26 弟 11
母さんのいる部屋を出てリビングに戻ると、兄さんがソファーに座って本を読んでいた。
僕が声をかける前に兄さんが気づいて、本に栞を挟んで閉じた。
「なんかいいことあった?」
いつもの兄さんが明るくきいてくる。
「僕は以前、姉ちゃんとのことを言ったときに、父さんと母さんと兄さん、それぞれに、『不毛だ』、『ほどほどに』、『頑張って耐えて』って言われた。
だから、姉ちゃんとのことを、『不毛』な関係だから、『ほどほどに』好きになって、『頑張って耐え』ないといけないと思っていたんだ。
でも、母さんは、『不毛』な関係だけど、『ほどほどに』『頑張って耐え』ながら、幸せになる道を探せばいい、って言ってくれた。」
兄さんは複雑な顔をした。
「それは、彼女の立場だから言えるんだ。私なら、こう表現する。
『不毛』な関係でも、『ほどほど』の幸せを求めて、『頑張って耐え』て、今を過ごす。」
僕は兄さんをまじまじと見た。
「兄さんは、今でも苦しいの?」
兄さんは僕を見ている。微かに微笑んで、答えてくれた。
「これが、私が出した答えだ。」
兄さんは苦しくても、母さんのそばにいることを選んだ。
「兄さんは、本当に、幸せなの?」
兄さんは、例の、近寄り難い雰囲気を醸し出して、僕に笑顔を見せた。
「私が、不幸に見える?」
僕は硬直した。
僕は覚悟が足りなかった。
兄さんの言葉は、父さんと母さんと兄さんの三人の過去が壮絶なものだったと、僕に悟らせるのに十分だった。
安易に触れてはならないのだ。
「自分の幸せは、自分で決められるんだ。お姉ちゃんの幸せも、お姉ちゃんだけが決められる。
でも、頑張らないといけないよ。特に、君はまだ若い。女性の魅力に惹かれやすい。」
兄さんは僕に馴染みのある、優しく力強い目で、僕を応援するように見ている。
「お姉ちゃんを傷つけないようにするんだよ。」
僕は姉ちゃんとの関係を、やめられなくなっていた。
いつか、どこかの時点で、区切りをつけないといけないと理解している。僕が誰かに恋できればいいのだけれど、姉ちゃんの他に好きになれそうな人は現れてくれない。
姉ちゃんが笑うと、僕は嬉しかった。
姉ちゃんが怒ると、僕はなだめてあやしてあげた。
姉ちゃんが悲しんでいると、僕は一緒に悲しんで話を聞いた。
姉ちゃんが楽しんでいると、僕は幸せな気分になった。
僕は重度のシスコンなのだと思うことにした。
僕は姉ちゃんの弟だから。
お守り代わりの言葉を僕は何度も心の中で繰り返した。
姉ちゃんの甘い身体に固執するのも、僕がシスコンだからだ。
姉ちゃんが僕を求めるよりも多く、僕は罪悪感に苛まれながらも姉ちゃんを求めた。
姉ちゃんは僕に執着していた。
僕に塾の女子からの連絡が入ると知ると、姉ちゃんは毎回僕に詰め寄って質問し、激しいキスをした。
僕を独占したがる姉ちゃんが可愛い。
頭を撫でてあげると、上目遣いになって、「あなたは弟よね?」ときいてきた。
こんなに可愛いと、もっと欲しいと思ってしまい、困ってしまう。
この人は、僕の姉ちゃんだ。
僕が手に入れてはいけない人なのだ。
欲しいものを前にして手をださいないでいることは、とてもきつかった。
母さんは、姉ちゃんを妊娠させなければ二人のことを僕に任せるというふうに言っていた。僕は姉ちゃんとの関係をどうするか決めるまで、姉ちゃんの心に刻むような決定的なことをすべきではないと思っている。
姉ちゃんから離れずに、姉ちゃんと恋人まがいのことをしながら、姉の記憶に残る決定的なことをしない。
僕は嫌になるほど自制心を鍛えなければならなかった。
毎年バレンタインデーは、大変な日だ。
僕の、女の子に対する恐怖は、毎年この日にピークを迎える。
愛らしい顔の彼女たちを、何がせき立てているのか?
