25 弟 10
兄さんの言ってることは、僕には難しかった。
僕は母さんを追い出す形にしてしまったことに良心の呵責を覚えて、母さんのいる部屋をノックした。
母さんが返事をしたので、僕はドアを開けて、部屋に入っていいかきいた。
入室の許可を得て、僕は初めて母さんの部屋に入った。
そもそも、僕は下の階に、来ること自体がない。物心がつく頃に来たことがあったようなのだが、特に覚えがなかった。
部屋に、二人掛けのソファーと小さなテーブルと、他には女性の小物が飾ってある。
「おいで。」
母さんは、ノートパソコンのデータ処理をしていたようだ。ノートパソコンをしまって、僕を自分の横に招いた。
「さっきはごめんなさい。」
僕は母さんに謝った。僕は自分が反抗期だと自覚している。気分の上下が激しくて、自分をコントロールしにくい。
家族に対して悪いと反省したときには、後を引きずることなく素直に謝ることにしている。
母さんは、僕を抱きしめた。
母さんに抱きしめられるなんて、いつぶりだろう。嫌ではないので、されるままにしておく。
母さんは、僕の頬にキスした。
さすがに驚いて、身体が動く。
「家族だから、頬へのキスくらい、私たちの前でお姉ちゃんにしてもいいのよ。
家の外でキスしたら問題だと言われるかもしれないけれど、家の中なら構わないわ。」
母さんは、笑顔で僕に話す。
あれは、僕に対する当てつけではなかった?
僕は母さんを見ていた。
「お姉ちゃんのことが、好き?」
僕は頷いた。
「どんなふうに好き?」
どんなふうに?
「他人だったら、恋人にしたい? 結婚したい?」
僕は少し考えた。
姉ちゃんと、したい。これは、性欲の対象、というだけの意味なのか?
「わからない。でも、姉ちゃんが好きだということは確かだよ。」
こんなこと、答えになっていない。これが今の僕の精一杯だ。
母さんは、少し考えている。
「18歳。」
僕に視線を合わせ、母さんが話し出した。
「成人年齢の、18歳になるまでに、お姉ちゃんとどうなりたいか、決めなさい。それまで、お姉ちゃんを妊娠させたらダメよ。」
僕は母さんの正気を疑った。
普通、姉弟が不適切な関係にあったら、親は叱るはずだ。
それなのに、母さんは、妊娠させなければよし、としている。
「止めないの?!」
僕は理解できず、母さんにきいた。
「何を?」
母さんは、不思議そうに僕に尋ねた。
「僕が姉ちゃんを妊娠させるようなことしても、いいの?!」
「だから、妊娠はダメだって言ったでしょ?」
会話がかみ合っていない。僕は言い方を変えることにした。
「姉ちゃんと、恋人のようになってもいいの?」
母さんは、きょとんとしている。
「だって、止めたって、無駄でしょ。したければするでしょうし、ダメだと思ったら、しなければいいわ。」
「それって、僕のことを信頼しているということ?」
「もちろんよ。あなたは、お姉ちゃんが大好きだから、本当にお姉ちゃんが嫌がることをしないわ。優しいから女の子を傷つけないし。
それに、あなたは性格がお父さんそっくりだもの。たまに、止まらないこともあるけれど、意志の強い人よ。」
母さんが父さんを想ってうっとりしだす。親の夜の営みについては知りたくないので、後半の内容は記憶から削除しておく。
「母さんは、姉ちゃんが結婚しなくてもいいの?」
僕が一番気にしていることを、母さんにきいた。
「好きにすればいいわ。結婚という形が幸せかどうかなんて、人それぞれでしょ。あなたもそうよ。」
母さんが僕を優しい目で見ている。
「誰を好きでも構わない。今も、これからも、幸せでいなさい。後悔しないように。」
僕は母さんの愛情を感じていた。
「『不毛』な関係だから、『ほどほどに』好きになって、『頑張って耐え』るって意味ではなかったんだね。」
僕の言葉に、母さんが怪訝な顔で答えた。
「『不毛』な関係だけど、『ほどほどに』『頑張って耐え』ながら、幸せになる道を探せばいいのよ。」
そういう考え方もあるのか。
僕は母さんの内面の素晴らしさを知った。
父さんは、こういう母さんに惹かれたのか。




