表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第三章 ロラの話
232/278

17話 報告

 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

 ラザールとマカレナが来ると、シランスの街で流行っているお菓子を持ってきてくれ、それを食べながら互いの近況を話した。


「クロヴィスの余罪がかなりあり、被害者の会を立ち上げることにしたよ。一つずつの事件は小さくて、罪の軽いものばかりだから、あいつに理解させるため少しでも罪を重くしたい」


 まずは重めの話を、ラザールが切り出した。


 大統領の孫であるクロヴィスが、暴行や恐喝罪で逮捕されたニュースは、大スキャンダルになったため、ロラもニュースを観て彼が正式に捕まったことを知った。


 ロラの家にはテレビがなく、祖父母が越してきた際に買ったので、ロラは世間のことを知ることができた。


 富裕層の祖父母が、初めて訪れたとき、玄関の鍵もない貧素な家に絶句したのはロラには秘密であった。


 クロヴィスは逮捕されたが、親の金だろう保釈金を払い、自宅待機になっている。


 外に出て勝手なことをしないよう、ルイは専用の警備員を雇ったほどだ。


 オスカーも重く受け止め、大統領を辞任しようと悩んだようだが、与党の幹部に止められたそうだ。


 オスカーや大統領秘書のルイへの責任問題へ波及しなかったのは、ラザールが被害届を出し、訴えを起こしたことが注目されたからであった。


 マスコミはアルク家対シランス家と騒ぎ立て、他の被害者たちが出てくるとクロヴィスを叩くようになっていった。


 これには情報や世論操作が行われていると、ロラは思ったようだ。


「ほどほどにね。前世のつもりでいてはだめよ。ラザールは学生なんだから」


 情報操作にラザールは加担していないだろうが、ロラは少々心配であった。


 前世のエクトルが役人の腐敗を調べ上げ、多くの貴族を牢へ送ってきた。


 その手腕は後世にも語られ、尊敬されているが、現世で発揮したらクロヴィスいや、裁判に関わる人たちがかわいそうに思えてくる。


「二度と犯罪に手を染めないように、反省させなくてはいけないからね。手は抜かないよ」


 ラザールは爽やかに笑うが、母のマカレナの頬は引きつっていた。


 エクトルの転生者として、父親のクレールに政治的な意見を求められることがあり、今までのラザールと違って手厳しいものだった。


 落ち込んだクレールをマカレナが励ますこともあったようだ。


「手を抜かないって、あなたは警察でも裁判官でもないんだから。

 刑期を終えても、更生しないようならそういう施設の人に任せればいいんだから」


「そういう施設をリアム様がお作りになられたけど、お金持ちは早く出てこれるようだよ?」


 ロラは壮大に舌打ちすると、祖父母を驚かせてしまった。祖父母の前では舌打ちをするような子ではないからだ。


「そうならないように、賄賂を禁止したり色々規則を決めたはずだが、腐ったようだな。それについて何かしてるの?」


「父に報告し、関係各所に勧告や是正を求めているよ」


「わかった。それならいい。

 それで彼のバックには誰もいなかったの?」


 ロラは一番そこを気にしていた。マフィアが絡んでいる場合、わがままお坊ちゃんの暴力事件で済まされないからだ。


 被害者が恐喝され、訴えを取下げてしまうこともある。


「誘われてはいたみたいだけど、そこは大統領に影響すると思って断ってたみたい」


「そういう判断できるなら、暴力沙汰起こすなよな」


 思わずリアム口調になるロラである。


 クロヴィスの裁判から刑の確定まで時間がかかる。


 ロラは判決を気長に待つことにし、別の話題をした。


「帝国に行ったんだって?せっかくなら雪の時期に行けばよかったのに。

 エクトルの時代と違って、王宮に雪は積もらないのを見たらびっくりするよ」


「エクトルからしたら、かなり驚きの光景だけど、現世では普通だの思ってしまったからね。

 そうそう、フィデルの奴と話したけど、やっぱり神帝陛下の判断が必要だってことになって。後で二人きりで話したい」


「俺は転生していない、お前らが決めろ」


「そうやってすぐ逃げる。面倒くさがらないでよ。ロラの身を守るものなんだからさ」


 ラザールは腕にはめた魔法具をちょんちょんと叩く。


 ロラもユビキタスのことかと察した。


 ユビキタスに干渉するには、特定の魔法と呪文が必要なため、魔力を封じられた状態では、使えないからだ。


