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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第二章 賢王リアムの話
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8話 コア

 朝食を宿で済ませるとリアムはクレマンに声をかけたよ。


「あの、宿代と食事は?」


「ん?俺が払っておくから気にしないで」


「え!車に乗せてもらったのに、宿代まで…」


「律義だね、リアムは。いい心がけだ。それでは、俺の買い付けしたのを買ってくれたらいいよ」


「何を売ってるの?」


「おい、リアム。腕試ししようぜ」


 傭兵の三人組に声をかけられて、クレマンもリアムの腕試しを見に行くことにしたよ。


「防御の魔法具は持っているよな?」


「防御の魔法具?」


 リアムが首を傾げていると、傭兵たちが吹き出したよ。


「いやー本当に地元を出てきたばっかなんだな。笑って悪い。馬鹿にしたわけじゃないぜ。俺も若い頃はそうだったしな。クレマンさん、客だぜ?」


「ふふ。一式ご購入してもらおうかな」


 と楽しそうなのを隣にいた妻のニノンは、恥ずかしそうにしていたよ。


「やめなさいよ。まだリアムは駆け出しなのよ。お金はないのにかわいそうよ」


「ちゃんと安いの出してあげるから」


 頬を赤くしているニノンに、リアムは胸がドキドキしっぱなしだったんだ。


 傭兵のおじさんたちはリアムの恋心に気づいたのか、ニヤニヤしていたよ。


 クレマンはペンダントタイプや腕輪タイプ、ベルトタイプなど防御の魔法具を色々出してくれたよ。


 傭兵のおじさんたちは親切で、使い方や相場とか教えてくれたよ。


「お試しに」


 クレマンが腕輪タイプを貸してくれたよ。魔法具を発動させると、身体にぴったりと透明の膜がでてきたんだ。


 アニバルの時代と同じように、魔法具には魔力の持つ魔石が埋め込まれているタイプと、魔石がないタイプがあるよ。


 リアムの時代はほとんど天然の魔石というものは使われておらず、デスペハード帝国が開発したコアと呼ばれる複雑な魔法陣が描かれた球体が使われているんだ。


 コアはキミたちの世界でいうと、電池と半導体が組合わさったようなもので、魔法具のベースとなる重要なものなんだ。


 コアを使えば魔石や人がなくても魔力を自動生産できるんだ。プラット村で使われていたバイクの魔力の供給源はこのコアになるよ。


 ランバート王国の人々はデスペハード帝国を嫌っていても、コアは生活になくてはならない存在だよ。


 魔法の使い手の中では、コアや魔石を使わないこだわりさんがいるらしいけど、市販されている魔法具は全部入っているんだ。


 最初から作ると大変で、例えて言うならパソコンのソフトとバッテリーを自分で作らなくてはいけないからどちらにしろ、コアを使う人がほとんどなんだ。


 だから、魔力がある人でもコアつきの魔法具を使う人が多かったよ。魔法具によって消費魔力は違うけれど、少量でも疲れるよりは疲れない道具を使うよね。


 コアを見たことがないと言ったら、クレマンと傭兵たちは驚いたよ。


「魔法具を分解して遊ばなかったのかよ」


 傭兵のマルタンは機械を解体するように魔法具を解体していたようだね。絶対にお母さんに怒られたよ。


「…俺、貧乏だったから、魔法具ももってなかった」


「そっか、そっか。テレビも観たことないって言ってたもんね。気にすることはないさ。自分で稼いで自分でほしいものを手に入れればいい」


 クレマンは人のことを否定しないから、リアムは心地よかったよ。そんなクレマンの伯父は少し変わった人のようで、クレマンは苦笑混じりに話してくれたよ。


「伯父は優しくて人が大好きで、あまり悪いことは言わないんだけど、帝国は信用していないみたいなんだ。

 帝国が開発したコアはどんな魔法でも再現できる魔法具を作ることができるようになって、欠かせないものなんだけれど、コアを使用する国は帝国の使用規定を守らないといけないんだ。

 その規定の一つにコアを解析してはならないというものがあって、破ると帝国に解析した人の身柄を引き渡さないといけないんだ。帝国としては複製されては困るのだろうけれど、過去、解析した人が処刑されたということがあったんだ。

