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振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第4章
55/81

55 姉 19



 病院の妊娠検査で妊娠が確定すると、私の世界はモノクロに変わった。

 弟ではない人と交わった証拠が、私のお腹にある。


 でも、一人子供を産めば、机上(きじょう)の空論でも、その世界では私は幸せになっていることになる。


 私の知っている世界では、私の幸せが壊れて元に戻らないので、私の知らない世界で幸せになれるよう頑張るしかない。




 私は悪阻(つわり)が辛いときいていたけれど、水を飲むのがやっとだという状況に自分がなるとは思っていなかった。

 食べないと胎児が育たないので、口にいれられる食べ物を何とか入れたいと思うのに、入れた途端に吐いてしまう。


 義妹(いもうと)が、自分も悪阻(つわり)で大変なのに世話してくれるのが申し訳ない。

 弟が選んだ女性だから、義妹(いもうと)は丈夫な赤ちゃんを産めるだろう。

 私は弟に選ばれなかった。

 だから、私には、何もない。


 夫にも、悪いことをした。

 私を愛してくれたのに、つまらない女を抱かせてしまった。



 

 弟は、私でななく、他人の女性を愛せるようになった。

 よかった。

 変な姉に捕まって、悪い夢を見させてしまった。

 解放できて、よかった。

 夫も早く解放しないと。


 義妹(いもうと)は弟と愛し合って子を(もう)けた。

 夫には義妹(いもうと)からもう少しだけ距離をとってもらい、弟と義妹(いもうと)の時間を作らないといけない。


 並行して、夫には新しい女性が必要だ。

 私は夫に必要ない。

 夫が望むなら、早めに離婚して、私は子供と別の場所に住もう。

 



 気持ち悪い。

 お腹も痛いし、立ち上がるのが辛い。


 頑張らないと。

 お腹には赤ちゃんがいるのだから。

 私が育てないと、それくらいできないと、私はお姉ちゃんなのだから。

 弟にみっともないところは見せられない。


 私は吐き気を(こら)えることができない。

 身体が飢餓状態にあるらしく、入院することになった。


 妊娠前から食欲が無くて、食事の量が減っていた。

 悪阻(つわり)で全く食べられなくなり、身体が根をあげたのだ。


 私は子供一人、まともにお腹で育てることもできない。

 情けない姉だ。






 私の世界はモノクロで、弟の声が聞こえない。

 この世界で、私が生きる意味なんて、本当にあるのか?


 私は人に愛されることをしていないし、愛してもらう資格もない。

 お腹の子も、こんな母親では不憫(ふびん)だ。


 つまらない妻が産んだ子を、夫は(うと)ましく思うかもしれない。

 結婚をしているので、この子はこのまま産まれたら、夫の戸籍に入る。


 (うと)ましい存在を戸籍に残したまま夫が新しい女性を迎えるというのは、夫がかわいそうだ。


 私がお腹でこの子を育てられないのは、この子を欲しがっていないせいだろう。

 せっかく入院させてもらっているのだけれど、中絶するということも考えないといけない。


 中絶には同意書に夫の署名が必要だ。

 次に夫に会ったとき、書いてもらおう。


 二度と子供は作らない。

 まだ人のカタチをしていないと言われても、私にとっては、私の子供だ。

 法律的な人権の問題ではない。

 倫理観の問題でもない。


 私が私の意思で作った子を私の意思で殺すのだ。

 誰に罰せられなくても、私は自分を罰せずにいられない。





 夫と弟が交互にお見舞いに来てくれる。


 夫に中絶のことを伝えようとして、お腹を撫でられて言えなくなった。

 夫は優しいから、私が中絶すると言うと悲しむだろう。

 後で困るのは、夫の方なのに。


 弟は私のそばで、何も言わずに私の頭を撫でている。

 私はもう、弟から何も感じない。

 弟とのことは考えない。


 とても自由だ。

 自由で、ふわふわして、このまま窓からウェンディのように空を飛べる気がする。

 実際には立ち上がることも辛くて、窓まで行く気力もない。


 世の中、どうにもならないことがあるのだ。

 努力しても、いくら前向きに考えても、この世界で欲しいものは手に入らない。


 全て、どうでもよくなった。

 




 退院したら、できるだけ弟から遠くに行こう。

 不出来な姉の姿を隠さないといけない。


 あってはいけない感情を持った姉の末路なんて、こんなものなのだ。

 幸せなんて、どの世界にも存在しなかった。


 ありもしない幸せを求めて、私は不幸を得た。

 いや、求めたのは弟の幸せだ。

 弟が正しい世界で幸せになっているのだから、私は予定通り幸せになったのだ。


 私は、幸せだ。


 自然と笑みがこぼれてくる。





 義妹(いもうと)が来てくれた。

 身体が(だる)いだろうに、この子も夫同様、とても優しい。


 義妹(いもうと)がいれば、弟も夫も大丈夫だ。

 私は生きる気力に(あふ)れた義妹(いもうと)(まぶ)しく感じながら微笑んだ。


 義妹(いもうと)は、弟と結婚してとても綺麗になった。

 弟に愛されて、弟の子をお腹に宿して、幸せなのだろう。


 義妹(いもうと)向日葵(ひまわり)のように周りにいる人を元気にしてくれる。

 だから、義妹(いもうと)は誰からも愛される。


 私も少しだけ、義妹(いもうと)から力をもらうことにする。

 早く退院して、この世界から、消えてしまいたいから。




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