39 妹 2
ブックマーク登録、ありがとうございます!
お兄ちゃんの大学の学祭後、私は友達に質問責めにされた。
友達が見せたスマホの写真には、「彼女」の綺麗な弟くんと一緒に、私の姿が写り込んでいる。
決してモブではない立ち位置の写真に、私は嫌な予感がした。
「私の情報網で回ってきた写真よ。どうして、あなたが彼と一緒に映っているのかな?」
友達の笑顔が怖いと感じたのは初めてだ。
私は当日何があったのか、撮影前後のことを詳しく言わされた。
「つまり、あなたのお兄さんが、彼のお姉様とお付き合いしている関係で、写真に写ったということね?」
「はい、そうです。」
友達の尋問紛いの雰囲気にのまれ、丁寧語を話す。
ううう、友達なのに、怖い! 私、悪くないもん!
「いつ、付き合っていると知ったのかな?」
友達は、まだ笑顔だ。
「その日、その時です。」
保身のための少しの嘘くらい、許されるよね?!
そもそも、お兄ちゃんの「彼女」の弟くんが、友達が目をぎらぎらさせて入れあげている人物だなんて、本当に知らなかったのよ?!
付き合っていると前もって知っていても、友達の弟くんにまで結び付かない!
でも、友達は理論を超えたところで私を責めてきそうなので、少しだけ、そう、後ろめたくない程度の、軽い嘘をついたのだ。
「それで。連絡交換した?」
「え?」
「していないの?!」
友達が、どんどんヒートアップしていく。
「大事でしょ!連絡先!せっかくの正当なチャンスなのに!」
いえ、私、ファンではないし。第一、弟くんは年下だし。あんな、きらきらしたのは、私の範疇ではない。私の好みは、私のお兄ちゃんのような、渋くてカッコイイひとなのよ!
私は友達に文句を言われたけれど、関係ないので心あらずだった。
どーでもいいことは、興味ない。
ちょっと気になることといえば、麗しの姉弟愛くらいだけれど、本当にそんなものが存在するとは思っているほど私の頭はお花畑になっていない。二次元と現実の区別くらい、私だってできるよ。
ところが、だ。この連絡先を交換しなかったことを、今、猛烈に後悔している。
お兄ちゃんはその後も彼女と付き合いを続け、もうこれは結婚するな、と私も覚悟を決めていた。
それが、修士過程に入った年の秋に、お兄ちゃんは実家に帰ってきても部屋にこもるようになった。
何をきいても答えてくれなかったけれど、11月初旬の連休にお父さんと家でお酒を飲んで、酔ったお兄ちゃんが私に泣きながら彼女と別れた、と辛そうに言った。
なんで? 仲良かったのに?
私がお兄ちゃんに詳細をきいても、ちっとも教えてくれなかった。
滅多に泣かないお兄ちゃんが泣くなんて、よっぽどのことだ。
私は「彼女」の姿を思い出し、いらついた。
もしかして、私のお兄ちゃんが捨てられた?! そんなこと、許せない!
