54 姉 18
今後、苦く厳しい内容になっていきます。
夜、いつものように弟の部屋を訪れた。
「彼女を抱いたよ。」
弟が私を見て、何でもないことのように、さらりと言った。
弟は自分の結婚相手と寝たのだ。
自分の妻と寝るのは普通で、当たり前のことだ。
ショックを受ける方がどうかしている。
「そう。」
私は受け流し、これまで通り弟のベッドに入ろうとして、気持ちが悪くなった。
このベッドで義妹を抱いたのか?
その手で義妹のどこに触り、その口で義妹のどこに触れた?
私とできないことを義妹として、楽しかったか?
気持ちよかった?
私は姉だから、今まで通りにしようと努め、できない自分に苛立った。
できるだけ弟から離れたかった。
私は気持ち悪くて弟のベッドに入れず、帰ろうとした。
「姉さんも、きちんと結婚相手に抱かれるんだ。抱かれて、子供を作るんだ。」
後ろから弟に言われる。
そんなこと、言われなくても何年も前からやろうとしている!
うたた寝から無理矢理起こされたように、いきなり現実を突きつけられて、私は気持ちが整っていない。
私は弟に何も言えず、弟の家を出て、同じマンション内の実家に帰った。
私の家には義妹が来ていたので、自宅に帰るわけにいかなかったのだ。
私は実家の自分の部屋に入った。定期的にきちんと掃除してもらっていたいたおかげで、埃もなく、いつでも使える状態だった。
ベッドに横になると、ここで弟とした行為がいろいろと思い出された。
私は弟と恋人紛いのことをしていた。
弟はもっと先のこともしたかったのだろうけれど、自制心で抑えてくれていた。
私は弟にされたことを思い出しながら、目を閉じて弟と同じ風に自分の身体を触り始めた。
弟が、私の肩にふれ、腕を少しずつ撫で、脇腹を愛おしむように同じところを撫で、そのまま腰に触れ、手を引っ込める。
服の中に手を入れ、お腹を撫でて、胸の際を撫でて、私を抱きしめる。
私は自分自身を抱きしめたまま、涙を流していた。
ドアが開く音がした。
私の足を、温かくて柔らかいものが触れる。
繰り返されるキスの音。
足の甲、足の裏、足の指、足首、脛、ふくらはぎ、膝。
愛おしそうに、私の脚にキスをする。
目を開けて確かめなくても誰だかわかる。
私にこんなことをするのは、弟だけだ。
顔の横に気配を感じても目を閉じていると、唇に弟の唇を感じた。
「姉さん、寝たふりは、僕の得意技だよ。」
私は目を開けた。弟の目は、とても静かだった。
私ではない人を抱いても、弟はこんな目ができるのだ。
私は再び目を閉じた。
何も見ないし、何も考えない。
弟が私のベッドに入った気配がし、私は弟の腕に囲まれた。
何も感じない。
私の世界が、色あせていく。
いつもは感じる弟の熱も、匂いも、何も感じない。
弟が何か言っているけれど、遠くて聞こえない。
弟が、私を慰めようとしている。
ーーそんなことしなくても、私はお姉ちゃんだから、大丈夫だよ。
うつらうつらして、朝になり、私は弟を置いて自分の家に帰った。
弟が声をかけているけれど、何も聞こえない。
親が起き出す前に帰り、自宅でいつもの朝を繰り返す。
私の弟に抱かれた義妹が夫の頬にキスをして、明るく挨拶をする。
私は出かける準備をし、簡単なもので夫と朝ごはんを食べる。
食欲がないので今朝は牛乳だけにして出かけようとすると、夫が心配してくれた。
「心配ないわ。」
私は夫に微笑んで、いつも通りに出かける。
夜は、実家の自室に鍵をかけて泊まった。
ドアを開けようとする音が何度かあり、やがて静かになった。
一ヶ月後、私は夫から、義妹が妊娠したと聞かされた。
弟に、子供ができた。できるようなことをしたのだ。
私は心のどこかで、弟が義妹を抱いたと言ったことを疑っていた。
弟は私が好きなのだから、他の人を抱けるはずがないのだと驕っていた。
でも、弟は姉という厄介な立場の私なんて関係無しに、女性を抱けるのだ。
私は私自身を嘲笑った。
滑稽だ。
私の心なんて細かく裂かれてにちりじりになって、どこかに散らばってしまえばいい。
私は夫に縋り付いた。
夫は私をよく理解してくれている。
夫はばらばらになった私を抱いた。
私は妊娠するまで夫に毎日抱かれるつもりでいたのに、夫は翌日から私に触れなくなった。
一度抱けば、興味などなくなるのだ。
人形のように自分から動かない女なんて、夫には面白みのない相手なのだろう。
しばらくたつと、夫が私の身体の変化に気づいて妊娠判定をすすめてくれた。
私は、妊娠していた。
私の身体に、弟ではない人の子供がいる。
私はかつて、姉と弟それぞれ別の人と結婚し、子供を持つことを希求していた。
それが正しい幸せだと考え、信じていた。
そんなもの、机上の空論だった。
私の幸せは、姉弟そろって独身で、子供を持たないことにあったのだ。
弟と閉じこもって実家に住んでいたら今も幸せでいられたのに、あの頃の私はどうして前向きに、楽天的に未来を考えることができたのか。




