56 弟 18
普通に夫婦生活を送っていたら、どこかの時点で、姉は妊娠するはずだった。
ところが、僕が結婚した相手は予想以上に僕たち姉弟に協力的で、姉と義兄の夫婦生活を邪魔してくれた。
僕は当初、嬉しかった。
ありえない幸運が降ってきた。姉が、ほとんど毎夜、僕のベッドにいるのだから。
僕たち姉弟は、もちろん、夫婦のような夜の営みはしない。
ただ、隣にいて、存在を感じられたらそれだけでいい。
姉も同じ思いでいてくれたのだろう。
姉は僕に遠慮深く接し、僕を挑発するような言動をとらなくなった。
僕たちは今日あった出来事を話したり思っていることを言い合って、そのうちに同じベッドで寝付いていた。
本当に、幸せな毎日だった。
しかし、姉がたてた計画では、この後子供を産むことになっている。
僕はとても嫌だった。
姉が妊娠するということは、姉が義兄をまるごと受け入れるということだ。
できるだけ期限を引き延ばし、できることなら子供は要らないと姉の口から言わせたい。
しかし、姉は僕の子供の話をし始めた。
僕が子供だった頃の話を持ち出して、生まれてくる子はどれだけ可愛いだろうと想像して喜んでいた。
僕たちがそれぞれのパートナーと子供を作ることは、変更できないことのようだ。
苦しい。嫌だ。そんなこと、してほしくない。
それでも、姉が望むのなら、心を殺して前に進まなければならない。
僕は嫌々ながら、僕たちが子供を持つ方法を計画し、実行に移した。
姉は僕が思っていた以上に脆かった。
最初、僕は姉に無視されているのだと思っていた。
でも、僕の姿が目に入るところだと、曖昧な表情をして反応した。
不審に思いながら確信を持てないでいると、時間とともに姉の異常性が表れた。
姉が、食事を取らないのだ。
朝ごはんを食べなくなったと義兄が言い、昼に食べているか姉にきくと、僕の質問に答えてくれなかった。
義兄がきくと、「少し。」と目を泳がせながら答える。
せめて夜は食べているだろうと姉と同居している義兄に尋ねると、ここ2週間ほど、「外で食べてきた」とか「疲れたから、今日はいらない」といった理由で、一緒に食べていないのだという。
僕は姉が心に受ける傷を甘くみていた。
ちょうど2週間前に、僕は姉に結婚相手を抱いたと告げたのだ。
姉は急激に痩せて、それで僕が気づいた。
義兄と彼女もほぼ毎日姉に会っているけれど、姉が忙しくしているせいだと思っていたようだ。
確かに、ここしばらく姉の帰宅は遅かった。
仕事がたてこんでいるのだろうと、気づくのが遅れた。
僕はどうして食べないのかきいたけれど、姉は微笑むだけで答えてくれない。
挨拶しても返してくれないので、僕は姉が子供っぽい仕返しをしているのだと思っていた。
本格的におかしいと気づいたのは、姉が僕に笑顔で報告してくれた時だった。
姉はこの一ヶ月、実家の自室に鍵をかけて寝ていた。
初日は鍵がかかっていないので僕は姉の部屋に入って姉に添い寝した。
二日目は、鍵がかかっていたので小さな声で姉に声をかけたけれど返事がないので、機嫌が悪いのだと思って実家の僕の部屋に泊まった。
朝に自宅に帰るとき、姉は僕の靴が玄関にあるのに気づくだろう。
僕と話す気になったら、僕のところに来ると思っていた。
以降、僕は姉が僕の自宅に来ない日は、夜中に実家の姉の部屋を確認し、鍵がかかっている時は実家の自室に泊まった。
家の中の部屋の鍵なんて、コインを使えば外からでも簡単に開けられる。
そうしなかったのは、ここは姉の避難場所だからだ。