「別に使えなくてもいいけど…」


「ダメ。リアム様のときはあれがあったから助かったんでしょう?」


「そうだけど…」


「改良は決定事項だから」


「どうせ最後はお前が決めるんだから、()の意見はいらなくない?」


「現世は皇子ではないから、全く持って決定権はない。陛下のご意向なくして何も動かせない」


「はいはい。石頭は誰のことだか」


 ロラがため息をつくと、マカレナはくすくすと笑い、席を立とうとした。


「二人で話すんでしょう?私たちはお庭に行っているわ」


 マカレナもユビキタスのことだとわかっていた。


 皇帝がシランス邸に来た次の日、ラザールはマカレナを地下室の宝飾品をしまっている部屋に呼び出した。


 ここは壁が厚く、外から聞かれないため、ラザールはこの部屋を選んだ。


「お母様はユビキタスと聞いて、何だかわかりますか?」


 皇帝の直系と技術者だけがその存在を知っており、知らないはずの息子の口からユビキタスの名前が出たとき、本当にエクトルの生まれ変わりなのだとマカレナは息を呑んだ。


「ええ。知ってるわ。これは帝国の最高機密になるから、詳しくは話せないけど」


「その原則は変わってないんですね。改良の検討とかは直接皇帝に言わないといけないですかね?」


「そうなるわね」


 ラザールは深く息をつき、帝国に行くしかないかとぼやいていた。


「何かあったの?」


「魔力を封じる魔法具があるのは知ってますよね?それをしてしまうと、ユビキタスに干渉できなくなる…という話は知ってます?」


「…ユビキタスへの干渉は特定の魔法と呪文が必要で、神帝陛下しかご存知ない。魔力を封じる魔法具が出たとき、技術者から神帝陛下が使用できなくなるおそれがあると、報告は受けていたけれど、転生者が現れたわけではないから、先延ばしにしたって聞いたわ。

 ロラさんが現れたから急がないとね。クロヴィスの件で封じられたって聞いて、肝が冷えたわ」


 帝国でも議題になっていたと聞いて、ラザールは少し安心した。


「フィデルの奴にロラが魔力を封じられたといえば、状況を教えてくれるかな。

 千年前は俺に丸投げしてきたから、あいつ、仕組みを知らないだろうし俺に聞いてくるだろうな」


 ブツブツ文句を言いつつ、ラザールは帝国に行き、皇帝と技術者たちに会ってきたのだ。


 通信魔法具でロラの件を話してから、一ヶ月後のことだったのだが、具体的な案は上がっておらず、それにラザールは怒った。


『光帝陛下の生まれ変わりをお守りする気はあるのか!平和な世だからといってたるみすぎてるぞ!』


 会議の中では最年少のラザールにどやされ、皇帝も技術者も身を縮めたという。


『なんで孫がエクトルの転生者なんだ』


 頭を抱える皇帝に、宰相たちはどう声をかけるべきかそれに頭を抱えたそうだ。


 という経緯を話すため、ラザールはロラと二人で話したかったのだ。


 祖父母も気を使って席を外すと、ラザールは魔法具で防音壁を作った。


「新たな仕組みを作る方がいいけれど、私は今のままでもいいと思うよ?」


 案の定、控えめなことを提案するロラに、ラザールは苦笑してしまった。


「それでは意味がない。クロヴィスのような男が現れたらどう戦うんだ?」


「それはそうだけど…。呪文の方も変えないと駄目だよ?

 中央(ケントルム)の言葉が話せる人が多くなってしまったから、呪文の有効性がなくなってしまった。アニバルの時代は、死語だったから誰もわからない鍵として使えたのに」


「そう思ったのなら、どうしてリアム様のときはジルベール様たちを止めなかったんだ?」


「こんなに浸透するとは思わなくて」


 過ぎたものを責めても仕方がない。


 ラザールは代案をロラに求めたが、リアム時代の魔法具の知識で止まっているため、いい案が出るとは思えなかった。


「定期的に呪文を変えるとか」


「最後の呪文を来世で思い出せる?」


「…忘れそうね」


 ロラも考えてみるということになり、ラザールはユビキタスについて話すのはやめた。


「学校に慣れたようでよかったよ。他に不便はない?」


「大丈夫。ありがとう。その…アニバルが死んだ後のことが気になってるんだけど、聞いていい?」


「俺の知っている範囲なら」


 ロラはマグカップを握り直した。


「ホセって覚えてる?」


「ああ。陛下の護衛だった」


「アニバルが死んで、彼をみんな責めたりしなかった?気に病んでなければいいんだけど」


 ホセはアニバルの遺体を最初に発見した人物だ。

 

