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振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第4章
54/81

54 姉 18 

 今後、苦く厳しい内容になっていきます。



 

 夜、いつものように弟の部屋を訪れた。


 「彼女を抱いたよ。」


 弟が私を見て、何でもないことのように、さらりと言った。


 弟は自分の結婚相手と寝たのだ。

 自分の妻と寝るのは普通で、当たり前のことだ。

 ショックを受ける方がどうかしている。


 「そう。」


 私は受け流し、これまで通り弟のベッドに入ろうとして、気持ちが悪くなった。



 このベッドで義妹(いもうと)を抱いたのか?

 その手で義妹(いもうと)のどこに触り、その口で義妹(いもうと)のどこに触れた?


 私とできないことを義妹(いもうと)として、楽しかったか? 

 気持ちよかった?

 



 私は姉だから、今まで通りにしようと努め、できない自分に苛立(いらだ)った。

 できるだけ弟から離れたかった。

 私は気持ち悪くて弟のベッドに入れず、帰ろうとした。


 「姉さんも、きちんと結婚相手に抱かれるんだ。抱かれて、子供を作るんだ。」


 後ろから弟に言われる。


 そんなこと、言われなくても何年も前からやろうとしている!


 うたた寝から無理矢理起こされたように、いきなり現実を突きつけられて、私は気持ちが整っていない。


 私は弟に何も言えず、弟の家を出て、同じマンション内の実家に帰った。

 私の家には義妹(いもうと)が来ていたので、自宅に帰るわけにいかなかったのだ。





 私は実家の自分の部屋に入った。定期的にきちんと掃除してもらっていたいたおかげで、(ほこり)もなく、いつでも使える状態だった。


 ベッドに横になると、ここで弟とした行為がいろいろと思い出された。


 私は弟と恋人紛いのことをしていた。

 弟はもっと先のこともしたかったのだろうけれど、自制心で抑えてくれていた。


 私は弟にされたことを思い出しながら、目を閉じて弟と同じ風に自分の身体を触り始めた。

 


 弟が、私の肩にふれ、腕を少しずつ撫で、脇腹を愛おしむように同じところを撫で、そのまま腰に触れ、手を引っ込める。

 服の中に手を入れ、お腹を撫でて、胸の(きわ)を撫でて、私を抱きしめる。



 私は自分自身を抱きしめたまま、涙を流していた。


 ドアが開く音がした。


 私の足を、温かくて柔らかいものが触れる。

 繰り返されるキスの音。

 足の甲、足の裏、足の指、足首、(すね)、ふくらはぎ、(ひざ)

 愛おしそうに、私の(あし)にキスをする。


 目を開けて確かめなくても誰だかわかる。

 私にこんなことをするのは、弟だけだ。



 顔の横に気配を感じても目を閉じていると、唇に弟の唇を感じた。


 「姉さん、寝たふりは、僕の得意技だよ。」


 私は目を開けた。弟の目は、とても静かだった。

 私ではない人を抱いても、弟はこんな目ができるのだ。



 私は再び目を閉じた。

 何も見ないし、何も考えない。


 弟が私のベッドに入った気配がし、私は弟の腕に囲まれた。


 

 何も感じない。


 私の世界が、色あせていく。


 いつもは感じる弟の熱も、匂いも、何も感じない。


 弟が何か言っているけれど、遠くて聞こえない。

 弟が、私を(なぐさ)めようとしている。


 ーーそんなことしなくても、私はお姉ちゃんだから、大丈夫だよ。


 うつらうつらして、朝になり、私は弟を置いて自分の家に帰った。

 弟が声をかけているけれど、何も聞こえない。

 



 親が起き出す前に帰り、自宅でいつもの朝を繰り返す。


 私の弟に抱かれた義妹(いもうと)が夫の(ほほ)にキスをして、明るく挨拶をする。


 私は出かける準備をし、簡単なもので夫と朝ごはんを食べる。

 食欲がないので今朝は牛乳だけにして出かけようとすると、夫が心配してくれた。


 「心配ないわ。」


 私は夫に微笑んで、いつも通りに出かける。

 夜は、実家の自室に鍵をかけて泊まった。

 ドアを開けようとする音が何度かあり、やがて静かになった。

 



 一ヶ月後、私は夫から、義妹(いもうと)が妊娠したと聞かされた。


 弟に、子供ができた。できるようなことをしたのだ。


 私は心のどこかで、弟が義妹(いもうと)を抱いたと言ったことを疑っていた。

 弟は私が好きなのだから、他の人を抱けるはずがないのだと(おご)っていた。


 でも、弟は姉という厄介な立場の私なんて関係無しに、女性を抱けるのだ。


 私は私自身を(あざ)笑った。

 滑稽(こっけい)だ。

 私の心なんて細かく裂かれてにちりじりになって、どこかに散らばってしまえばいい。


 私は夫に(すが)り付いた。

 夫は私をよく理解してくれている。

 夫はばらばらになった私を抱いた。


 私は妊娠するまで夫に毎日抱かれるつもりでいたのに、夫は翌日から私に触れなくなった。


 一度抱けば、興味などなくなるのだ。

 人形のように自分から動かない女なんて、夫には面白みのない相手なのだろう。


 しばらくたつと、夫が私の身体の変化に気づいて妊娠判定をすすめてくれた。

 私は、妊娠していた。


 



 私の身体に、弟ではない人の子供がいる。


 私はかつて、姉と弟それぞれ別の人と結婚し、子供を持つことを希求していた。

 それが正しい幸せだと考え、信じていた。


 そんなもの、机上(きじょう)の空論だった。


 私の幸せは、姉弟(してい)そろって独身で、子供を持たないことにあったのだ。

 弟と閉じこもって実家に住んでいたら今も幸せでいられたのに、あの頃の私はどうして前向きに、楽天的に未来を考えることができたのか。



 

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