20 決意
その夜、フィオーレンは父ミュスエルの書斎にいた。
「……フィオ……? どうした?」
夜遅くに、来ることなどないからだ。昼間の今だ、何かがあったのかと、心配だった。
だが、娘フィオーレンは何か吹っ切れたみたいな表情をしていた。
「……お父さん……。」
「……うん。」
「次で……最後にする。」
父を見て、力強く言った。
その姿は、覚悟を決めたみたいだった。
「…………。」
ミュスエルは、少し驚いた顔をしたのち、眉を寄せていた。親としては複雑な処なのだろう。
「お父さん……もう……最後にする。」
「……誰にするか……決めたのかい?」
ミュスエルはもう、聞かなくてもわかっていた。だが、訊かない訳にはいかなかった。
「……私……アレンが好き。」
「…………うん。」
「最後に……もう一度……やり直したい。」
フィオーレンは、何度となくアレンと接する内に、好きになっていた。それはもう、隠しきれなかった。これ以上あんな言葉を聞くのは、もう堪えられない。
どんな未来が待とうとも、次で最後にすると決めたのだ。
「…………そうか。」
父ミュスエルはさらに、複雑な顔をした。
アレン皇子は、浮気相手と平民に落ちればいい。落ちて落ちて落ちまくればいい。だが、娘はダメだ。
幸せになってもらいたい。そのためになら、何度でもリセットしてもいい。なんだったら人を殺める事も厭わない。
でも、娘は決めてしまった。最後にすると……。
娘が決めたのだ、それを無視には出来なかった。
「……フィオーレン……いいの?」
いつの間にか、聞いていた母が優しく訊いてきた。母もまた、フィオーレンが望むなら、何度でもやり直してもいい……と思っていたのだ。
「……うん……もう、いい。疲れたから。」
フィオーレンは笑った。自分のために家族まで、巻き添えにしていた。だから、どんな未来が待とうとも、最後にしようと決めたのだ。
「……姉ちゃん。」
様子を見に来てくれていた、ケインが扉に立っていた。どうやら話を聞いていたみたいだった。
「みんな、ありがとう。」
家族の優しさに、思わず涙が零れた。
そして……フィオーレンは目を瞑り、決意を胸にする。
「……今度、頑張っても……ダメだったら……自分の立場がわからない、アレンを張り倒す!!」
そう、フィオーレンの決意とは……負け戦ではない。
ここまで、アレンのために……と頑張って来たのに、あの男がまだ違う女の人を選ぶというのなら……。
アレン共々、浮気相手にも……目にものを喰らわしてやる!!
泣き寝入りなんて、絶対にしない。
するつもりだったのなら、こんなに何度も同じ時を繰り返したりなんてしなかった。
私を選ばない……という事が、どういう事なのか、その身をもって思い知るがイイ。
「「それでこそ、私達のフィオちゃん!!」」
「それでこそ、俺の姉ちゃん!!」
皆は、やっと本来のフィオーレンらしさが戻った事に、安堵し喜んだ。
家族とて、同じ気持ちだ。これだけ、あの皇子のために色々やって来たのに、娘を選ばない処か、一族をバカにするにもほどがある。
礼こそあっても、この仕打ちは許せなかった。
たとえ、こちらに非がなくとも、婚約を解除された娘やその家族が、どういう結末を迎えるか……バカでもわかる。
それが、皇子からなど……もってのほか。
それを、知らないなかったなんて言葉で、許されるものではない。
だが、チャンスは与えてやる。
再び、婚約の打診があり、最後に娘を選べばよし。選ばないのなら……。
家族は再び、フィオーレンのために……自分の周りの人達のために、あの皇子や取り巻き共に、目にものを喰らわしてやろうと、1つになったのだった。
待っていなさい……アレン!!
最後まで、お読みいただき、ありがとうございました。