彼女に会っていっぺん怒鳴ってやりたくて、連絡先を知らないことに苛立った。
お兄ちゃんにきいても無駄だろう。兄は落ち込むときは、とことん落ち込む。
兄のスマホの情報を勝手に見てもいいけれど、後でわかったら嫌われてしまう。
悩んだ末、友達に連絡をとった。私には、友達の情報網に頼るしか他に方法がなかった。
「それでそれで? 私に何をききたいのかな?」
弟さんのファンである友達とバイトの前にカフェで待ち合わせして、サンドイッチと飲み物をおごった。地味に痛い出費だ。
友達とは高校卒業後、別々の大学に進学したけれど、たまに連絡を取り合って遊んでいる。
友達はそこそこ機嫌よく、私の質問に答える気になっているようだ。
「お兄ちゃんの彼女の、連絡先を知りたいの。」
「またどうして?お兄さんに直接きけばいいのに。」
私のお願いに、友達は当然のことを言ったのだけれど、私はまだるっこかった。
手短に、お兄ちゃんが彼女と別れて落ち込んでいること、別れた理由を知りたいから連絡先を知りたいことを伝えた。
彼女を怒鳴り付けたい、という理由は自分の身の安全を考えて、弟くんのファンである友達に言わなかった。
友達は最近、弟くんのことに関して苛烈になっていきている。のめり込み過ぎだ。友達として、普通の彼氏を作った方が幸せになれると忠告すべきか、悩むところだ。彼氏の一人もいない私は返り討ちに遭いそうなので意見しないのが正しい身の処し方だと思い、言いたいことを飲み込む。
「ふむ。一応、筋は通っているね。」
友達が、ニンマリ笑う。
「仕方がない。正当な理由がないといけないのだけれど、特別に家の住所を教えてあげよう。」
「え?メアドか電話番号でいいよ?」
友達の言葉に私が家まで知らなくていいと思って言うと、友達があきれたように私を見る。
「そんなの、連絡したって拒否されるに決まっているでしょ。あの家、ストーカー対策万全よ。顔と身元をきちんと明かさないと、会話すらできないわよ。」
そういうものなのか?
「次の休日、何の予定もないから、付き合ってあげてもいいわよ。」
友達は、とってもにこやかに、私に提案した。
私は一人で行くのは心許ないので、二つ返事でお願いした。
休日、友達と一緒に元彼女の家に行った。
友達は、元彼女の自宅の最寄駅まではとっても元気だった。いつになくオシャレして、とても綺麗なのに、家が近くなってくるとぎくしゃくし始めた。
「どうしたの?」
私がきくと、彼女は引きつった笑顔を見せて逆にきいてきた。
「視線を感じない?」
私は何も感じないけれど?
私の顔から友達は私の言いたいことを理解してくれた。
「彼の家の周辺は、コアなファンが交替で見張っているのよ。」
私は驚いて、次にドン引いた。
やり過ぎでしょ!
「大丈夫。ファンクラブの幹部に事前連絡は入れてあるわ。」
彼女は自分に言い聞かせるように私に教えてくれたけれど、弟くんのファンが本気過ぎで怖い。
元彼女の自宅マンションに着く頃、友達は精神的に疲弊していた。
高台の低層マンションのエントランスで部屋番号を入力し、家の人が出てくれるのを待つ。
ここで友達は、普通の訪問では決してしないことをした。大きな手提げを持っていると思っていたら、そこからクリアファイルに入ったA3サイズくらいの大きな紙を取り出して顔の下に両手で持ったのだ。ついでに、私と友達の学生証もカメラに写るように見せた。
待つことたっぷり一分ほど。
『どうぞ。』
男の人の声がして、エントランスのドアが開いた。
私が中に入ってすぐに友達に今の謎の行動について質問した。この家の人は、普通に訪問しても、まず出てくれないそうだ。しかも、私たちは面識がない。だから、家に行くときは前もって紙に身元と用件を書くのが、ファンの間での常識だとか。
なんだそれ。実に面倒だ。お兄ちゃん、そんな面倒な家の人と付き合っていたのか!
私たちは植林されているマンションの中庭をガラスごしに見ながら、奥まったところにあるドアの前に立った。
マンションの建物の中に入って以降、友達の様子がおかしい。普通にしていればそこそこ美人で通るのに、顔が強張って、ちょっと変だ。
ドア横のインターフォンを押すと、男の人が出てくれた。
『はい。』
インターフォンに向かって、ここでも友達が同じことをした。友達が私にも学生証を出させて、二人別々にカメラに見せた。
『用事があるのは、二人とも?』
「いえ、わ、私はここで、帰りましゅ。」
友達は緊張しているのか、語尾がおかしい。
え、ここまできたのに、帰っちゃうの?
友達は機械でできたモノのようにくるりと向きをかえて、そのまま本当に帰っていってしまった。
友達の姿が見えなくなると、玄関が開いた。ドアを開けてくれた男の人は、濡れた前髪をかきあげて私に声をかけた。
「どうぞ、上がって。」
私は口を少し開けたまま、彼の姿に見惚れていた。