 処刑は異常だ、何かコアに秘密があるんじゃないかって伯父は考えてね。帝国はコアを搭載した魔法具をハイドランジアの全ての国の、全ての人に持たせて何かしようとしているとか言い出して」


「それ、聞いたことありますぜ。会長はコアの話になると少し、お…おっほん。熱くなるというか」


 マルタン以外にも頷いていたから、傭兵さんたちは知っているみたい。


「そうなんですよ。困ってて。持っている人間の思考を操作できる魔法陣が入ってるだの、監視しているだのってね。

 だから自分で魔法具作ってるんだ。きっとコアの生産と販売を帝国が独占しているから、商売人として悔しいんだよ」


「魔法具って自分で作れるの?」


 リアムは大層なものを個人が作れると聞いて驚いたよ。


「材料と知識があればね。天然の魔石を使うから、コアつきの魔法具を買った方が断然安いんだけどね。伯父は結構器用で、銃を作ったことがあるんだ」



 見やすいからと、車のボンネットを開けてコアを見せてくれたよ。


 あ、そうそう。さっきバイクは魔力をガソリンスタンドのような場所で入れているって言ったけれど、バイクや車は消費魔力が大きいから、自動で魔力を作ろうとすると重くて大きなコアになってしまうから、魔力は外部から補充しなくてはならないんだって。


 ガラスのような球体にたくさんのコードが繋がっていて、魔法陣がたくさん描かれていたよ。真ん中に花のような絵があって、リアムは目を奪われたよ。


「この、真ん中の絵。見たことある」


「そりゃ、あるだろう。魔法具のない場所なんてないんだからよ。大陸の形に似ているから、大陸を模したっていう噂もあるぜ」


 エルヴェがうんちく言うけれど、リアムはじっと魔法具のコアを見つめて聞いてなさそうだよ。


 ぼんやりともやのようなものがかかっていて、何かが浮かんだけれど、輪郭すら掴めなかったんだ。


「何か、思い出せそうなのに」


 深刻そうだったからクレマンは心配したよ。


「もしかしてリアムって記憶喪失?」


「え?違うよ。よくわかんないんだけど、習ってもないのに他の地方の文字が読めたり、言葉が話せたりして。千年前のハイドランジアの地図に見覚えがあったりして、俺はきっと転生者なんだって思うんだけど。クレマンさんって、あちこち行っているんだよね?

 転生者に会ったことある?」


「うーん。さすがにないな…。帝国では数百年に一度、過去の偉人たちが転生しているようだけど、本当かは俺も知らない。

 これを見てリアムは何て思うんだい?」


 リアムはクレマンから、コアへ視線を移したよ。


「嬉しい…?また会えたって気持ちになる。初めて見るのに」


「その気持ちがどうして起こるか知りたい?」


「うん。村にいたときも、俺のいる場所はここではない、戻りたい、帰らないといけないって思うんだ。エドおじちゃんは、現実逃避したいだけだって言っていたけど」


「エドおじちゃん?」


「俺に剣を教えてくれた人。あ、腕試しするだった。クレマンさん、見せてくれてありがとう」


 リアムが笑うと、クレマンはボンネットを閉めたよ。


「どの魔法具にもついているから、見たいときそれを見るといい。解体のプロはここにいるらしいから」


 マルタンは解体して戻せないけどなと言っていたから、頼まない方がよさそうだよ。



 三人の傭兵の中で、剣を持っていたのはセザール一人だけだったんだ。やっぱり武器は銃が主流みたいだよ。


「リアムの気持ちはわかるぜ!英雄と言えば魔法の使い手と剣士だから、ガキの頃に憧れた」


 セザールは自前の剣をパシパシ叩いて笑っていたよ。


 マルタンとエルヴェは、剣の稽古はしたことあるらしいよ。


「貴族も傭兵も剣は基礎練習で、教養みたいなものだ。昔握ったきりだしな」


 マルタンはちょっと言い訳っぽかったよ。あまり上手くなかったのかな?


