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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第三章 ロラの話
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24話 ジュストの懺悔2

 首都にいたグランデフィウーメ側についた貴族は多くはなかったが、教会などをはじめ、建物を破壊し、市民の犠牲も少なくはなかった。


 足を負傷したリクは、ルドが住んでいた神殿で治療を受けていた。


 首都にいたグランデフィウーメ側の勢力が落ち着く頃、仮眠を取っていたリクは、叩き起こされた。


 見覚えのある奴隷に、リクは不機嫌そうに言った。


『マッテオじゃないか。なんでお前がここにいるんだ?悪いが、少し寝かせてくれ』


『エジリオ様が言っていた、生まれ変わりってなんだよ』


 置き土産残しやがってと、リクは悪態をつきたかったが、多くの視線を感じて自制した。


 マッテオの後ろにはカリーナやフェデリーゴ以外のルドの子どもらと、遠巻きにはジュストの姿もあった。


 ステファノとフェデリーゴは会議中なのか、いないようだ。


『…俺の一存では話せない。ステファノ様に聞いてくれ』


 マッテオが苛立ったように、リクの腕を掴んだ。


『あんたは知ってんだな?グランデフィウーメと全面戦争になるだろうから、ステファノ様は忙しくて相手にしてくれない。

 ルドは誰の生まれ変わりなんだ?』


 ルドは、統一王マニュスの霊が憑いているということになっている。


 普通なら、マニュスの霊がついていたんじゃないのかと聞くはずだ。


 それが、誰の生まれ変わりだと聞いてきた。


 マッテオは当時一般的ではなかった、生まれ変わりという考え方を受け入れているらしい。


『統一王マニュスのだが?』


 リクが答えると、マッテオは鼻で(わら)った。


 その態度にリクだけではなく、ジュストたちも怪訝そうな表情を浮かべている。


 さらにマッテオは彼らしくない、人を小馬鹿にしたような顔をしていた。


 リクにしか聞こえない声で、マッテオは耳打ちをする。


『本人がマニュスと言ったのか?』


 マッテオが話せるはずもない、中央(ケントルム)の言葉にリクは警戒心が浮かんだ。


『なんで、その言葉を…』


 中央(ケントルム)語で返すと、マッテオは自分の頭を人差し指で軽く叩いた。


『そのマニュスという野郎の霊が俺にも入ったと思ったんだが、霊とは違うようだ。霊なら、ルドの見てきたモノを、俺が見えてもおかしくないだろう?なのにあいつの記憶はない。でも、マニュスという、王の記憶が浮かんでくる。これはどういうことだ?』


『なんだって?じゃあ…魔法は使えるようになったのか?』


『使えん。マニュスは無能だったからな』


『は?』


 マッテオはニヤリと笑ってから、レナータの言葉に戻した。


『俺も混乱してんだ。だから、生まれ変わりっていうのを教えてくれないか?』


 ステファノは、グランデフィウーメに報復すべく、軍の編成とフェデリーゴの即位に向けて慌ただしく動いていた。

 

 ステファノは政治から引退したかったが、ルドが死んでしまったため、引退どころではなく、急いで国をまとめねばならなくなった。


 老体に鞭を打って、情報を集め、部下たちに指示を出していた。


 だが、議会は大人しくステファノの指示に従わなかった。


 ルドを殺した貴族の中に、ステファノの息子もいたからだ。


 この息子はトンマーゾ・ヴィペラに操られていたのだが、それを知る者はおらず、皇帝を支える一族でさえ、裏切り者がいるのというルークススペース側を疑心暗鬼にさせた。


 この点において、トンマーゾの陰謀は叶ったと言えよう。


 この場でも、誰がグランデフィウーメに内通しているかわからない。


 ルド派であった貴族でさえも、互いを疑いの目で見ている。


 ステファノは、先陣を切り、謀反に加担した息子を処刑すると宣言した。


 なんとかその場をやりすごし、休憩に入ったとき、リクが話がしたいと伝令からあった。


 正直、神使に構っている時間はない。


 エジリオが言い遺した言葉についてと言われ、ステファノも愚痴をこぼしたくなった。


―――エジリオ様、余計なことを…。


 言われた部屋に行くと、リクだけではなく、カリーナやルドの子どもたち、そして追い出したはずのマッテオがいた。


 マッテオをつまみ出そうとしたが、リクが止めた。


『マッテオにマニュス王の記憶があるそうです。中央(ケントルム)の言葉が話せました』


『どういうことです?』


 神使とルド一家の前だ。ステファノはふざけたことを言うな奴隷めと、言いたいのを堪えた。


 ステファノを見ると恐縮するマッテオが、ふてぶてしく笑っている。


 フェデリーゴも遅れて部屋に入ってくると、マッテオがいて驚いた顔をした。


 全員着席すると、リクはステファノに転生者について話すべきか確認した。


『ここには陛下の身内の方のみが集まっている。話してもいいと思う』


 ステファノは渋々というように承諾した。


 リクはルドが自分以外の人間の記憶があることや、異教の転生という考えについてかい摘んで話した。


『神々の教えにはない現象だったから、陛下を統一王マニュスの転生者と公表できず、霊が憑いたということにしたんです。

 陛下も誰であったかはわからないようでした。ただ、統一王マニュスと親しい関係であり、王の死後、マニュスと名乗っていたと』


 信じがたい話に、ルドの子どもたちは戸惑っていた。

 

