第07話 ムキムキマッチョは遠い
「あーー……。暇」
「機関が駄目で、コールドスリープも動きませんからね」
俺たちは、漂流していた。
辛うじて生きている機関の出力は、艦を最低限維持するために回されている。
艦内は無重力状態。
俺は、ぷかぷかと浮かんでいた。
「救助まで、あと何日?」
「七日です。十分前にも言いましたよ」
「減ってないじゃん」
「十分しか経っておりませんので」
すでに三日目。
漂流はもう何度目になるか分からないけど、サイボーグで良かったね。
しょせん、食欲は擬似的なものだ。
切ってしまえば、問題ない。
「暇だ」
「言語野の故障ですか? 同じことしか言ってませんよ?」
「暇なんだよ!」
でも、イチキューロクオイルが飲みたい。
あの何もかも忘れてしまう、いい気分が恋しい。
だが、飲んでしまえば、排尿が待っている。
無重力でぶっ放したら、大変なことになってしまう。
セバスチャンに怒られるのも嫌だ。
「そんなことより、機関を新調しませんか?」
「唐突だな」
「暇なので」
「お前もじゃねーか!」
結局、やれることといったら、セバスチャンとの雑談だけだった。
思えば、セバスチャンとの付き合いは長い。
海兵隊の小さな揚陸艇だった頃は、そもそも会話なんてできなかった。
出世魚のように、駆逐艦、巡洋艦、重巡洋艦、戦艦、高速戦艦とアップデートするたびに嫌味が増えた。
やっぱり、大人しいメイドさんにするべきだった。
機会があれば、名前は『マリア』にしようと思っている。
もっとも、その機会は巡ってこないだろうが。
「格納には、余裕があります」
「でも、重くなったら遅くなるだろ? 俺たちの売りは速さだぞ?」
「そこで、並列接続ではなく、直列接続です」
「んーーー……。解説プリーズ」
ワープ中のウラシマ効果とやらがあるから、体感は違う。
それでも、軍に入ってから三十年が過ぎていた。
いや、待って。
ウラシマ効果の『ウラシマ』は、浦島太郎のことだよね。
現象の正式名称になっているのだから、日本人はすごいね。
「馬車を想像してみてください」
「無理、馬車なんて乗ったことないし」
「では、筋肉です」
「聞こうじゃないか」
話がそれた。
俺が言いたいのは、結構な時間が経っているという事実だ。
その間、給料はちゃんと出ているし、それなりの戦果も挙げている。
仲間たちが羨むほどの報奨金もたんまり貰っている。
たぶん、一般人なら人生を百周できるくらいはあったはずだ。
「腕を二本から四本にします」
「最強じゃん」
「そういうことです」
「よし、採用!」
「ただ、問題は費用です」
「それなー……。」
だが、俺の借金は減るどころか、増えている。
この国は、間違っている。
革命を起こしたい。
「……というか、うちの軍、おかしくね?
帝国は、補給もメンテナンスも軍がやってくれるのに、自己負担って何なんだよ」
「その分、報酬は高いです。
そこから、自己生存に投資ができるからこそ、マスターの今があるのでは?」
「そうなんだけどさー……。納得いかない」
しかし、セバスチャンの正論に黙るしかなかった。
そう、この国には夢がある。
一攫千金さえ、ゲットできたら、ムキムキマッチョな身体は目の前だ。
そのために、セバスチャンに投資を注ぎ込んだ。
俺は間違っていないはずだ。
「では、帝国に亡命しますか?」
「それは却下! あのバカの近くにいたくない!」
ぴこん、と軽い電子音がふと響いた。
「なんだ?」
「軍司令部からの超長距離通信です」
背筋が伸びる。
ようやくか。
俺を褒め称えよ。
「繋いで、ちょーだい」
「はい」
セバスチャンが通信を開く。
そこに映ったのは、共和国軍の軍服を着た女性士官だった。
可愛い。
俺好みで、ドキドキしちゃう。
『ユウキ・ミカムラ大尉』
「おう」
『生きておられましたか』
「失礼だな」
『まずは、おめでとうございます』
「うむ、苦しゅうない」
『……イメージと違いますね』
「して、要件はなんじゃ?」
セバスチャンが肩を竦めている。
馬鹿にしている感がありありと分かる。
やっぱり、機関を新調するついでに、マリアちゃんにしようかな。
『帝国座天使級戦艦の撃沈を確認しました』
「よっしゃあああああああ!」
『帝国発表により、皇位第三継承者の死亡が伝えられています』
「いえす! いえす! いえす!」
俺は狂喜乱舞した。
思わずガッツポーズを三度取る。
その慣性で、無重力の中をくるくる回る勢いが増しても気にしない。
『なお、報奨金についてですが』
「うんうん!」
『こちらに送られてきている艦と機関の修理、特殊弾薬使用料、緊急ワープ装置交換、その他諸経費……。』
「……はい?」
猛烈に嫌な予感がした。
『差し引き、現在の負債は……。』
女性士官がにこやかに告げる。
『……クレジットとなります』
「なんて?」
『では、失礼します』
借金の額が増えていた。
俺は、無限に広がる宇宙を見た。
「……機関を新調するって、話はなしな?」
「マスターの甲斐性なし!」
遠い。果てしなく遠い。
ムキムキマッチョへの道は、あまりにも遠かった。
――第一部、完。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。