姉と無理に会っても、姉は心を開いてくれない。
それどころか、他に避難場所を求めて、どこかに行ってしまうだろう。
僕は帰宅前に、スマホで姉に実家の姉の部屋に来るよう呼び出された。
2週間見ないうちに、姉はとても痩せていた。
「夫に抱かれたわ。お姉ちゃんは、もう大丈夫よ。」
姉も帰宅前の外出時の服装で、終始笑顔で僕に報告した。
姉は、義兄に抱かれて幸せなのだろう。
姉は、弟の僕が触れることができないところを義兄に触らせ、姉弟の関係でできないことをして、やっと女としての喜びを得たのだ。
手を強く握りしめて、僕は耐えた。
僕は姉に女としての喜びを何も与えてあげられない。
これでよかったのだ。
これで、姉は正しく幸せになれる。
僕は苦しくて悲しくて辛い気持ちを抑え、できるだけ自然に見えるよう微笑んで言った。
「よかったね。これで子供もできるよ。」
姉は笑顔を崩さない。
「お姉ちゃんは、大丈夫だから、心配しないで。」
「姉さんは、これで幸せになれるよ。」
僕の役目は終わったのだと感じ、僕は姉の笑顔を見るのが辛くなってきた。
姉は、他人を愛することができるようになったのだ。
いつまでも弟の僕が姉の男のような真似をしていてはいけない。
「お姉ちゃん、大丈夫だからね。」
姉がまた、同じことを言った。
姉は、何故大丈夫だと繰り返すのか?
僕が眉を寄せると、姉が部屋を出ようとした。
僕が呼びかけても止まらないので、僕は姉の手首を掴んだ。
「姉さん、こっちを見て。」
姉はびっくりしたように立ち止まったまま、ドアの方に顔を向けている。
姉が僕の方を見ないので、僕が姉の前に回った。
姉は笑顔だった。
こんなときに、どうして笑顔でいられる?
「もう行かないと。今日も、夫に抱かれないといけないから。」
僕は姉が何を言っているのかわからない。
姉は、義兄が好きで結婚した。
抱かれないといけない、なんていう、義務的なものではないはずだ。
「姉さん、義兄さんのこと、好きではないの?」
「もう行くね。」
姉さんは、笑顔で僕の言葉を流して行こうとする。
「姉さん、答えて。」
僕が姉の手首を掴ん(つか)でいるので、姉は行くことができない。
姉は笑顔で黙ったままだ。
僕は姉の張り付いたような笑顔が嫌になった。
僕は不安な気持ちのまま、性的に、姉の口にキスした。
できるだけ姉が感じるように、姉の口を犯した。
時間をかけて姉をとろけさせようとしたのに、久しぶりに姉の口を味わい、僕の方が満足してしまった。
僕が満たされた思いで姉を見ると、笑顔のままだった。
とろけるどころか、姉は僕のキスに返そうとするそぶりもみせない。
「お姉ちゃんは大丈夫だから、心配しないで。」
姉が、おかしい。
キスを返さないのは、義兄への想いが強いからなのかもしれない。
でも、何で笑顔なんだ?
お姉ちゃんは大丈夫だから、心配しないで。
僕は嫌な予感を振り払いたくて、姉にきいた。
「姉さん、ご飯、食べてる?」
姉が笑顔のまま黙っている。
「姉さん、今日はいい天気だね。」
今日は雨だ。姉は笑顔でいる。
「姉さん、僕が好き?」
姉は笑顔のまま、沈黙している。
「姉さん、僕と結婚しよう。」
僕は成人男性なのに、涙が出そうだった。
姉は、ただ笑顔で僕を見ていた。
「姉さん、僕の声が聞こえない?」
僕は泣きそうな顔だったのだろう。
「心配しないで。お姉ちゃんは大丈夫だから。」
姉は笑顔で、僕が掴んでいない方の腕を伸ばして僕の頭を撫でた。
姉は、自分が壊れても僕の姉を演じてくれていた。




