったことがいくつかある。でもその前に、もうひとつ確かめる必要があるわね」

 言って、ハルカは立ち上がった。振り返り、エカリーへ、

「あの……このあたりで一番高いところは、ありますか?」

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