「簡単な手合わせだから、勝ち負けもルールはなし。リアムから来ていいぞ」


 セザールは剣を抜いたよ。手合わせは宿近くの広場で、まだ朝早いから人はまばらだったよ。


「わかった」


 リアムはかかとを合わせて、胸に右手を当てて一礼したよ。


 セザールたちはそれに驚いてたんだ。


「リアムの師匠(メートル)は貴族か?」


「なんで?」


「リアムが今やったのは、貴族がよく剣の試合や決闘をするときの作法だ。傭兵は作法をする奴もいればしない奴もいるが、貴族流はまずいない。元貴族なら逆に平民落ちを隠すために、やらないしな」


「そうなんだ。エドおじちゃんは練習でも試合でもお辞儀をするんだって教えてくれたから、みんなするんだと思ってた」


「そっか。ま、やってみようぜ」


 セザールとリアムは間合いで構えたよ。


 開始の合図はなく、リアムはふぅと深呼吸すると中段に構えていた剣を、セザールの剣めがけて僅かに右下に下ろしてから、左上へ斜めに振り上げたんだ。


 セザールはリアムが上段に構えなおして、振り下ろすと思っていたけれど、反射的に身と剣を引いて、避けたよ。



 リアムは振り上げた瞬間に左手に力を入れて、セザール目掛けて振り下ろしたんだ。


 リアムの剣の速さに、セザールはあたたかく若年者を見る目から、戦士の目になっていたよ。


 双方の剣が交わり、押し合いになったんだ。


―――若い奴によくある、力任せの剣術じゃない。体重の乗せ方、身体の使い方をよく知っている。そして勘もいい。まだ十代なのに慣れているな。


 セザールがうぉぉっと叫んで、突き放すように剣を押し出すと、リアムはよろめきながらも、軽やかにステップを踏んでからすぐに両足を地面についたよ。


 セザールは剣を構え直す、リアムの容姿に見覚えがあったよ。


 ランバートの平民には金髪の人間は少なく、目立っていたよ。


 ウェーブのかかったくせ毛を一つに束ねて、前髪を掻き分けたあとの人を食ったような笑み。


 目の前の少年とはまったく性格は違うのに、重なって見えたんだ。


「ランバートの英雄に似てるな」


「ランバートの英雄?」


 リアムが真剣な目から、力が抜けたように丸くなったよ。


「水葬のシャルルっていう男だ。魔法で有名になっちまったが、あいつも金髪で剣も上手かった」


 セザールが言うと、どうしてか目の前の少年は目を輝かしたんだ。


「水魔法が凄かったって聞いてたけど、剣も上手かったんだね!」


「ランバートの英雄はガキでも知ってるのに、水葬のシャルルは知ってるのかよ」


「ランバートの英雄の話は知っているよ。親父の話だったなんて知らなかっただけ」


「親父?」


「うん。水葬のシャルルは俺の親父。会ったことないけど」


 セザールたち傭兵は顔を見合わせたよ。


「シャルルにガキがいたのか?」


 マルタンがリアムをチラリとみたよ。嘘ついてるんじゃないかって疑っているみたい。


 エルヴェがそういえばと何か思い出したみたいだよ。


「あの戦争の時に子どもが生まれたって噂は聞いていた。リアム、いくつだ?」


「十七歳だけど」


 セザールは剣をしまってから、リアムを眺めて言ったよ。


「俺もシャルルが酒の席で自慢していたのを聞いた。歳も合うな。

 リアム、エドおじちゃんという人の名前は?」


「名前…。おじちゃんは自分のことを話してくれなかったし、俺もおじちゃんが話してくれるまで聞いちゃいけないと思ってたんだ。だからエドとしか知らない」


 リアムは村で非国民とエドおじさんが呼ばれてて、自分も学校で嫌な思いをしたのを思い出したよ。


 せっかくセザールたちが親切にしてくれたのに、よそよそしくなってしまうんじゃないかって心配になってきたんだ。


「なるほどな。俺らからはエドガ…エドさんについては話さない。エドさんは元気か?」


「うん。元気。俺がいなくなって、ごはんちゃんと食べてるか心配だけど。おじちゃんは料理できないし」


 セザールたちは爆笑したよ。


「そりゃ、そうだろう。貴族のぼっちゃんが料理なんてしたことないだろうし」


「おい、マルタン」


 セザールはリアムがエドおじさんの口から過去の話を聞きたいようだったから、マルタンを注意したんだ。


「おじちゃんが貴族だったっていうのは知ってるから。たくさんの人を助けようとして、王様に怒られて首都にいられなくなったってことも。

 知ってるのはそれだけだけど…。エドおじちゃんがしたことは悪いことだったの?」


 セザールたちは視線を交わして、良いも悪いも言わなかったんだ。


 クレマンは周囲を見て、自分たちしかいないのを確認したよ。


「俺はその当時は幼かったから、あとから聞いた話だし、テレビで観たことだけどね。水葬のシャルルはたった一人になっても帝国と戦った英雄で、エドって一人は敵である帝国に情報を売って自分だけ助かろうとした売国奴。でも当時を知る傭兵から聞いたら、少々事情が違う。

