57 妹 6
お義姉さまが妊娠したときいて、私は喜んだ。
お兄ちゃん、よくやった!
長期間の焦らしプレイはきつかったよね!
私も邪魔して頑張ったかいがあるよ!
ところが、うちの男どもは情けない。
姉をとられた彼はともかくとして、なんでお兄ちゃんまで落ち込むのよ?!
お義姉さまの悪阻はとても重かった。
食べ物は一切受け付けず、水を飲むのがやっとだった。
男どもは右往左往した。私も食べられそうなものをすすめたけれど、嘔吐ばかりでとうとうお義姉さまは入院した。
私はお義姉さまの悪阻が重くなった一因は、精神的なものがあるとみている。
本当に、役立たずな男どもだ。
二人もそろっていてお義姉さま一人支えられないなんて!
私もちょっと悪阻で辛いのだけど、早い方がいいと思ってお義姉さまの入院している病院にお見舞いに行った。
お義姉さまの病院の個室に入ると、お義姉さまは私を見てぎこちなく微笑んだ。
とてもやせ細り、艶どころか、いつもはあったお義姉さまを包む色が消えていた。
私の憧れたお義姉さまの面影はどこにもない。
入院前日までは、ここまで影が薄くなかった。
何をどうしたら今にも消えそうな人になれるのよ?
儚い様子のお義姉さまも、なかなか美しいけれど、私は前のお義姉さまの方が断絶好みだ。
今のお義姉さまでは、世間の荒波に立ち向かう姉弟愛のヒロインとしてはすぐにくじけてしまいそうだ。
私はベッドの近くにある椅子に勝手に座らせてもらった。妊娠初期は、体調管理が大変なのだ。
「お義姉さま、これは言わない方がいいと思っていたので黙っていたのだけれど、説明に必要だから、言っちゃいますね。」
私は前置きしてから、お義姉さまに一方的に話しかけた。
「私には、同性の恋人がいます。お義姉さまの知っている人だけど、話が長くなるので横においておきます。ここからが本題です。」
私は悪阻の気持ち悪さがおさまっているうちに、一気に話す。
「お義姉さまの弟と最初に会ったときからずっと、彼に同情心はあっても恋愛感情はありません。この結婚は、いわば契約結婚です。
私は一生独身を通すつもりでいたので、ちょっと面白そうな人たちに協力するつもりで結婚したの。」
お義姉さまが私を真面目な表情で見ている。
私はこんな風にお義姉さまに見つめられたことがないので、こんなときだというのに、ちょっとときめいてしまった。
説明が長くなると私も体力面で苦しくなってくるので、ざっくりとした話し方にさせてもらう。
「彼は、お義姉さまが子供を一人も持たないまま妊娠適齢期を過ぎてしまうのを、危惧していたの。
子供が嫌いだとか作らない主義というのならともかく、時期が過ぎて後悔してほしくないって。
受精率が高い若い年齢の方が、お兄ちゃんとお義姉さまが妊娠を目的とした行為を最低限の回数で終わらせられる可能性が高い、というのも悩みだったそうよ。
好きな人に、そういう接触はして欲しくないものね。
お義姉さまにそういう行為をして欲しくないという彼自身も、お義姉さまが産んだ子供を育てたいという願望があるの。」
ちょっと、疲れてきたけれど、もう少しで核心部分になるので、頑張って話す。
「でも、お義姉さまは、普通にはお兄ちゃんを受け入れられないでしょ。
まさか実の弟の子供を産むわけにいかないし。
だから、私たちが先に妊娠して、お義姉さまに決断してもらうことにしたの。
私も、自分で産んだ子供が一人いた方がいいと思っていたのだけど、同性の恋人と子供を作れないし、お兄ちゃんとは論外だから、この計画に賛成したわ。」
やっとここまで説明できた。
お義姉さまは、ガラス玉のような無機物になった目で、微笑みを私に向けている。
「でもね、私は好きな人を裏切りたくなかったの。
彼もお義姉さましか抱けない。
だから、思い切り、想像することにしたの。
私は彼を男になった私の恋人だと思い、彼は私をお義姉さまだと思ってしたのよ。
最初から、そういう約束なの。
だから、お義姉さま、安心して。
私はお義姉さまの弟に抱かれていないわ。」
お義姉さまが両目をいっぱいに開く。
「ついでに、場所はホテルだったから、彼のベッドを使ってないわ。
彼のベッドに私は一度も入ったことがない。彼も、もちろん私のベッドに入ったことがない。」
お義姉さまの大きく開いた目から、大粒の涙がぽろぽろとこぼれてきた。
う、美しい! どうしよう! 心臓がドキドキしてきた!
ええい! ここが肝心なところだ。 一気に言っちゃおう!
「ちなみに、キスも、お触りも、お互いに無しです。
各自で準備して、妊娠目的の行為だけ、なので、そこしか接触していない。
できるだけ早く、と打合せしたので、時間もわずか、数分、かな?」
うわ! あからさま過ぎて、恥ずかしくなってきた!
さっさとまとめに入ろう!
「だから、私と彼は、愛し合う行為はしていないの。
妊娠するための手続き的な行為だから。
彼は浮気していませんよ。
お義姉さま一筋です!」
そう! 麗しい姉弟愛に、不純物など要らない!
あるとしたら、私のお兄ちゃんのことだけど、多めに見てあげたい。
お兄ちゃんはお義姉さまに一途なんだもの!
お義姉さまはボロボロと涙をこぼし、私に手を伸ばしながら言った。
「あなたが、私の弟の子を産んでくれるのね。」
麗しのお義姉さまのせっかくのお言葉だけど、私の意図と違うので訂正した。
「私にとっては私だけの子だけれど、DNAは彼のものを使わせてもらっています。
結婚当初の約束なので。」
私は美しい容姿の彼のDNAをもらって、私の子を妊娠した。
「わかったわ。でも、お礼を言わせて。」
お義姉さまは折れてくれた。
「ありがとう。」
お義姉さまはベッドに仰向けになったまま、私に顔を向けて心からの感謝をくれた。
だから、生物学上は父親かもしれないけれど、彼の子供じゃないんだってばー!
痩せ細って肌も潤いがないけれど、お義姉さまの周囲に色が出てきた。
これなら元気になるかな?