 マッテオだけが、納得した顔をしていた。


『リク神使、質問していいか?』


『なんだ?マッテオが統一王の記憶があるなら、ルドの前世が誰だかわかるか?』


 この場に集まる前、マッテオはジュストたちにはマニュスらしき記憶を思い出したことを話したが、ステファノとフェデリーゴは初めてであった。


 困惑する二人にマッテオは、ルドの遺体を見て、他人の記憶が脳裏に蘇って混乱し、この現象を知りたいため、リクに聞いたと軽く説明した。


 理論的な話し方に、ステファノもマッテオらしくないと思ったようだ。


『ルドが誰の転生者だったか、わかるかって?ルドの前世を確認するために質問するんじゃないか。

 ルドの前世はマニュスとは会っているんだよな?マニュスの容姿は?瞳の色とか』


『あー。そういえば聞いてない。千年前の人っぽい服装をしていて、中央(ケントルム)人だったとしか』


『ルドの前世の容姿は?』


 リクは思い出そうと天井を見上げると、ステファノが答えた。


『顔は覚えていないが、眼の色は陛下と同じ蒼色だったそうだ。水の使い手で、奴隷や平民からも使い手を集い、直属の兵にしたと。街を水魔法で沈めたことがあり、実際現世でもやってのけられた。中央(ケントルム)に行ったとき、マニュス王時代の奴隷将軍の墓へ手向けた花は、白百合で、前世が好きだったと』


 マッテオは、まさかと呟いてから、手のひらに顔を(うず)めた。


『…あの人だ。あの人に違いない。

 なんでルドが死んでから、俺は前世を思い出したんだ。あの人と話せたのに』


『ルドの前世のことがわかったか?』


 リクはじれったそうにしていると、マッテオは涙を拭ってから顔を上げた。


『ああ。ルドの前世は、マニュスの妻、コルネリアだ。彼女は水の使い手で、いくつもの戦いにおいて勝利を収めた。

 マニュスは無能…魔法が使えなかった。マニュスの代わりに魔法を放ち、いつしかそれが、マニュスが水の使い手と呼ぼれるようになったんだろうよ』


『マニュスの、妻?』


 誰?という顔をみな浮かべているのが、マッテオは寂しかった。


 マニュスの愛した妻は、この時代、誰も覚えていないのだ。


『娼婦でありながら、最上級の魔法の使い手だった。

 そうか。ルドはコルだったのか』


 そのまま、物思いにふけってしまっているマッテオに、みな説明してほしいが、疑問だらけで何を先に聞けばいいのか困るほどであった。


 ステファノは、マッテオをどう扱うか悩んでいた。


 マニュスの転生者なら、丁寧に扱わねばならず、かと言って嘘をついていたのなら、ここから追い出したい。


『…して。マッテオ。仮にお前がマニュス王の生まれ変わりだったとする。

 現世は年寄りの奴隷だ。何ができよう?』


 マッテオは指を組んで、ふーっと息を吐いた。


 腕を捲り、ルドが消した奴隷だと示す焼印箇所を見せる。


『そのことを考えていた。このまま家に帰る気はない。ルドを殺した奴らを許せない。でも俺は戦場では、お荷物だろうよ。

 だから、ステファノ様よ。兵を少し貸してくんないか?幸い、ルドが俺の焼印を消してくれた。奴隷でも農民でもいい。グランデフィウーメに恨みを持っている者たちがいい。指揮官として戦いたい』


『お前に預けてどうする?』


『死を恐れぬ死兵団を作る。家族も何もかも失った奴ほどいい』


 鋭い眼光に、この場にいた者たちは、この男はマッテオではないと理解した。


『…わかった。提案に乗ろう』


 ステファノが承諾すると、ずっと黙っていたジュストが手を上げる。


『マッテオ父さん。その兵団に俺が入っていいか?』


『いや、お前は…』


 ジュストに向ける、困惑、同情、そして、侮蔑。


 かつて、ルドの後継者として名を挙げられたジュストの政治家としての信頼は、地に落ちていたことを、マッテオは察した。


『わかった。お前がいた方がやりやすい。俺は年だからいつくたばってもおかしくないからな』


 こうして、マッテオ率いるグランデフィウーメ殲滅を掲げた兵団が生まれた。


 