 陰ながらアニバルを守ってきたホセだが、責任感のある男だった。


 アニバルが死んだのは自分のせいではないのかと責めていなければいいと、リアムのときに考えていた。


「ホセは…」


 ラザールは思い出すように、カップのコーヒーを睨んでいた。


「護衛の間で何があったかわからない。新たに任務につくわけでもなく、王宮を離れたと思う。陛下の葬儀の最中にフィデルがジュストの記憶を思い出して、俺はそれで手一杯だったから」


「喧嘩したんだっけ?」


「ロラが気にすることではないよ。あいつの気持ち次第だから。

 俺も庭を見てもいい?」


 窓の外から、マカレナたちがこちらをチラチラ見ていた。


「うん。バラを植えてみたの。まだ咲かないんだけどね」


 ラザールは前世の話は楽しいが、現世のロラの話を聞きたかった。


 今日も前世で、そして現世で自分を救った人が隣にいる。


 今日咲き始めた花を楽しそうに話すロラの横顔を眺めて、ラザールはとても幸せな気持ちになっていた。





 ラザールとマカレナが帰ったあと、夕飯まで時間があったからジョゼフィーヌの日記を読むことにした。


 ページの最初には、ジョゼフィーヌからリアム宛のメッセージが書かれており、その文字を指でなぞりながら、ロラは微笑んだ。


―――リアムへ。あなたが転生し、この日記を読むことを信じて、私はあなたが死んだ後のことをここに記します。

 少しでも前世の憂いを晴らし、現世を楽しく過ごしてもらえる助けになりますように…


 リアムのとき、前世の話をジョゼフィーヌに話したことが何度かあった。


 家族や知人がどうなったか気になるようなことを言っていたのを、ジョゼフィーヌは覚えていたらしい。


 リアムの家族のことを日記に残してくれたのだ。


「予想より早く転生したよ。君のお陰で、オスカーたちのことまで知れて嬉しいよ」


 リアムの死後、ランバートは平和な日が続いていたが、隣国などでは政情不安が続いていたようだ。


 国境防衛のために、軍事費の予算を増額しようとした国に、国民が反対したことがあった。


 平和なランバートで軍事費を増やすより、福祉費に回すべきだという国民の考えであった。


 国民の反対により、この件は国が取り下げたらしい。


 代わりに安価で済む武器の製造に、国は目をつけた。

 

 それが空を飛ぶ魔法具だ。


 いわゆる、人が乗らずに飛行できるドローンである。


 ハイドランジアは地球と違い魔鳥がおり、餌か敵だと思って、飛行機を攻撃してしまうため、人が乗るにはリスクがあった。


 人が乗れない小さな飛行機魔法具は、魔鳥が反応しないことが分かり、あらゆる分野から注目されていたのだ。


 リアムは飛行魔法具の平和利用を望み、ランバートで規制し、各国にも理解を求めていた。


 デスペハード帝国はそれに応じ、製造や使用の中止を発表していたが、研究は続けていたようだ。


 リアムの呼びかけに応じない国や地域は、開発を強化していたため、ランバートも帝国もこのまま中止していたら、軍事面で不利になる。


 リアムが死んだことで、多くの国が平和利用の条約を破棄し、兵器としての製造に乗り出したのだ。


 遠隔操作で、攻撃や偵察ができる魔法具があれば、兵士を育成する期間も費用も少なくてすむ。


 それに負傷兵の治療費や、精神を病む兵士などを大幅に減らせるのだ。


 飛行魔法具の軍事利用にジョゼフィーヌは反対運動を起こしたが、政治家でもあったユベールに、兵士や国民の命と心を守れると説得されてしまったようだ。


―――老人が口を挟むことではないのでしょう。若い人や次世代の人たちに、国の未来を託すべきなのはわかっている。

 でもリアムが望んだ平和な世界を、あの魔法具が壊してしまいそうで私は怖いの。

 どうか、あなたの来世では幸せの魔法具でありますように。


 ジョゼフィーヌにつらい思いをさせてしまい、ロラは胸が締め付けられた。


「ごめん。俺の遺志とユベールの考えで、板挟みにさせてしまった。でも、俺のために戦ってくれてありがとう」


 彼女もいつか転生してくれるだろうか。


 ロラはジョゼフィーヌ宛に何かメッセージを残すべきか、考え始めていた。


「ロラ、ごはんできたわよ」


 祖母の呼ぶ声に、リアム思考から頭を切り替える。


「はーい。今、行く」


 ジョゼフィーヌの日記をしまい、現世の家族のところへ向かった。


 ロラの少女時代編が終わったので、次回投稿は、人物紹介になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