42 姉 14
私は自分で決めたことなのに、この計画が正しいのか、自信がなくなっていた。
弟からの告白に、心が揺さぶられる。いけないことなのに、喜んでいる自分がいた。
自分で正しいことを選んで計画をたてたのに、弟と離れることが嫌で、実行に移せない。
姉としてだらしがない、弟のためにも早く計画通り進めなくてはと思うのに、不実な私と結婚することになる彼に申し訳なく思う気持ちまでわいてきて、自分のことなのに自分がどうしたいのかわからない。
彼に恋しているかときかれたら、どうも違うように思うし、嫌いなのかときかれたら、即否定できる。
では、彼に抱かれることができるのかと試してみたら、身体は心に素直に従い、彼を拒否してしまう。
彼を受け入れられないのに、結婚なんてできるはずがない。それでも結婚しようとするなら、彼に相当不条理な結婚生活を強いることになる。
彼が私にそこまでの価値を見出だしてくれるか、自信なんて全くない。
私は彼に真実を告げ、賭けに出た。これで彼が私から離れていくのだとしても、彼の幸せにつながるのだからそれでもいい。
でも、もし彼が真実を知った上でなお自らの意思で私と結婚したいと言うのならば、彼を私の大切な家族にしようと思う。
それにしても、まさか、弟が私の計画に気づいていたとは驚いた。
そして、弟がためらわず実行しようとしていることに、もっと驚いた。
夜中にせつなげに私を求めて自身を発散させる様子から、弟は私を手放さないと思っていたのに、私を彼に渡すことをためらわなかったのだ。
弟が急に大人になったと感じた。私たちが子供の時分に戻れないことが、とても悲しい。
私たちは、大人になってしまった。
彼の妹が家に来た日の入浴後、私は弟の部屋に入った。
明日では遅い。弟の本心を、物事が動き出す前にもう一度、確認したい。
私は、弟が振り向いてから、身体に巻いたバスタオルを外した。
私の裸体を弟が目を見開いて見ている。弟の熱い視線が心地好い。
「中学3年生のクリスマスのプレゼントに、私の裸を見たでしょ? 今の私は、どう?」
私は弟に近寄って、弟の頬に手を添えた。
愛した姉を、他の男と結婚させようとしている、私の愛する弟。
愛してもいない人と、私のために結婚しようとしている、大切な弟。
私は、弟が欲しい。おかしいことは承知の上だ。
こんなに好きなのに弟から離れないといけないなんて、何の罰なのだろう。
「中学3年生の時にもらったプレゼントは、僕のケーキを姉さんに食べさせることだよ。」
弟が冷静を装い私の目を見て言うので、私も疑問点を返す。
「次の朝、パジャマのボタンが一段ずれていたわ。」
「姉さんが僕を抱きしめて寝て、暑いって言って自分で脱いだんだ。
朝方、僕が姉さんにパジャマを着せた。」
私たちは、互いに目をそらさない。
「それまで、私は裸だったのね?」
「見てないよ。だから、ボタンが一段違ったんだ。」
裸を見ていないなら、手探りで着せたことになる。余計に私に触らないと、服を着せづらいと思うのだけれど。
弟が真剣に否定するので、細かいことはきかないでおいてあげる。
私は弟の手をとって、裸の私の胸に触らせた。
「私に触れて。」
私は、弟が欲しい。そして、弟に、欲しがられたい。
弟の手が熱い。弟に触れられていると思うと、身体が熱くなってくる。
ーー私のことを、本当に、他人にあげられるの?
私は弟の引き締まった身体に腕を回して、愛しい弟が私を求めるのを待った。
弟がうつむいて、私の胸をじっと見ている。私は弟の身体の変化を、そっと手で触れて確認した。弟は私のいたずらにびくっと反応を示す。
私は目を閉じて、弟が私にキスするのを待った。
私の鼓動が、弟に聞こえるような気がした。
ーー私を、自分のものにしたいと思わない?
