41 弟 15
姉と僕は、そういう関係になる一歩手前まできていた。
姉がどういうつもりで僕を受け入れようとしているのか僕にはわからないけれど、僕が欲しいという気持ちは伝わってくる。
僕の18歳の誕生日に、姉は彼と別れた。
「『好きなのは弟で、他人を好きにならない』と彼に言った」ときいて、僕は姉が彼を信頼し、きちんと好きになったのだと理解せざるおえなかった。
姉が本心を告げてまで遠ざけた相手だ。彼は姉の信頼と愛情を勝ち取るだけのことを積み上げてきたのだろう。
結婚の話が出るくらい真剣な付き合いだったのではないかと探ってみたら、その通りだった。
僕は観念した。
この人を逃したら、姉は一生結婚しないかもしれない。姉は僕と不毛な関係を続け、誰にも言えない関係に苦悩し続ける。
どうにか状況を打開したいけれど、いい方法が思い浮かばない。
そんなときに彼の妹という女性が僕のところに来てくれた。
その日、僕は姉に添い寝して一晩中起きていたので、姉が起きてから少し寝た。起きてから目を覚ますためにシャワーを浴びてバスルームを出ると、インターフォンが鳴った。
人物を確認すると、怪しげな様子の女性が紙に書いた物を見せている。
姉の付き合っていた人の妹?
別れた理由を知りたいから会いに来たらしい。
本当に彼の妹かどうかわからないが、突破口を探していたので、念のため会うことにした。
玄関のインターフォンでもう一度確認すると、二人もいた。僕が用事があるのは彼の妹だけなので、言外にそういうと、一人帰って行った。
彼の妹という人は見た目にこだわらないようで、僕にまとわり付くどの女の子とも違う女性だった。
兄好きという特徴を持っている変わった女性で、姉と僕のことも好意的に見てくれているようだ。
この女性だったら僕にまとわり付くことなく上手に距離を保ってくれそうなので、僕は彼の妹と協力して姉と彼のよりを戻し、ついでに結婚させることにした。
彼の妹に僕の連絡先を教え、外にいる僕を見張っている人たちがこの女性を害さないよう、証明として一筆書いてあげた。
姉は夕方に友達との外出から帰って来ると、着替えてから僕の部屋に来て、最近の姉の居場所である僕の膝の上に横に座った。
「今日、何かあった?」
姉は時々ぼけたのことを言うけれど、勘は鋭い。僕の首に腕を巻いて、僕の目を見て姉がきいてきた。
僕は姉さんの目を真っすぐ見て、姉に僕の計画の一部を話した。
「あなたは、それでいいのね?」
姉が僕を悲しそうに見る。
僕は計画を壊したい衝動を抑え、姉の望み通り、弟になろうとする。
「姉さんの、最初の計画通りになるよ。」
姉が、軽く目を見開いた。
「あの女性、姉さんは、どう思う?」
僕は姉の希望を叶えたい。僕は姉に挑むようにきいた。
姉は僕の目をじっと見て、僕の心を読もうとしている。
「本気なのね。」
姉が顔を強張らせて言った。
僕は姉さんの頭を撫でた。
「正しい方法で、幸せになるんでしょ?」
僕が姉の信条を言うと、姉は顔を歪ませた。
姉は顔を歪ませたまま目を閉じて、下を向いた。
「あなたは、幸せになれるの?」
姉が僕を心配するので、僕の体温を伝えて安心させたくて、姉を僕の肩に寄り掛からせた。姉の柔らかい身体が、僕に身を任せるようにくっつく。
「姉さんは、兄さんが、不幸だったと思う?」
「お兄ちゃん?」
「以前はわからなかったけれど、今なら兄さんの気持ちが少しわかる気がするんだ。」
僕は姉の背中に流れる髪を触りながら話していく。
「僕は、姉さんの弟として、一生を終えたい。姉さんを、幸せにしたいんだ。
僕との関係では、姉さんが不幸になる。
姉さんが結婚に踏みきれないなら、僕が先に結婚するよ。」
「愛してない相手と、結婚するの?」
僕の首にしがみついて姉の顔は見えない。震えた声で言うので、僕は姉を元気付けたくて、事実を言った。
「愛は、これから育むよ。姉さんたちみたいに。」
「でも!」
姉が身体を離して僕に言いかけて、勢いを無くしてうなだれた。
僕は愛しい姉の顔の輪郭を指で撫で、あごを持って、姉の唇ではなく頬にキスをした。姉の耳元にささやく。
「僕を信じて任せて。」
姉が嫌々ながら従うという風に、小さく頷いた。
僕は姉の頭をゆっくり撫でた。
姉は僕より5つも歳上だ。姉は愚鈍ではない。僕よりも先に、僕たちの関係に未来がないことに気づいて、対処していた。
姉が、僕を何よりも大切に思っていることを、僕はよく知っている。未来のない道に僕を引きずり込むよりも、苦しくても二人に未来のある道を選ぶ、英断できる人だということも知っている。
その準備を怠る人ではないのだから、姉が選んだ人にはそれなりのわけがあるはずなのだ。
僕は姉を信じている。姉の考えを信じているし、姉の人を見る目も信じている。だから後は、僕への想いに志を曇らせた姉に代わって、僕が姉の計画通りに実行するだけだ。
僕は、僕の手元からいなくなってしまう愛しい姉に優しく触れた。姉はわずかな接触からも感じてしまうことに恥いるように、僕に視線を合わせず顔を赤らめる。
この人は僕の姉だけど、姉という言葉では足りないくらい、僕の大切な人だ。
姉の肌はとても甘くて、甘さが増した今、一度食べ出したら最後まで求めてしまうだろう。だから今の僕は、姉に口づけることができない。
現の世界で姉を食べることをやめられなくなったら、僕は弟を名乗ることができなくなる。姉も同様に、僕の姉ではなくなる。
姉と弟ではない血の繋がった関係を、何と言えばいいのか? そんなものは存在しないのだ。存在してはいけない関係性を持たないよう、僕は姉の魅力にあらがった。