 一方、グランデフィウーメ領主は、皇帝の指輪の在り処を突き止め、奪うべく模索していた。


『そんなにほしければ、兄上に作ってもらいましょうよ』


 側近のトンマーゾ・ヴィペラは、妄執する領主に呆れていた。


 その責任はトンマーゾにもあるのだが、支えるべきグランデフィウーメ領主のルイージの健康状態を気にかけていなかった。


 ルイージに暗示魔法をかけ、ルドを殺させたのはトンマーゾだった。


 そのせいでルイージは、正気を失っていった。 


―――あの平民皇帝は死んだ。次はこの領主を操り、自分の描いた貴族の世の中に戻す。


 トンマーゾの心はそればかり占め、己も妄執し、壊れていっていることに気づいていなかった。


『トンマーゾ。指輪を手に入れる方法はないか』


『…。キアーラ様にこう話をしたらいかがでしょう。

 お前とお前の子は助けてやるから、皇帝の座(指輪)を寄越せと』


『おお、なるほど』


 嬉々として、ルイージは妹のキアーラ宛に手紙を送りつけた。


 最愛の夫を亡くしたキアーラは、不躾な兄の手紙に憤慨し、血縁である兄と徹底的に縁を切ると宣言した。


 だが、そう思わない人間もいた。


 敵の領主の妹。


 自分可愛さで、裏切るのではないか、と。


 グランデフィウーメの血を引くフェデリーゴに、皇帝の座につかせていいものかという意見もあり、フェデリーゴがすぐに皇帝になれなかった。


 フェデリーゴをルークススペース帝国の皇帝にさせるべきではない。


 フェデリーゴは、グランデフィウーメ領主の甥にあたる。


 キアーラを通して、グランデフィウーメがフェデリーゴを操るのではないか。


 議会の場でも、皇帝の選定にジュストの名前は一切上がらず、フェデリーゴも皇帝になる気であった。


 しかし、フェデリーゴは、貴族からの信用を集めねばならなかった。



 皇帝を暗殺したグランデフィウーメ側も、一枚岩ではなかった。


 ルドの政策で利を得たグランデフィウーメの貴族もおり、時代の流れに逆行する政策を唱えるルイージは領主の器ではないと考えていた。


 しかも、主君である皇帝を殺して、自分が皇帝になろうとしている。


 逆らう者たちは殺す、暗君になるのではないか。


 他の者はトンマーゾの魔法にかかり、言いなりになっていると疑っていた。


 ルイージはそんな周囲の声を知っていた。


 たがら焦っていた。


 当初、賊に襲われたルドを助けて、皇帝の指輪を授かるというシナリオであったが、ジュストがルドと指輪を持って逃げてしまったため、計画は崩れた。


『指輪さえあれば。私が皇帝である証になり、誰も文句は言わないはずだ。

 おい、キアーラの返事はまだか!トンマーゾ!』


 そのトンマーゾは、兄のいるプラテリアに行き、最愛の兄に殺されたのであった。





 ステファノが手配した奴隷や元奴隷、兵に志願した平民などがマッテオの手で教育され、戦場へ送られた。


 ジュストは訓練を見て、兵士の訓練ではないと思った。


 中には武器も持ったことのない、素人もいた。


 戦場でいきなり剣を持ったり、攻撃魔法を使えというのは無理である。


 だから、囮や敵を巻き込む自爆攻撃をメインとした訓練であった。


 マニュスの記憶がないマッテオだったら、考えも人に指示もできなかっただろう。


 グランデフィウーメ側に寝返った小貴族を滅ぼしたのをきっかけに、ステファノはマッテオをマニュスの転生者と認めた。


 ジュストは人を捨て駒のように扱うマッテオを恐ろしく感じていたが、彼は国を元に戻すという強い願いがあった。


 人の道を外れようが、ジュストはルドが作った国を取り戻したかったのだ。


 遠隔で土魔法を使う作戦には進んでジュストを使ったが、マッテオが最前線にジュストを送り込むことはなかった。


『魔法って便利だよな。前世は妻に、現世は孫に助けられなきゃいけないのが悔しいが』


 土の中へ沈む敵の砦を眺めて、楽しそうにマッテオが言う。

 

『俺って、マッテオの孫なの?』


『だって、お前はルドの子どもじゃないか。養子だけど。ルドは俺の子どもみたいなものだし』


『ずっとマッテオ父さんって呼んでるし、父親でよくない?』


『そうか?』


 あまり深く考えないところは、マッテオらしい。


 そんなやりとりが、ジュストの心の支えとなっていた。


 マッテオの快進撃は、ルドの育ての親であることで徐々にルークススペース帝国国内でも認められるようになってきた。


 名が広まり、勝利を得ても、戦争は終わらなかった。


 昨日同盟を結んだと思えば、今日は裏切る。


 レナータの暗黒時代に、マッテオはこのままでいいのかと考え始めていた。


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