 エドはランバートの情報を売って、兵とこの国の男たちを助けようとした噂もある。戦争が長引けば、傭兵も正規兵も減っていく。

 剣も銃もろくに持ったことのない平民の男も徴兵しなければならなかった。ちょうど二十代だった俺の父も伯父も他人事ではなかっただろう。エドという人はそれを避けるために、帝国と交渉したため、国王陛下の怒りを買って追放された。

 エドは戦争の実績を作るために、少人数の傭兵が戦い、その中でシャルルも亡くなってしまった。でもリアム」


 クレマンは人差し指を唇においたよ。


「君からしたらとても複雑な心境で、許しがたいこともあるだろう。ただそれを口にしてはいけない。したいときは口は沈黙して、心の中で叫んで。

 国が主張したことは正しいと言わねばならない。君がもし、この国で暮らし、父親と同じ傭兵を選ぶならばね」


「俺は無理だよ。おじちゃんのことを非国民なんて言えない。おじちゃんも英雄じゃないか」


 セザールは、リアムの肩を優しく叩いたよ。


「ああ、英雄だ。俺らはあの戦いに駆り出された。拒否権はほとんどなかった。一度でも傭兵組合に登録の履歴がある傭兵は、老いて身体が動かなくなっても出兵命令が出された。傭兵だというのにな。拒否すれば非国民と呼ばれて、国にいられなくなった。

 帝国は国土がランバートよりも何倍もあるし、兵力も歴然だ。あっちは全土で数百万いるのに、こっちは一、二万がやっと。武器も遥かに帝国は強い。エドさんが帝国と話をつけてくれなかったら、俺らは生きていなかった。この国も滅んでいただろう。エドさんは俺らの英雄だ。リアム、それを忘れるな」


 リアムは腹が立ったり、疑問に思ったけれどひとまずエドおじさんに感謝している人たちがいると知って嬉しかったんだ。


「うん、忘れない」


「お前は国の傭兵になるな。近々また帝国が戦争しようとしている。俺らと一緒にカレ商会の護衛やってようぜ」


「誘ってくれてありがとう。でも一度リューリッシュに行くのは決めていたから。実力で名を上げて、一人前になって、おじちゃんとあちこち旅しようって。

 おじちゃんはもう自由なのに、自分で自分を縛っちゃっているみたいなんだ。俺、おじちゃんより強くなって、おじちゃんに守ってもらわなくても大丈夫なんだって、わかってもらうんだ」


「そういうことか。なら、俺らは何も言わない。リューリッシュで実際にシャルルに会ったことのある奴は少ないだろう。少し前に行ったときにまだ傭兵やっていたのは…。

 ガレオ・バルボーという男はシャルルと仲がよかった。あとはアルマン・ジュポン。変わっている奴だが、シャルルが駆け出しのアルマンの面倒を見ていたから、何かあったらお前を助けてくれるだろう」


「ガレオとアルマンだね。わかった。教えてくれてありがとう」


「エドさんって、まだ強いのか?」


「強いのかな?おじちゃん以外に手合わせしたのはセザールが初めてだし」


 セザールは途中でやめてよかったと思っていたらしいよ。


「エドさんは貴族の剣の大会で優勝したことがある人だ。兵士たちからも信頼が篤かったしな。一度手合わせ誘われたが、即刻断った」


 マルタンはあははと笑い、エルヴェは無理無理と顔と手を振ってたよ。


「じゃあ、俺はまだだな。マルタンとエルヴェ手合わせ…」


「断る!」


「歳考えろ、歳!お前十代、俺らは四十代!勝てっこないだろう」


「え~、エドおじちゃんも四十代だったと思うし、二人と同じ歳くらいでしょう?」


 さらに傭兵のおじさんたちと仲良くなったリアムは、車に乗って次の街へ出発したよ。

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