顔で笑っていても、女子たちが固まって僕をちらちら見ながら何かを話している様を見て、僕は逃げたくなるほど悪い予感がした。
待ち伏せも、郵送チョコも、手渡しプレゼントも、もう十分だ。
僕は、一人、大切な人がいればいい。
高校1年生の2月、家に帰ると、姉ちゃんがチョコレートのケーキを僕にくれた。
ハートの形をしている。
「僕が、好き?」
僕が嬉しくてきくと、姉ちゃんは僕の唇にそっとキスをした。
僕は姉ちゃんが作ったチョコレートケーキをさっそく一口食べ、その口で、姉ちゃんに甘いキスをした。
「美味しい?」
「とっても。」
姉ちゃんが尋ねるので、僕は極上の唇について感想を言った。
姉ちゃんが喜んでいる。
僕は姉ちゃんにケーキを一口食べさせて、その口を食べた。
甘く、チョコレートテイストの極上の口をたっぷりもらい、バレンタインデーも悪くないと思った。
翌月のホワイトデーには、姉ちゃんにアイスクリームを食べさせてあげた。
僕の膝の上で姉ちゃんにアイスクリームを食べさせて、僕は姉ちゃんの口にあるアイスクリームが溶けきる前にキスをして、僕もアイスクリームを味わった。
恥じらう姉ちゃんを、僕はますます欲しくなり、姉ちゃんの胸に服の上から触れた。
姉ちゃんと目が合う。
僕は胸を撫でたけれど、姉ちゃんが拒否しない。
手の甲で姉ちゃんの顔を撫で、首筋を指先でくすぐっていると、姉ちゃんが切なげなため息を出して首を仰向かせた。
僕は姉ちゃんを床に寝かせて、姉ちゃんの首を舐めた。
姉ちゃんが喘ぐ。
煽られて、僕はさらに姉ちゃんが欲しくなった。
これは、いけない徴候だ。
僕は慌てて姉ちゃんを抱きしめた。
僕は、姉ちゃんの、弟だ。
何をしても、その事実から抜け出せれない。
夜中、僕は姉ちゃんの部屋を訪れ、寝ている姉ちゃんにいつものように触れた。
意識のある姉ちゃんには、手を出せない。
僕は姉ちゃんの弟なのに姉ちゃんの男になりたくて、この矛盾した状況に苛立ち、意識のない姉ちゃんに僕の欲望を全部受け入れさせたくて仕方がなかった。
姉ちゃんは僕がどれだけ欲望にまみれているか、気づきやしない。姉ちゃんが僕をコントロールしているとでも思っているのだろう。
僕は聖人ではないので、差し出された欲しいものを、ただ戻すなんてことはしない。
姉ちゃんが僕の心を求めるように、僕も姉ちゃんの心と身体を欲しがっている。
僕は昼間見た姉ちゃんの肢体を思い出しながら、薄暗闇で寝ている姉ちゃんに触れていく。
我ながら卑怯な行為だと思う。
罪悪感が募っていく。
姉は深く眠っている。
起きている姉に到底できない行為をし、僕の劣情を少しだけ満たす。
姉ちゃんは何も知らない。
知らないほうがいい。
弟が本当に姉に欲情するという事実を、姉ちゃんが喜んで受け入れたがっていると思わない。
姉ちゃんが欲しいのは、僕の甘いキスと優しい接触。
これだけ心身が育っていたらそれだけで済むはずがないのに、ないものねだりをする姉ちゃんの意向にそって、僕は姉の弟でいようと努力していた。