待ったのに、唇に何も触れてこない。
弟に強く抱きしめられて、私は目を開けた。
「姉さんが結婚しても、僕は弟だから。ずっと姉さんの弟だから。」
弟の涙で、私の耳元が濡れる。
ーー弟は、私とは先に進みたくないんだ。
私は軽く絶望した。弟は、私の唯一の人になってくれない。私と二人だけの世界を選んでくれない。
弟は、頑なに、倫理観に基づいて正しい姉と弟として生きていこうとしている。
ーー私に愛を囁いたくせに。
二人だけの楽園が遠退いたことに落胆した。同時に、弟を悪い姉から救えると安堵した。
弟が世間の枠からはみ出ることを拒否した。それでも、私には「弟」がいることを知っている。
「あなたはずっと、私の弟なのね?」
私に抱き着いた大切な弟が頷く気配がする。
「お姉ちゃんのお願い、きいてくれる?」
弟が少し腕を緩めて顔を上げて、私を見た。
私は愛しい「弟」の唇を舐めた。
「弟」が少し目を大きくした。
「弟と、まだこういうことをしたいの?」
「弟」が私に艶やかに微笑む。
「あなたが気に入ったの。あなた無しではいられないわ。」
私は自分の気持ちに嘘をつくのをやめた。
私の人生に、「弟」は欠かせない。
弟は私のものになってはくれないけれど、私と関係する「弟」でいてくれる。
私は「弟」を全裸にして抱き合った。
「弟」の身体は大人の男性で私の身体は大人の女性だから、いろいろと不都合が生じるけれど、私たちは姉弟だから、私は「弟」を信頼して裸で抱き合える。
私は弟が好きすぎて、いきすぎた間違った愛情を弟に向けてしまった。
弟は、何も悪くない。
私さえ正常な結婚をしたら、弟も正しい人生を歩んで行ける。
少なくても、私と二人だけの世界に閉じこもることはなくなる。
弟にとっても、愛のない結婚でも、私と二人きりでいるより、どれだけ豊かな人生を送れるだろう。
「弟」の男らしい背中を、愛情を込めて撫でた。素肌に唇で触れて、「弟」を味わう。
「弟」が私に触れて、キスを加えていく。
私の、愛しい弟。
私の、大切な弟。
弟が、私におでこを合わせてほうっと熱い息を吐く。
「愛してる。」
甘くて、切ない、弟の告白。
ーーー私も、あなたを、愛してる。
弟は最後に私の望みを叶えてくれた。
大人の身体で裸で抱き合ったことを、私はずっと忘れない。
私は結婚して、彼に抱かれて子供を作り、幸せな家庭を築く。
弟も、いつか結婚して、女性を抱いて子供を産ませ、温かい家庭を築く。
とても普通に、普通の幸せを私たちは手に入れるのだ。
今は苦しいけれど、いつか幸せだと思える日がくるから。
私は、弟無しでは生きられない。
弟のいない人生なんて、考えられない。
だから、私は一時、弟にお別れをする。
あなただけしか見えない私では、彼に抱かれることができないから。
抱かれて子供を産んで、姉として人生を歩みたいから。
一晩、裸の弟の素肌に触れて、弟に抱き抱えられ、私は満ち足りた気持ちになった。
裸だからこそ、私たちは、性的な、先のことを自制した。自制した分だけ熱が身体にたまり、触れ合うところから溶けていくような心地がした。
私たちは姉弟だから、越えてはいけない境界を強く自覚して守らなければならない。
歳をとったときに、こんなこともあったねと、笑い合える日を迎えるために、私たちは間違いのない姉と弟でいることを選んだ。
弟を、愛している。
彼を、大切にしたい。
母とは方法が違うけれど、私もまた、二人の男性と人生を歩もうとしている。
私は弟への想いが強い分、結婚相手となる彼に、強い愛情を向けるだろう。
世間で通常の人を装って生きていくために、私は弟ではなく彼に愛情を傾けることで心のバランスを保つ。
弟も、きっと、結婚相手に愛情を傾けるだろう。
それが弟の幸せに繋がるのだから、喜ばしいことなのだと、私は諦めている。
仕方がない。私と弟は、どうにもならない。私は姉だから、弟に決して女性として愛してもらえない。
私たちは、将来のために、今の幸せを捨てようとしていた。




