2
第三話にも興味を持ってくださりありがとうございます。初心者で素人であるがために、サブタイトルに何が相応しいのか分からず色々と変化させてしまっています。本当にすいません。タイトルでさえも変化するときが来るかもしれませんが、今後ともよろしくお願いいたします。
0600時、ミッドウェー島の日本軍に起床ラッパが響き渡った。
それと同時に寝床から飛び起きた佐藤次郎と鈴木一希は、真っ先に衣服を着用した。就寝中は下着のみを着用するだけであるため、彼と彼女の毎朝は気まずさが滲むものであった。
訓練課程の最初期から共に厳しい道のりを乗り越えてきた二人は、強い絆で結ばれていた。今後もそれを高めることが勝利への鍵となることを期待されたため、信頼をおける相棒同士で同じ部屋割りになってしまった。
しかし、長く付き合っていると、相手の下着姿や肌の露出度合いの高さを気にする感覚が少しずつ薄れていってくれていた。部屋に入って間もない頃は、顔を赤らめることがあった二人も、今では無表情で慣れによる厚い装甲を備えている。
衣服の着用が済むと直ぐに外へと走り出した。日朝点呼があるためであった。
訓練生時代の初期には、自分の番号を叫ぶとき、他者に合わせることができるかどうか心配することがあった。しかし、今では無意識的に仲間達と合わせることができた。
「第七航空分隊、番号!」と言われたら、次郎が「1」で一希が「2」と大声で答える。
毎朝の儀式の一つが済むと、部屋に帰って寝具を整理し、顔を洗い、部屋内と担当箇所を清掃した。
これらの事が済むと朝食となった。その日の朝食のメニューは、ご飯一杯に味噌汁と漬物のたくあんとなっていた。
「今日から漸く航空母艦に着任できるんだったよな?」
米を口に掻き込みながら鈍った声で次郎が尋ねた。
「うん、そうだよ。空母での任務も頑張ろうね、次郎!」
朝方だという条件下でも、一希は全く普段の質を落とすことなく応答した。彼女は、たくあんを口に運ぶ途中で遮られたのだが、不快には思わなかった。
食事時には、訓練や演習で起きたこと、今後の予定等で会話を保たせていた。
食後には二人並んで歯磨きをすることが習慣であった。それを済ませると、貸与されている航空兵用の戦闘服に着替えてミッドウェー島の総司令官の部屋に急いだ。
*
まず、次郎が司令官の部屋の扉を2度ノックした。それから「入れ」と言われ扉を開けると、
「第七航空分隊の佐藤次郎、只今到着いたしました。」
「同じく、鈴木一希、到着いたしました。」
と、二人が続けて入っていった。総司令官殿はデスクワークの途中であった。
「よろしくお願いいたします。」
次郎が真剣な表情で挨拶をすると、軽く会釈をした。一希も彼に合わせて同じ動作を行った。
「諸君らの本日からの任務であるが、我が帝国海軍の誇る最新鋭の航空母艦『大鳳』に乗艦して前線での戦闘に参加してもらうことである。前線での戦いは訓練とは違って実弾を使った命のやり取りであるから、大変危険ではある。まぁ、君達はかなり成績優秀であるから心配は不要だろうがな。頑張りたまえ、期待しているよ。」
胸元には多数の勲章を下げており、歴戦の猛者といった印象を出している総司令官に対して、絶対的な服従と忠誠を誓わなければならないような雰囲気が部屋を覆っていた。
『この人きっと鬼神的なやつだ、不作法なことしたら殺されるだろうな』
一希は、心の隅でその様なことを考えてしまっていた。
「はい!」
次郎と一希の声が重なり、強い意志を見せた。
ミッドウェー島に着任することになった総司令官の戦歴は、主に皇紀2603年から始まった日ソ戦争において存在した。日ソ戦争時には、ウラジオストク包囲戦等で活躍した。そのような戦績の結果、日本軍の占領地域の総司令官になった。
「今日までこの島で御世話になりました。ありがとうございました。」
次郎は、総司令官に対して、精一杯の感謝を究極の誠意をもって伝えた。
「ありがとうございました。」
一希がそれに続いた。
*
「大鳳、こちら佐藤、着艦許可を要請」
「こちら大鳳、着艦を許可する。所定の進路で進入せよ。」
「こちら佐藤、了解」
航空母艦大鳳の管制室と無線のやり取りをした後、彼の震電2型は、1度の進入で飛行甲板に設置されているワイヤーが機体のフックに上手く引っ掛かり、停止することができた。
一方で、一希の震電2型のフックは、1度の進入でワイヤーを捉えることができなかった。彼女は、再進入によって着艦に成功した。
このような行為を従来型の帝国海軍の航空母艦で行ってしまうと大変危険であったのだが、最新鋭の空母大鳳の飛行甲板には船首に対して斜めに配置された着艦機専用の飛行甲板が増設されていたため、着艦のやり直しが容易であった。これは、イギリス海軍の航空母艦から着想を得たものであった。さらに、大鳳は装甲された飛行甲板を持つように設計されたため、ジェット機を運用しても問題にはならなかった。この「大鳳」という艦名は、皇紀2604年6月19日に、海上封鎖を突破したアメリカ海軍の潜水艦によってマリアナ諸島沖で撃沈された装甲空母大鳳から採用された。また、この生まれ変わった大鳳は、帝国海軍史上最大級の大きさを誇っていた。
「見事な着艦だったな」
震電2型の操縦席から降りてくる途中であった一希に対して、次郎が茶化したように言った。
「あっ、今絶対に馬鹿にしたでしょ。そんなことしてると、いつか立場が逆になったときに後悔しちゃうんだから。」
震電2型の翼の上に立って彼を見下ろすような状態になると、彼女は不満そうな態度をとって応答した。
大鳳の飛行甲板に足を着けて、彼と彼女の立ち位置が同じになったところで続けた。
「今は満洲の油田で潤ってるから大丈夫よ、きっと。」
会話しているなかで、彼女の中に上司から注意されるのではないかという不安が、微量に滲み出た。
皇紀2597年以来、中華民国との緊張状態が続いたが、満洲での経済開発を優先させたい日本は戦争を避けてきた。その結果、満洲では石油を見つけることができた。この重要な資源によって、日本に対する経済的な包囲網を強める国々との戦争や、日本の拡大主義、帝国主義を支えることができた。
「座右の銘は一撃必殺じゃなかったのか?」
「わ、わかったよ。次からは気を付けます。」
彼女は論破された気分になって少し落ち込んでしまった。
「そんなに湿っぽくなるなよ。」
ライバルとしての一希に塩を少しばかり送ったつもりであった。
彼女は少し冷めたような表情になった。
「安っぽい同情の言葉はもういいよ。そんなことよりさぁ、あれ見てよ。ほら、あの雲とっても大きいよ。しかも真っ黒いし、嵐の予感。」彼女は雲のある方向を指差した。
その方向には確かに巨大な黒っぽい雲が存在していた。それは、彼女の言う通り"嵐"が来るような予感を持たせた。
大戦中の話はメインではないのですが、なかなか収まらずに幅をとっておりますが、こちらを早めに切り上げて紹介にあった通りに40~50年後を描きたいと思っております。紹介と違うじゃないかと思われる方には反論の言葉もございません。この度も最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。